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繊維製品のリサイクルが加速 繊維選別で分光が活躍

2023.06.02 | 

環境政策を先進的に進めているヨーロッパで『持続可能な循環型繊維戦略』が発表されました。
この戦略は、衣料品や布製品などの繊維製品の素材調達・設計・製造・リサイクル・廃棄に至るまでのライフサイクル全体を通じて、環境への影響を最小限に抑えて経済的・社会的利益を最大化するためのものです。

その中でも「繊維製品のリサイクルに関しての技術開発」は国家プロジェクトとして推進されており、今後、日本でも同様に循環システムの構築や技術開発が必要になると言われています。

本記事では、繊維製品のリサイクルの流れと、そこで重要になる繊維製品の選別手法に関して紹介していきます。

繊維製品のリサイクルの流れ

繊維製品は、他の材料と同様に回収から始まり、選別、再資源化、製品開発、販売という流れでリサイクルされます。

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- 衣料品・布製品の回収

衣類リサイクル_ステップ1_回収

リサイクル品の原料となる衣料品や布製品を回収します。
衣類を回収するサービスや衣類展でのリサイクルボックスなどがでの回収が行われていますが、国民生活センターによる推計では34%とまだまだ低く、衣料品の回収率を上げることが課題です。

- 繊維の選別

衣類リサイクル_ステップ2_選別

原料として使用できる繊維ごとに選別します。
衣料品・布製品を効率的に選別する技術や、複数の繊維が含まれた製品の高度な識別技術が求められます。

専門家が見た目、質感、重さなどで分別することもありますが、近年では自動化のニーズの高まりにより、新赤外分光を用いた科学的な選別が注目されています。

- 再資源化

衣類リサイクル_ステップ3_再資源化

繊維のリサイクルは単一素材が前提なので、繊維以外を分離し、不純物を除去したのち、繊維をシュレッダーなどで解体し再形成を行います。
また、必要に応じて、着色や防水加工なども行われます。

分離・除去工程では、効率化や省エネ化が課題となっています。

- 繊維製品の製品開発

衣類リサイクル_ステップ4_製品化

再資源化された繊維を使った衣料品・布製品を開発します。
リサイクルした繊維を用いた衣類は、単一の繊維原料で作るなど、リサイクルし易く機能性の高い製品であることが求められています。

- 販売

衣類リサイクル_ステップ5_販売

リサイクルで作られた衣料品・布製品を販売します。
衣料品・布製品の購買を促進するための訴求や仕組みが重要です。


「衣料品・布製品の回収」「繊維製品の製品開発」「販売」に関しては消費者への環境配慮への訴求や企業へ働きかける法律・制度の策定などにより解決することができますが、「繊維の選別」と「再資源化」に関しては選別や再資源化工程の技術そのものの革新が求められます。

日本には高機能な繊維の開発技術を有する企業があるため、再利用可能な繊維の開発が進んでいますが、一方で衣料品・布製品を回収したあとの選別技術に関しては十分な開発が滞っているのが現状です。

繊維の選別方法

前述した繊維のリサイクルの循環の中で重要となる繊維の選別ですが、一般的には、手作業での仕分けが行われているという状況にあります。
回収された繊維製品は選別業者が繊維の外観、タグ、手触りなどを基準に繊維原料、ウエス、フェルト等の用途ごとに選別しています。
目視選別は、外観や手触りなど詳細に繊維をチェックすることができるため高品質の繊維を選別することができるメリットがある一方で、ヒューマンエラー発生のリスクや選別効率が悪いというデメリットがあります。

また、ファッションの多様化により複雑な繊維や混紡などが増えているため、目視での選別は困難になりつつあります。

光を使った繊維の選別

そのような背景から、回収された衣料品や布製品に光を当て透過または反射する光の波長を読み取ることで、繊維の色や種類を判別することができる”近赤外分光法が注目されています。

textile-recycling-by-nir-spectrometor.jpg

近赤外分光法は、測定する物体に近赤外線を照射し、その反射した光や透過した光を測定することで、物体に吸収された光から様々なことを分析する手法です。
近赤外分光に関して詳しく知りたい方は、以下の記事をご確認ください。

近赤外分光法とは

- 近赤外分光法のメリット

近赤外分光法には以下のようなメリットがあります。

  • 近赤外線の波長領域では、繊維の種類ごとに固有の吸収スペクトルが存在するため、見た目で判別が難しい材料でも正確に判別することが可能
  • 近赤外分光によるスペクトル取得とスペクトル解析は一瞬で結果を得られるため、瞬時に材料の判別が可能

