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本記事では、「分光分析におけるスペクトル測定のコツ」で紹介した全反射測定法(ATR法)について解説します。
全反射測定法(ATR法)は、サンプル表面で全反射する光を検出することによって吸収スペクトルを測定する方法です。
原子・分子によって特定の吸収波長を持つので、全反射の際にサンプル表面で吸収されたスペクトルを解析することで、「物質の判別」や「物質の成分量」を測定することが可能です。
全反射測定法は、表面が滑らかな固体、粉体、液体(水溶液)を測定する事が可能なため、オイルの劣化やゴムの劣化など幅広い分野で使用されています。
ダイヤモンドやゲルマニウムなどの素材でできた赤外線を透過するプリズムとサンプルを密着させると、プリズム内を透過する赤外光はクリスタルとサンプルの接地面で全反射します。
この時、赤外線の光はプリズムとサンプルの界面からサンプル内部へ数µm程度もぐり込みため(滲みだ出し)、その光がサンプルに吸収されます。
このサンプル側へもぐり込む光のことを「エバネッセント光(またはエバネッセント波)」と呼びます。
この時のエバネッセント光の潜り込みの深さは、波長(λ)、プリズムの屈折率(n1)、材料の屈折率(n2)、入射角(θ)より以下で求めることができます。
よって、入射角と屈折率を変える(プリズムの材質を変える)ことで潜り込みの量を調節することができます。
全反射測定法の測定時はプリズムとサンプルを接触させるだけなので、他の表面分析手法よりも簡単にスペクトル取得ができます。 また、片づける際にはプリズムからサンプルを取り除き表面を拭くだけですので手入れも簡単です。
透過法でスペクトルを測定すると、サンプルに厚みがある場合や吸光度の高いサンプルを測定する場合に十分な透過光が得られず測定が困難です。 全反射測定法はそれらのサンプルからも吸収スペクトルが得られるため、例えば黒いゴムなどのサンプルの測定にも適しています。
全反射測定法は、プリズム内の反射回数を増やすことやプリズムとサンプルの接触する面積を調節することで吸収スペクトルの強度を高くすることができます。 よって、一般的な赤外線の反射測定法よりも高い強度で吸収スペクトルを測定することが可能です。
全反射測定法においてサンプルをプリズムに密着させることが重要になります。 例えばサンプルとプリズムの間に気泡などの空間があると、その空間にある空気のスペクトルを測定してしまう恐れがあります。 サンプルの表面に凸凹がある場合や粉体を測定する場合は、しっかりと密着しなければなりません。
あまりに強い圧力をかけてサンプルを圧着するとプリズムの表面が傷ついてしまう恐れがあります。 プリズム表面が傷つくとスペクトル測定の精度・再現性が失われます。プリズムの結晶材料の物理的な強度に注意しなければなりません。
潤滑油やクーラントとして使用されるオイルは、温度の上昇や空気中に含まれる物質や金属と混ざることで徐々に劣化します。 この劣化が進行すると機械そのものの劣化や故障に繋がるため、オイルの交換時期を見極める必要があります。 オイルの劣化は、オイルに含まれる水分量や添加剤量から傾向を予測することができます。 これらの有機化合物は赤外領域の吸収スペクトルを測定することで見ることができ、全反射測定法(ATR法)はオイルをプリズムに塗布するだけで簡単に測定することができるためよく使用されています。
実際に全反射測定法の機器を用いてオイルの分析を行った記事はこちらから
→ 【実演】中赤外分光器によるエンジンオイルの測定・分析
自動車のタイヤや防振ゴムなどに使用されているゴムには、耐久性を上げるためにカーボンブラック(炭素の微粒子)が含まれています。
ゴムの成分や劣化を分析する上で赤外分光法は有効な手段ですが、カーボンブラックが含まれているゴムは薄いサンプルだとしても赤外光をほとんど吸収・散乱してしまうため、透過法での測定は困難です。
ATR法は拡散反射法よりも高い感度で測定できることからゴムのスペクトル測定に選ばれています。 全反射測定法(ATR法)を使用する場合、カーボンブラックの含有量に応じて適切なプリズムの材質(屈折率)を選ぶことが重要です。
IR Sphinx ATRシリーズは全反射測定法(ATR法)を用いた中赤外スペクトルの測定・解析まで行うことが可能な中赤外分光器です。小型で持ち運びもできるため、現場でモニタリングを行う事が可能です。 製品詳細
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