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「プラスチックの選別」に革新!
近赤外分光がプラスチックのリサイクルに貢献

2021.12.23 | SDGs, リサイクル, 近赤外分光

プラスチックによる環境汚染が問題となる中、様々な企業や技術者・研究者たちが「プラスチックのリサイクル」に取り組んでいます。

プラスチックのリサイクル時には「選別」が欠かせません

「異物との選別」はもちろん、「プラスチックそれ自体の選別」も必要です。一括りにプラスチックといっても、ポリスチレン(PS)やポリプロピレン(PP)、アクリルなど様々な材料があるため、これらの混合物である廃プラスチックの再利用時には、特定の材料を取り出したり、分離する必要があります。

現状、PETボトルのリサイクル工程の選別(異物除去)は手作業で行われています[1]。
「プラスチックと異物との選別」には既に選別機が存在します。プラスチックそれ自体の選別(PSとPPの選別)技術も開発が進められ、水比重分離を利用した技術などが実用化されています[2]が、どれも「手軽さ」には欠けています。

異物の選別だけでなく「プラスチックそれ自体の選別や前処理」を「簡単かつ高精度に行う機械」があれば、人の手に頼らず、選別を自動化できるはずです。

このような「簡単に、素早く、正確な選別をしたい」「選別を自動化したい」というニーズに「近赤外分光」技術なら、応えられる可能性があります

特にSpectral Engines(スペクトラルエンジンズ)社の「近赤外分光センサー」は、プラスチックや繊維を判別できることから、プラスチックのリサイクルに革新をもたらすと考えられています。

\効率よく素材を特定/
プラスチック選別の自動化が実現します

分別したいものをデバイスに置くだけで、各樹脂の成分の波長をセンサーが検出、表示されます。 近赤外線を照射することにより非破壊で簡単に材質を特定することが可能です。

近赤外分光センサ
NIRONE Sensor

近赤外分光センサーを用いることで簡単に、素早く、正確な材料の判別が実現します。

実際にプラスチック材質判別装置に組み込まれて実用化されており、注目のセンサーです。

[1]参考:一般社団法人プラスチック循環利用協会「プラスチックリサイクルの基礎知識2021」(最終閲覧日:2021/12/16)
[2]参考:伊藤真由美、恒川昌美「廃プラスチック選別技術の動向」(最終閲覧日:2021/12/16)

そもそも近赤外分光って?

「近赤外分光」は耳慣れない言葉かと思いますが、こちらは長い間、産業用途、研究用途の分析で用いられてきた技術です。

食品・農作物の水分測定から、ガス、オイルの分析など幅広く活用されてきました。

近赤外分光では、食品や加工品の「水分量」を分析できるなど、「成分分析」に優れているため、材料によって異なる成分が用いられているプラスチックも選別が可能です。

分析には「赤外線」の一種である「近赤外線」を用います。

近赤外分光法では近赤外線を用いる

近赤外分光では、プラスチックや繊維など「材料を判別したい対象」へと「近赤外線」を照射します。

照射された近赤外線の一部が反射・透過します。
近赤外分光センサーは「対象から反射・透過した近赤外線」を測定することで成分を判別します。

近赤外分光プロセス

このように、対象に近赤外線を照射して、対象から反射した近赤外線をセンサーで測定し、分析する方法や技術を「近赤外分光法」と言います。

近赤外分光が可能な装置は「近赤外分光器」や「近赤外分光センサー」と呼ばれています。

近赤外分光とプラスチックの分析

では、近赤外分光が「プラスチックの選別」に、どのように貢献するのでしょうか?

ここでは「近赤外分光の原理」や「プラスチックのリサイクルの動向」に触れながら、プラスチックの分析について、3項目に分けて、具体的にお伝えします。

プラスチックの材質の判別

プラスティックの材質の判別は、「予め登録した各プラスティックの材質のスペクトル(光の波形)のデータ」と「読み取りセンサーで取得したスペクトルのデータ」を照合することで、どのプラスティックに該当するかを判別します。

近赤外分光を用いたプラスチック材質判別装置

つまり、近赤外分光では、対象に近赤外線を照射して、反射光や透過光を測定するだけで、目の前にあるプラスチックがポリスチレン(PS)でできているか、アクリル(PP)でできているかを判別できます

赤外線(近赤外線)は「光」なので、「光で物質を見分けられる」と聞くと何だか奇妙に思えるかもしれません。

実は、近赤外分光では「物質によって吸収する光が異なる」という特性を利用しています。

私たちの身の回りの物質は、光を吸収したり反射したり、透過したりしています。

例えば、リンゴは赤色に見えますが、これは「赤色の波長を持つ光」を反射しているためです。
レモンは「黄色の波長を持つ光」を反射して、それ以外の光を吸収したり、透過したりしているため「黄色」に見えます。