これにより、従来の目視による繊維の選別の課題であった”ヒューマンエラーの発生”や”時間がかかる”という問題を解決することが可能です。

近赤外分光による繊維の選別の実験例

実際に近赤外分光器を用いて繊維の選別を行った結果をご紹介します。

まず実験に用意した繊維は、ポリウレタン、レーヨン、ポリエステル、ポリエステル85%+ナイロン15%、コットンの5種類で、色はどれも白色なので見分けることは比較的困難です。

textile-recycling-image-experiment-1.jpg

近赤外のスペクトルの測定には、Spectral Engines社の小型分光センサー”NIRONE”を使用しました。
”NIRONE”には取得できる波長がことなる4つのモデルがあります。今回は、繊維の選別を行う際に使用する波長帯を含む以下の2つのモデルで実験を行っています。

  • NIRONE S2.0:波長範囲:1550〜1950nm
  • NIRONE S2.2:波長範囲:1750〜2150nm

小型近赤外分光器 NIRONE
\光源搭載だから素材に当てるだけでリアルタイム測定!/

NIRONEは、内蔵光源を持つ小型の近赤外分光器です。
近赤外分光により、見た目では判断の難しい”繊維、プラスティックの分別”や”水分量などの測定”が一瞬で実現します。

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- NIRONE S2.0による繊維の選別結果

以下に、「NIRONE S2.0(波長範囲:1550〜1950nm)」で測定した各繊維サンプルの反射スペクトルを紹介します。

同じ素材を3回ずつ測定した結果で、同一の繊維の場合には類似したスペクトルの形状になり、異なる繊維の場合には異なるスペクトルの形状になっていることがわかります。
このスペクトル取得結果から、スペクトルの形状で繊維を見分けることができそうであることがわかります。

textile-recycling-image-experiment-S20-1.jpg

さらに、統計解析の一般的な手法である多変量解析を用いて実際に選別ができるかを試しました。
得られたスペクトル波形を、KAX Group社の多変量解析ソフトウエア「Vektor Direktor」を使用して、主成分分析(PCA)を実施した結果を以下に示します。
主成分によって表されるスコアプロット上の異なる位置に各繊維がプロットされていることから、繊維の選別することが可能と判断できます。

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主成分分析(PCA)とは

主成分分析は、スペクトルデータのように多くの変数を持つデータを、データの特徴を示す主成分(軸)としてまとめる分析方法です。
この方法を使用すると複雑で膨大なデータを数個の軸に要約して、データを分類しやすくすることができます。

- NIRONE S2.2による繊維の選別結果

このグラフはNIRONE S2.2(波長範囲:1750〜2150nm)で測定した、各サンプルの反射スペクトルを表しています。
測定箇所などの条件の差によりY軸方向(スペクトル強度)にバラつきがありますが、波形の形状には繊維の原料ごとに共通した特徴が見られます。

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このスペクトルデータについても「Vektor Direktor」を使用し、主成分分析(PCA)を実施したところ、NIRONE S2.0で取得したデータと同様に繊維原料の異なるサンプルは主線分によって表されるスコアプロット上で異なる位置にプロットされていました。
つまり、波長範囲1750~2150nmから読み取れるスペクトルデータからもサンプルの選別することが可能であることがわかります。

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- NIRONE による繊維の選別結果まとめ

今回、近赤外領域の反射スペクトルを読み取り、PCA解析を行うことで、繊維を選別できることを確認しました。
近赤外分光器を装置と組み合わせることで簡易化・自動化することが可能です。

今回の実験では、サンプルの状態に揃えるなど、厳密な測定条件を整えていませんが、実際には、測定サンプル数を増やしてデータを解析する必要があります。

近赤外分光による繊維の選別の実例

最後に、繊維選別の実例に関して、北西ヨーロッパ諸国を中心とした国家プロジェクト「Fibersort」をご紹介します。
「Fibersort」は、近赤外分光器とRGBカメラを使用して、”赤外スペクトル”と”目で見る色”の両方のデータを考慮して繊維の種類を自動で判別する技術を開発しており、「繊維の選別」を簡易化・自動化することで、選別作業者の負担を減らし高品質な選別を実現しています。

繊維製品のリサイクルと選別のまとめ

ヨーロッパでは、繊維製品のリサイクルに関わる取り組みが始まっています。
ただし、繊維のリサイクル工程において、特に「選別」工程は、目視に頼っていることから、リサイクルの中でも負担が重く課題となっています。

そこで今回、「選別」工程の自動化のための技術革新として注目されている”近赤外分光”を紹介しました。

近赤外分光は、近赤外光の波長毎の光強度を読み取り、主成分分析をすることで繊維を選別することが可能です。

日本でもヨーロッパに続き積極的なリサイクルによる資源の循環システムの構築が期待されており、このような技術が必要になることは間違いありません。
近赤外分光に関して詳しく知りたい方は、ケイエルブイにお問い合わせください。

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