【船舶燃料におけるSOx規制】
規制値「0.5%」の実現に役立つ測定器が登場
2019.05.14 | SOx規制, 中赤外分光器
2020年1月から、「海洋汚染条約(MARPOL条約)」により、燃料油の成分濃度の規制(SOx規制)が強化されます。
船舶からの排気ガス中の硫黄酸化物(SOx)や粒子状物質(PM)による人の健康や環境への悪影響を低減するため、海洋汚染防止条約(MARPOL条約)により、燃料油中の硫黄分濃度が世界的に規制されています(SOx規制)。さらに、この規制値は、2020年1月以降、現行の3.50%以下から0.50%以下に強化されることが決まっています。
2020年船舶SOx規制の統一的な実施のためのガイドライン策定に着手~国際海事機関
第5回汚染防止・対応小委員会の審議結果について~(最終確認日:2019/4/24)
海洋汚染の防止の取り組みの一環として、進められているSOx規制。
規制項目は次の通りです。
- 硫黄酸化物(SOx)
- 粒子状物質(PM)
当該規制は、一般海域(ECA海域を除く)における全ての船に適応されるため、規制開始の2020年に向けて船舶業界は対応を急いでいます。
SOx規制値の推移
2005年5月19日の「MARPOL条約附属書VI」発行以降、SOx規制の規制は段階的に進められてきました。
2011年以前は、4.5%。
2012年1月以降から「3.5%」と定められ、現在に至ります。
2020年1月以降は、硫黄分濃度の規制値は「0.5%」以下。
つまり、現在の7分の1にまで規制されます。

一般海域における燃料油の硫黄分濃度規制値
なぜ規制されるのか?
硫黄酸化物(SOx)は、ディーゼル機関において、燃料に含まれる硫黄分が燃焼することによって発生します。
SOxが大気中に排出されることによって、
- 呼吸疾患(ぜん息、気管支炎)を引き起こす
- 酸性雨による環境汚染
これらの問題が引き起こされます。
例えば、高度経済成長期(1955〜1973年)。
四大公害病に数えられる「四日市ぜんそく」は、大気中に排出された硫酸ミストが原因で起こりました。
硫酸ミスト
硫酸ミスト(りゅうさんミスト)とは、スモッグ中に含まれる霧状の硫酸である。工場などから排出された亜硫酸ガス(二酸化硫黄ガス)が大気中に存在する水分に溶けて亜硫酸となり、さらにオキシダントにより酸化されることによって生成する。
Wikipediaより引用
また上述の通り、SOxの排出は呼吸問題だけでなく、酸性雨も引き起こします。
SOxが大気中で酸化すると、硫酸(H2SO4)となり、これが酸性雨の原因の一つとなります。
しばしばSOx規制は「燃料規制」と表現されますが、SOxの「排出規制」でもあります。
SOxが大気中に排出されることにより、人体や環境に影響を及ぼします。
そのため、原因となるSOxの規制を強化し、排出の削減へと動いています。
SOx規制がビジネスチャンスに
SOxの排出抑制へ向けて、船舶市場は大きな転換点にあります。
SOx規制を「燃料等のコスト増による負担増」と捉える向きもあれば、他方で「ビジネスチャンス」と考える動きもあります。
何故「ビジネスチャンス」となるのでしょうか。
それは、SOx規制によって新たな需要が生まれるからです。
上述の通り、SOxの規制は「排気ガスの規制」です。
つまり船舶を航行する上では排気ガス中のSOxを減らさねばならず、そのためには、
- 排気ガス浄化装置の組み込み(排気ガス中のSOxの浄化)
- 規制に適合する燃料油への変更(燃料油中のSOxを規制値「0.5%」とする)
どちらかの対応が必要になります。
これによって、浄化装置及び適合油への需要が発生するため、これを取り込むことが、ビジネスチャンスへと繋がるのです。
規制値「0.5%」へ適合する燃料油
規制に準じる一つの方法として「排気ガス洗浄装置(スクラバー)の設置」がありますが、今回は「燃料油」に焦点を当ててお話しいたします。
2019年3月29日、国土交通省から「2020年SOx規制適合舶用燃料油使用手引書」が発行されました。
こちらの手引書によると「石油元売各社は、高硫黄C重油(HSC重油)に代わる燃料油として、新たに硫黄分が0.5質量%以下のLSC重油を製造・販売する」(手引書より引用)としています。

「2020年SOx規制適合舶用燃料油使用手引書 図2-1」を参考に作成
燃料油の品質試験に活用できる測定器が登場
硫黄分の低い「低硫黄燃料油」の開発・試験に役立つ「SOx含有量を現場で測定できる装置」をご紹介します。
こちらが、SOx測定が可能な「中赤外分光システム」です。
平たく言うと「赤外線を照射することで燃料油内の成分含有量を測定する装置」です。
この製品の画期的な点は、「可搬性が高く現場での測定が可能」ということ。
通常、こうした製品は「中赤外分光器」と呼ばれていますが、通常の中赤外分光器は研究室等、室内で使用される装置でした。
そのため、現場でサンプルを採取したとしても、研究室でしか測定できないため、タイムラグが生じるといった事態も発生していました。
しかし「中赤外分光システム」であれば、
- サイズ:165×74×35mm
- 重量:750g
のため、現場への持ち出しが可能です。

測定方法もシンプルで、サンプルをスポイト等で装置に乗せるだけで、SOxを測定できます。
可搬性の高い装置でのスムーズな測定で、燃料油の開発や試験がますます進歩することと思われます。
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