リンゴとレモンの反射光

リンゴとレモンの例から分かる通り、それぞれの物質によって「反射・透過・吸収する光」は異なります。これはプラスチックも同様です。

ポリスチレン(PS)とポリプロピレン(PP)では、それぞれ「反射・透過する光(=反射光・透過光)」と「吸収する光(=吸収光)」が違います。

近赤外分光では、このような「物質による吸収光の違い」を利用します。

例えば、Spectral Engines社の「近赤外分光センサー」は「1.55〜1.95μm」の近赤外線を照射します。

照射した光−(反射光・透過光)=吸収光

照射した光(1.55〜1.95μm)に対して、プラスチックからの反射光や透過光をセンサーで測定します。

照射した光−(反射光・透過光)=吸収光

ですので、「反射光・透過光」を測定することで吸収光(物質が吸収した光)がわかります。

このようなプロセスで吸収光を測定します。
そして「物質ごとに吸収する光は異なる」ため「吸収光」から、ポリスチレンやポリプロピレンなどの物質(=測定対象を構成する成分)を特定できます

合成繊維、天然繊維の選別

近赤外分光なら天然繊維と合成繊維を判別できるため、衣料品のリサイクルでも注目されています。

大手アパレル企業が店舗内に回収ボックスを設置して、消費者から不要になった衣服を回収し、新しい服や燃料・素材へとリサイクルする取り組みを始めたことからも分かる通り、特にファッション(アパレル)業界、繊維業界では「プラスチックのリサイクル」の動きが顕著に現れています。

衣料品に用いられる布地には、コットンやウールのような「天然繊維」とポリエステルなどの「合成繊維」があります。合成繊維には、ポリエステル、アクリル、ポリアミド(ナイロン)がありますが、これらは「ファイバー状のプラスチック」のためリサイクルが必要です。
他方で、コットンのような天然繊維とポリエステル(合成繊維)を組み合わせた、天然繊維と合成繊維の混合タイプも布地として用いられています。

リサイクルのためには、合成繊維、天然繊維を正しく判別する必要がありますが、Spectral Engines社の「近赤外分光センサー」なら、以下のように、各繊維の判別が可能です

  • ポリエステル
  • コットン
  • アクリル
  • ウール
  • ポリアミド
  • シルク
  • ビスコース
  • モーダル
  • リヨセル
  • ポリコットンブレンド

テキスタイルエクスチェンジ(TE)が2021年に公開したレポート[3]によると、2020年の世界の繊維生産のうち、合成繊維が全体の約62%を占めています。
合成繊維の内訳は、ポリエステルが約52%、ポリアミドが約5%、その他の合成繊維(ポリプロピレン、アクリル、エラスタン)が5.2%です。

天然繊維ではコットンが約24%と、ポリエステル(約52%)に次ぐ割合です。
合成繊維が幅を利かせていますが、コットンをはじめとする天然繊維も世界の繊維生産うち「約48%」を占めています。

こちらの割合からも見てとれる通り、衣料品のリサイクルには「合成繊維の判別」だけでなく「天然繊維の判別」も必要です。近赤外分光は合成繊維・天然繊維の判別が可能なため、衣料品のリサイクルに革新をもたらす技術として注目されています。

[3]参考:Textile Exchange「Textile Exchange Preferred Fiber and Materials Market Report 2021」(最終閲覧日:2021/12/16)

ポリプロピレン(PP)の劣化の非破壊測定

産業技術総合研究所の化学材料評価グループ、高分子化学グループ[4]が、近赤外光でポリプロピレンの劣化を診断する技術を開発しました。

ここからは、産業技術総合研究所の「光でプラスチックの劣化が診断可能に!?-近赤外光と機械学習による材料診断-」を参考に、ポリプロピレンの劣化診断についてご紹介します。(当ページでは要約した内容をご紹介させていただきますので、興味がありましたら、リンク先の記事で詳細をご覧ください。)

ポリプロピレン(PP)は合成樹脂の一種で、耐久性や透明度、耐薬品性に優れているという特性から自動車部品や建築材料を始め、フィルムや繊維など、幅広く使用されています。
ポリプロピレンは耐熱性が比較的高いとはいえ、プラスチックそれ自体は熱によって劣化しますし、他の要因によっても品質が変化します。

これまで、ポリプロピレンの劣化を評価する際には「破壊試験」が用いられていました。
平たく言えば、引張試験によって、試料となるポリプロピレンを機械によって引っ張り、試料を破断させることで劣化を診断する、という方法です。

こちらの方法の場合、測定対象であるポリプロピレンの「破壊」は免れません。
そのため、自動車や建材など、既に製品に組み込まれ、実際に使用されているポリプロピレン部品の品質や劣化の診断は、困難とされていました。

しかし「近赤外分光」による劣化診断の場合「非破壊」での測定が可能です

産業技術総合研究所は、ポリプロピレンの光の吸収を数秒間測定するだけで、その破断伸びを精度よく予測できる新しい診断技術を開発しました。
機械学習によって、従来の破壊試験で測定される「破断伸びのデータ」と近赤外分光で測定される「波長のデータ」をつなげる回帰係数を算出し、これによってポリプロピレンの劣化度を診断できます。

こちらの技術は「既製品のポリプロピレン(PP)の劣化診断」に新しい可能性を切り拓いただけでなく、リサイクル時のプラスチックの選別にも、大きな役割を果たす可能性を秘めています。

