目視による色検査は、色見本サンプルのみで始めることが可能ですが、余程慣れない限り、実際の印刷物や製品のボディ色の微妙な違いを目視で見分けるのは困難です。
また、色ムラの場合には広範囲に渡って微妙な濃淡を見分ける必要がある点や、原版作成時の色抜けに関してはその後の波及範囲が大きいため厳格な確認が必要である点から、熟達した検査者が必要になってきます。
色検査とは。色検査の種類と手法をわかりやすく解説
2023.01.26 |
色検査とは
色検査は、製造現場や研究所など多くの現場で行われている検査工程のひとつで、製品や研究の品質を担保することを目的に、色ムラ、色抜け、色の違いの検出を実施することを指します。
現状は、多くの企業で目視での検査が採用されていますが、「検査人材の減少」や「複数人で検査をおこなうことによる結果のばらつき」などの問題があるため、「色検査の定量化」への関心が高まっています。
本記事では、色検査に関して、色検査の種類、分光技術などを用いた定量的な色検査の方法(メリット・デメリット)などを解説します。
色検査の種類
色検査の種類には、「色ムラ」、「色抜け」、「色の違い」の3つがあります。
以下に、それぞれの内容について紹介します。
色ムラ
色が均一であるべきところに部分的に不均等な状態があることを「色ムラ」と言います。
塗装や印刷された製品において、色の均一性は見た目だけでなく塗膜の防水機能など性能面でも非常に重要です。
色ムラは、温度条件や塗料の乾燥時間によって発生することが多いため、原料の品質管理や、製造プロセスの最適化により防ぐ努力がなされます。
それでも発生してしまう色ムラに関しては、早期に色検査で検出し、対策を講じることが求められます。
色抜け
あるべきところに色がでていない状態を「色抜け」と言います。
例えば、印刷業界においてはCMYKの4色の原版を作成し、それを順に刷っていくことでフルカラーが完成します。
この時、原版作成時の液のインク切れや、液の不安定な吐出が原因で「色抜け」が発生してしまいます。
いち早く、これらの問題に気づくためにも色検査が重要になります。
色違い
指定の色と、色相、彩度、明度の差がある状態を「色違い」と言います。
車などの商品の色やロゴなどのデザインの色は、統一された指定の色で厳密に管理されています。
アメリカのPANTONEや大日本印刷社のDICなどといった色見本が存在し、使用したい色を指定することで認識の不一致がなくなります。
色違いの検査は、指定の色と現物の色の比較によって行います。
ここからは、これらの色検査を行う方法に関して紹介していきます。
目視による色検査の手法と問題点
従来から使われてきたのが、指定された色見本サンプルを用意と実際の製品を目視で確認し、許容範囲に収まっているかどうかを判断するという手法です。
このように目視による色検査は緻密な検査になればなるほど、検査のできる人材が限られてしまい作業時間の限度や、年齢や体調によって評価にバラつきがでてしまうという問題があります。
そこで、重要になってくるのが色の定量化です。
色検査の定量化の要素とメリット
色検査の定量化とは
例えば、人は同じ「赤」の色を見ても「鮮やかな赤」、「くすんだ赤」、「濃い赤」など人によって表現は様々です。
また、それらの差は、人の感覚や体調だけではなく、照明などの環境によっても発生するので、色検査において目視で定量的な検査をすることは非常に難しいことです。
色検査の定量化で重要な3つの要素
色の定量化では、色を数値で表すために、色相(色合い)、明度(明るさ)、彩度(鮮やかさ)の3つの要素を用います。まずは、これらの要素について解説していきます。
色相
色相は「赤」「青」「緑」などといった人間の目に見える色味の違いを指します。
主要な赤、黄、緑、青、紫の5色にその中間の色を加えて連続的に変化させ表現します。
これらの色を円形状のモデル上に配置したものを”色相環”といい、隣接した色が似た色相を持っている
明度
明度は明るさの度合を指します。
明度は光の反射率に関係し、例えば黄色は反射率が高いため明度が高く、青は反射率が低いため明度が低くなります。
明度が高くなれば白に近づき、低くなれば黒に近づきます。
彩度
彩度は色の鮮やかさを指します。
彩度が高いほど鮮やかで鮮明な色になり、彩度が低いほどくすみがかったような濁った色になります。
無彩色と言われる白や黒は明度のみで表わすことができます。
そして、これら3つの要素を相対的な位置関係で定義づけ表現する方法として、表色系という体系が存在します。
最も多く使用される表色系がL*a*b*色空間です。
L*a*b*色空間は、色や光の国際基準を作成・運用している国際照明委員会(CIE)が制定したもので、明度である”L*”と色相と彩度を示す色度を”a*b*”で数値化します。
色検査の定量化によるメリット
個々の感覚によって左右されていた色の曖昧さをなくし、色検査を機械で数値化することで以下のようなメリットがあります。
- 熟練した職人など限定された人材が行なっていた検査内容と同等のことが誰でも可能になる。
- 見逃しなどのヒューマンエラーを削減することが可能
- 色検査にかかる時間を短縮することが可能
色検査の定量化の手法
色検査で使用する測定器の種類
色検査を定量化するにあたり、測定器を用いるのが一般的であり、代表的なものに「色彩計」、「分光測色計」、「カメラ」、「スペクトルカメラ」の4つがあります。
まずは、4つの機器の違いを大きく以下4項目で表しました。
色彩計 | 分光測色計 | カメラ | ハイパースペクトルカメラ | |
---|---|---|---|---|
測定領域 | 点 | 点 | 面 | 面 |
波長領域 | 可視 | 可視 | 可視 | 可視+近赤外 |
取得バンド数 | 3 | 30~50 | 3 | 100~200 |
精度 | △ | 〇 | △ | 〇 |
