近赤外分光センサー・中赤外分光センサー・
遠赤外線センサーそれぞれの活躍フィールド
2019.05.14 | 中赤外分光センサー, 近赤外分光センサー, 遠赤外線センサー
赤外領域の波長には、波長域ごとにそれぞれ名前が別れています。
近赤外線・中赤外線・遠赤外線といった、それぞれの領域の光を測定するセンサーとして、近赤外分光センサー・中赤外分光センサー・遠赤外線センサーがあります。
今回の記事では、近赤外分光センサー・中赤外分光センサー・遠赤外線センサーの特徴と、それぞれの活用分野についてお話します。
それでは、まずは近赤外分光センサーから見ていきましょう。
近赤外分光センサーの特徴
近赤外分光センサーには「近赤外分光法」という測定法が用いられています。
近赤外分光法は、英語ではnear‐infrared spectroscopyと表記され、これを省略してNIRSと言うこともあります。
近赤外分光法の特徴
- 波長域:780nm-2500nm
- 対象を「非破壊」で測定できる
- 応用範囲が幅広い
- 現場での測定に向いている
可視光域の端(780nm)から、中赤外域の手前(2500nm)を測定範囲としています。
― 対象を「非破壊」で測定できる
近赤外線には次のような特徴があります。
- ほとんどが吸収されず、物体を透過する(透過性が高い)
- 中・遠赤外線に比べて光のエネルギーが低い
近赤外線はこのような性質を持ち合わせているため、近赤外分光法では対象を非破壊で測定できます。
― 応用範囲が幅広い
近赤外分光法はかつて農業・食品といった分野を中心に活用されてきましたが、今日では農業・食品を始め、工業、医療など幅広い分野で用いられています。
このように広い分野展開が可能なのは、近赤外分光法が測定対象の状態を選ばないという点も関係しています。
近赤外分光法は、個体、粉体、繊維、ペースト、液体、溶液、期待など様々な状態にある試料に適用することができる。また、いろいろな形や厚さの試料に用いることができる。
──下記、参考文献より引用
その中でも特に水溶液の測定に強みがあります。
近赤外分光法は、中赤外分光法に比べ、多彩な溶液を容易に測定できます。
参考文献
尾崎幸洋 2015『近赤外分光法』(講談社)
近赤外分光センサーの活用分野
近赤外分光法の特徴としてもう一つ「現場での測定に向いている」という性質があります。 迅速に結果を得たい場合、近赤外分光法は有用です。
そのため近年、生産・品質管理の場で注目を浴びています。
近赤外分光法は、食品、化学原料、農作物、医薬品など、幅広い分野で、含有成分の予測に使われています。
現場レベルにおいては、原料の品質の均一化や、食品の非破壊分析の研究で用いられています。
こちらは、近赤外分光法を用いた「近赤外分光センサー」です。
現場でリアルタイムに食品分析
成分予測から劣化測定まで可能になります
2つの内蔵光源を持ち、小型かつ頑丈な近赤外分光アプリケーションモジュールです。工業環境に完全対応しており、食品業界や農業、 製薬、その他の市場の生産ラインの組み込み用として最適です。
近赤外分光センサ
NIRONE Sensor
中赤外分光センサーの特徴
中赤外分光センサーには「中赤外分光法」という測定法が用いられています。
分光の分野では「赤外分光法」と表現した場合は、「中赤外分光法」を指すことが多いです。
(「中赤外分光法」と区別する形で、「近赤外分光法」や「遠赤外分光法」と言われます。)
中赤外分光法の特徴
- 波長域:2500nm-25000nm(2.5μm-25μm)
- 化学物質の同定ができる
- 応用範囲が幅広い
中赤外域は値が大きいため、一般的にnm(ナノメートル)ではなくμm(マイクロメートル)で表記されます。
― 化学物質の同定ができる
化学の分野で同定とは、対象としている物質の種類を決定する行為を指す。
単純に表現すると、中赤外分光法で測定することで化学物質が何かを見分けることができます。
例えば、液体に不純物が混じっているケースでは、中赤外分光法が活用できます。 どんな不純物がどのぐらい混ざっているかを、中赤外分光方で判定できるため、品質管理やモニタリングなどで役立ちます。