リサイクル時には「プラスチックそれ自体の選別」が必要、というのは上述の通りですが、プラスチックの選別には「劣化」も考慮しなければならない要素です。

プラスチックは素材が同じであっても、添加剤の影響により物性が異なる場合が多く、表面の劣化や汚れによっても、選別性に影響します[2]。
とりわけ、廃棄される旧製品の樹脂は劣化している[2]ため、非破壊でのポリプロピレン(PP)の劣化診断が、今後リサイクルでも活用できる技術となるかもしれません。

[4]各グループの構成は次の通りです。「化学材料評価グループ」は新澤英之主任研究員、水門潤治研究グループ長、古賀舞都研究員。「高分子化学グループ」は萩原英昭研究グループ長、渡邉亮太 主任研究員、山根 祥吾主任研究員。
[2]参考:伊藤真由美、恒川昌美「廃プラスチック選別技術の動向」(最終閲覧日:2021/12/16)

ハイパースペクトルカメラによるプラスチックの判別

これまで近赤外分光センサーによるプラスチックの分析について言及してきました。

ここでは「ハイパースペクトルカメラ」という特殊カメラを用いた「プラスチックの判別」についてご紹介します。

ハイパースペクトルカメラHySpex ClassicとハイパースペクトルカメラPika

プラスチックの判別が可能な「ハイパースペクトルカメラ」2製品

プラスチックの材質の判別

ハイパースペクトルカメラは、光を波長ごとに分光して撮影するカメラで、目視やRGBカメラで得られるよりも多くの情報が得られるため、近赤外分光センサーと同様に材質の異なるプラスチックを判別できます

こちらは「ハイパースペクトルカメラHySpex Classic」での撮影事例です。

ハイパースペクトルカメラによる5種類のプラスチックの判別

実はハイパースペクトルカメラによる分析も、上述した近赤外分光センサーと同じく「近赤外分光」技術の一部です。

ハイパースペクトルカメラも光を波長ごとに撮影できます。
そのため上述の通り「物質ごとの吸収光の違い」によって、材質の異なるプラスチックを見分けられます。

マイクロプラスチックの検出

近赤外分光は「マイクロプラスチックの検出」にも貢献できます。

近年、マイクロプラスチックによる海洋汚染が問題となっていますが、従来のニューストンネットと顕微鏡を用いた方法では「300µm以下」のマイクロプラスチックの検出は困難でした。
しかし国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)がハイパースペクトルカメラという特殊なカメラによる画像診断を用いて、様々なプラスチックを100µmの微小サイズまで簡便に高速で検出・分類できる手法を確立しました[5]。

ハイパースペクトルカメラPika

マイクロプラスチックの検出で使われたRESONON社のハイパースペクトルカメラPika

このように、ハイパースペクトルカメラによる近赤外分光分析によって、マイクロプラスチックの検出も可能です。

[5]国立研究開発法人海洋研究開発機構「マイクロプラスチックの高速な検出分類手法を確立―ハイパースペクトル画像診断技術を最適化、海水ろ過試料自動分析へ前進―」(最終閲覧日:2021/12/16)

近赤外分光とSDGs

近赤外分光はプラスチックの分析によって、持続可能な社会形成のための「SDGs」の環境項目や、廃棄物を一切排出しないことを目標とする「ゼロ・エミッション」の実現に貢献します。

これまで「プラスチックそれ自体の判別」を、簡単に、素早く、正確に行える技術はありませんでしたが、近赤外分光なら実現できます。
ポリスチレンやポリプロピレン、アクリルといったプラスチックや合成繊維、天然繊維の迅速な判別が可能なため、プラスチックのリサイクルを始め、マイクロプラスチックの検出といった用途での活躍が期待されます。

弊社(ケイエルブイ株式会社)では、これまで培った知見を活かし、近赤外分光×IoTメディアサイトを始め、各種WebコンテンツやWebセミナーで、近赤外分光にまつわる様々な情報発信を行ってきました。

近赤外分光器や近赤外分光センサーの販売に加え、製品を用いた研究・開発のご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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超小型 近赤外分光センサモジュール

超小型 近赤外分光センサモジュール

重さ15g、大きさ25×25×17mmの近赤外分光センサーです。プラスチックの材質判別を行う製品への組み込みに実績があります。
工業環境に完全対応しており、携帯機器として、また食品業界や農業、製薬、その他の市場の生産ラインの組み込み用として最適です。

製品詳細
ハイパースペクトルカメラ HySpex Classic

ハイパースペクトルカメラ HySpex Classic

高いS/N比、空間解像度、フレームレートを有するハイパースペクトルカメラです。
プラスチックの材質を選別できる、高性能な製品です。
撮影速度にも優れているため、ライン組み込みにも適合します。

製品詳細
ハイパースペクトルカメラ Pika

ハイパースペクトルカメラ Pika

マイクロプラスチックの判別技術の開発に用いられたハイパースペクトルカメラです。
小型・軽量・低価格で、様々な測定ニーズに対応できることから、国内でも異物検査、リモートセンシング、研究などの幅広い用途でご利用頂いております。

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