コスト | ◎ | 〇 | 〇 | △ |
測定領域
”測定領域”については、撮影対象の特性分布にムラがない場合は分光測色計での「分光器で一点のみ撮影」で十分ですが、ムラがある場合はカメラやハイパースペクトルカメラでの「対象物全体(面)で撮影」といった使い分けが適切です。
波長領域
”波長領域”については、「分光測色計やカメラで測定できる波長範囲は“400~740nm“とされています。一方ハイパースペクトルカメラは400~2500nmと広い波長情報を取得するものが多くあります。
取得バンド数
”取得バンド数”については、分光測色計は10nm毎の波長間隔、色彩計とカメラはRGBの3バンド、ハイパースペクトルカメラは100~200バンド以上のバンド情報を取得することが可能です。バンド数が多くなるほど精度は高くなり、より細かい情報を取得します。
精度
”精度”については、取得バンド数でも述べた「3波長(3色)で測定するか」、「分光により数十波長(多色)で測定するか」の違いがあります。
数十波長で測定した方が検査できる色の範囲が広くなる事や、照明などの環境の影響も軽減されるなど、バンド数が細かいほど精度は高くなります。
コスト
”コスト”については、「精度の面では、3波長より、数十波長で測定する方がコストが高く」、「領域の面では、点より、面で測定する方がコストが高く」なります。
よって、色検査においては、必ずしも精度や領域が優れている測定器を選択するのではなく、必要最低限の”精度”や”領域”を考慮して手法を選択する必要があります。
色検査で使用する測定器の詳細
ここからは、それぞれの簡単な仕組みを交えて各機器をもう少し詳細にご紹介していきます。
色彩計
色彩計は、光源、RGBのフィルター、フォトディテクター(フォトダイオード)を一体化した測定器で、ポイントに対する「赤」、「緑」、「青」の強度から色を判定します。
人間の色を認識する仕組みと同じ、「赤」、「緑」、「青」の3色を使用するので、見た目の違いと一致しやすく、非常に安価な測定器である点が魅力です。
ただし、高い彩度をもつ色や金属など反射の大きい材料の場合に正しく測定できない場合があり、注意が必要です。
分光測色計
分光測色計は、光源と分光器を一体化した測定器で、ポイントに対する反射型のスペクトル分析を利用した方法です。
光源から出力した光を積分球を使用してサンプルとの間で均一に分散させたうで、分光器でスペクトルを測定します。そして、測定したスペクトルから正確なLab値を算出します。
Lab値を使用することで、色と色の微妙な違いをΔEという形で定量的に測定することができるため、色検査におけるOK/NGの判断が容易です。
カメラ
カメラは、2次元にRGBのフィルターとフォトディテクターが配置されているため、色彩計の測定結果と同等の「赤」、「緑」、「青」の強度を画像として捉えることが可能です。
特に、インク飛びなどの印刷の色抜けや、色ムラなどは、点での測定では限界があるため、短時間で大量の検査が可能になるカメラは非常に有効な手段となります。
画像として得たデータは、ノイズ除去やエッジの抽出などさまざまな画像処理を加えることが可能なため、点でデータを取得した場合よりも後処理での複雑な判定が可能になる点もカメラの強みです。
一方で、色彩計のように光源が用意されていないため、2次元での光源のばらつきを考慮した上で、ユーザーが光源を用意しなければならない点や、測定して得られたRGBの値などをプログラム等で解析する必要がある点には注意が必要です。
ハイパースペクトルカメラ
ハイパースペクトルカメラは2次元(画像)で分光スペクトルを取得できるカメラです。
カメラは、各画素で赤、緑、青の3波長の情報しか取得できませんが、ハイパースペクトルカメラは、各画素で数百バンド以上の波長情報を取得し数値化することが可能です。
測色計のようにピンポイントで測定するのではなく面で広範囲を測定するアプリケーションにはハイパースペクトルカメラが有効です。
ソフトウェアを使用し、ピクセル単位で何百もの波長データを見ることで、人間の目やRGBカメラでは区別のつかないような成分情報を分類し、定量的に分析できるようになります。また、物質ごとの反射光・吸収光の波長強度を見ることで物質を特定することも可能です。
一方光沢や鏡面塗装されている対象物は測定が難しいことや、対象物から離して測定するため正しい測定を行うための設計を行わなければならない課題があります
色検査のまとめ
製造現場や研究所で目視検査が進められる中で作業者の習熟度の依存や測定結果のばらつきが課題として多く取り上げられるようになってきました。
そこで今回は色検査の様々な種類と分光技術を用いた色検査方法についてご紹介をしました。分光技術を用いることで、工数の削減や測定の定量化を行うことができ、また人間の視力では物理的に不可能な僅かな傷や汚れの検査を行うなど検査の質の向上を図ることも可能になります。
測定器を使用すると下記のようなメリットがあげられます。
- 検査品質の安定化
- 検査効率の向上
- 検査人材の削減
ただし測定器の性能を生かすには特徴をよく理解し、対象物の特徴や検査工程をしっかり確認したうえでの導入が必要となります。
弊社では幅広い製品ラインナップを揃え、ご相談内容に合わせた提案をさせていただいております。実際にお試しいただくことも可能ですので、色検査についてお困りの方、ご不明点やデモ機のご要望は是非ケイエルブイまでお気軽にお問合せ下さい。
関連製品をご紹介
ご紹介した3つの測定器の製品をご紹介致します。
分光測色計 Spectro1
スペクトルから精度の高いLab値やRGB値など色情報を検出し、また2色の色の比較も可能です。
小型で持ち運びも容易なため、製造現場や品質管理など精度の高さが求められる用途に適しています。
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