― 応用範囲が幅広い
この点は、近赤外分光法と同様です。
食品分野から医療分野に至るまで幅広い分野で活用されています。
中赤外分光センサーの活用分野
中赤外分光法は、食品・農業、肥料、燃料分析、医療といった分野で活用されています。
中赤外分光法において、着目すべきは「物質の同定ができる」という点です。
先ほど「不純物の分析」を例にあげましたが、実は、車のエンジンオイルや、船舶のマリンエンジンオイル(潤滑油)の分析で、中赤外分光法を活用できます。
例えば、エンジンオイルに不純物が混じってしまった場合、中赤外分光法で「どんな不純物がどのぐらい混じったか」分析可能です。
のみならず「オイルの劣化」や「添加剤の枯渇」などのモニタリングもできます。
分子とその量を特定できる中赤外分光法だからこそ、こうした綿密な分析が可能になります。
中赤外分光法の活用分野は研究の発展とともに広がり続けています。
例えば、IoTで注目を集めている「スマートトイレ」と関連し、このような研究も進められています。
尾畑克哉, 井原豪太, 森敬太, 山本直幸, 川嶋なつみ, 王从涛, 北崎友哉, 西山成, 和田健司, 石丸伊知郎『中赤外分光法によるスマートトイレの実現を目指した超音波液体セルの提案』(最終閲覧日:2019年3月20日)
研究の中では、尿糖・尿蛋白のモニタリングが可能なスマートトイレの実現を目指し、中赤外分光法を用いた小型分光器を提案しています。
このように中赤外分光法は幅広い分野で活用されています。
エンジンオイルの品質管理
少量のオイルで正確な分析を行います
2~3mlのサンプルをフローセルに注入し、測定ボタンを押すだけで約30秒でサンプルのコンディションを知ることができます。 従来のような測定から結果までの期間や委託費用の問題も解決できるシステムです。
中赤外分光システム IR Sphinx ATR
全反射測定タイプ
こちらの製品は、スマートトイレに関する研究で使われたものではなく、実際に肥料・ガス・燃料分析といった現場で活躍している中赤外分光システムです。
遠赤外センサーの特徴
遠赤外センサーは、中赤外線(25μm)のさらに外側の領域の波長を感知します。
遠赤外線は文字通り、可視光から「遠」い赤外線ですので、英語でも「Far-infrared(FIR)」と表現されます。
特徴
- 波長域:4μm-1000μm(1mm)
- 温度の測定に強みがある
― 温度の測定に強みがある
例えば「遠赤外線ヒーター」といった商品を見たことがある方もいらっしゃるかと思います。
そのため、どことなく「遠赤外線=あたたかい」という印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
遠赤外線を取り扱う製品の効能についてはここでは言及しませんが、「遠赤外線=あたたかい」というイメージは間違っていません。
実際、特殊な環境でない限り、高い温度のものほど遠赤外線を照射します。
つまり、遠赤外線を測定することで物体の温度を測定できます。
この原理を応用したものがサーモグラフィーです。
サーモグラフィーは、人間や動物、建築物などから発せられる遠赤外線をデータとして分析し、熱の分布を画像・映像で現すことで「温度」を可視化します。
遠赤外センサーの活用分野
遠赤外センサーは、近・中赤外分光法に比べ、それほど応用の範囲は広くありません。
しかし「温度」を分析できるのは遠赤外センサーのみです。
温度というと、例えば「人体検知」に有用です。
人の発する遠赤外線をキャッチする「遠赤外線センサー」が様々な製品に組み込まれています。
- 泥棒の侵入を感知するセキュリティセンサーとして作動している
- エアコンの人感センサーとして機能している
- 放射温度計に組み込まれている
このように遠赤外線センサーは「温度を測定できる」という点が強みを活かし、様々な製品に組み込まれ、広い用途で使われています。
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