潤滑油の劣化診断3つの方法と
経済的に機器を長持ちさせるための対策
2021.04.15 |
潤滑油の適切な交換タイミングをどのように診断すればいいか、お困りではないでしょうか。
あらゆる製造機械や、車や船舶のエンジン、発電機のタービンなどには、必ずと言っていいほど潤滑油が使われています。
この潤滑油が劣化してしまうと、機械の性能が低下したり故障の原因にもなるため、なにか重大な問題が起こる前に、潤滑油を交換する必要があります。
しかし、潤滑油の交換には費用がかかるもの。
場合によっては多くの人手や、メンテナンス中の損害も考慮しなくてはいけません。
そのため「潤滑油の交換は、できるだけ必要最低限にしたい」というのが本音ではないでしょうか。
潤滑油の劣化ぐあいを診断し、適切なタイミングで潤滑油を交換することで、機器の故障や事故を未然に防ぐことができ、あらゆるコストを最小限に抑えることができます。
ここでは潤滑油の劣化状況を診断する3つの方法と、より経済的に機器を長持ちさせるための対策をご紹介します。
潤滑油が劣化・酸化しているか診断する3つの方法
製造機械や、車や船舶のエンジン、発電機のタービンなどの潤滑油が、劣化・酸化しているか診断する主流な方法は3つあります。
1.色での診断
2.誘導率・伝導率での診断
3.分光での診断
それぞれの方法とメリット・デメリットを解説していきます。
1.色での診断
潤滑油が劣化すると、異物が混入されることや酸化により、徐々に赤っぽく色が変わります。
潤滑油の劣化を色で診断するには、ASTM番号を基準にします。
利用される機器や潤滑油の種類によって、新品状態の色は異なります。
新品状態の潤滑油のASTM番号を基準にして2以上濃い色に変化していたら、おおよそ酸化劣化限界と言われています。
潤滑油を色で診断するメリットとデメリット
メリットは、色を見るだけで判断することができるため、あまり費用をかけずに、すぐ劣化状況を診断することができる点です。
逆にデメリットは正確な劣化の判断が難しいことです。
まず使われている潤滑油の新品状態の色を記憶しておく必要があります。
また、潤滑油は温度によって粘度や透明度が変化する場合もあり、ほぼ新品にも関わらず真っ黒に変化してしまう可能性もあります。
そのため、色で潤滑油の劣化酸化を正確に診断するには専用の測定器が必要になり、結果として予想外にコストがかかってしまうことがあります。
2.誘電率・導電率での診断
潤滑油が劣化する原因の多くは酸化物や鉄粉・すす・水分といった不純物です。
これらの物質は、いずれも誘電率が高いので、潤滑油の誘電率を測定することで、潤滑油が劣化しているかどうか診断することができます。
潤滑油を誘電率・導電率で診断するメリットとデメリット
誘電率・導電率による診断は、センサーを設置することが多いため、リアルタイムで潤滑油の状態を測定することができます。
そのため、潤滑油の異常をいち早く察知し、対策することができる点が優れています。
デメリットとしては、異常の各要因について測定することができないことがあげられます。
本来は潤滑油の劣化の原因を深く知ることにより、周辺の部品に起こっている異常も察知することができます。
しかし、誘電率・導電率による診断では、潤滑油の総合的な異常しか知ることができない場合が多いため、関連する様々な異常を察知することは難しいです。
3.分光での診断
分光での診断とは、中赤外分光法による診断のことです。
聞き慣れない言葉かと思いますが、ここ数年、潤滑油の劣化診断の新技術として注目を集めています。
赤外という文字が入っているように、赤外線を使ってあらゆる液体やガスの濃度を測定することができるもので、潤滑油を分子レベルで分析する方法です。
潤滑油を分光で診断するメリットとデメリット
分光による診断は、潤滑油を分子レベルで分析することができるため、正確な劣化状況を定量的に診断することができる点で優れています。
また、詳細なデータを取得し蓄積することで、過去に起こった不具合データと照らし合わせて総合的な機器のリスク管理をすることができます。
まさに製造機械や、車や船舶のエンジン、発電機のタービンにとっての血液検査のような位置づけになります。
デメリットとしては、高度な技術が用いられるため、研究機関や第三機関にに中赤外分光法による診断を委託する場合は「サンプリングから試験レポートを受け取るまでに時間がかかる(5日間程度)」、「毎回高額な費用がかかる」などの点があげられます。
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2~3mlのサンプルオイルをフローセルに注入し、測定ボタンを押すだけで、約30秒でオイルのコンディションを知ることができます。
従来の分光分析のデメリットであった期間や委託費用の問題などが解決できるシステムです。
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潤滑油が劣化・酸化してしまう原因
そもそもなぜ潤滑油は、劣化や酸化を起こしてしまうのでしょうか。
潤滑油の劣化や酸化について原因を知っておくと、機器の異常をより早く察知することができ、経済的に機器を保全することができるので、ここで少し触れておきます。
潤滑油には、金属同士をなめらかに接触させるはたらきや、燃料の燃えカスや不純物を取り除くはたらきがあります。
そのため、金属同士の摩耗により生じた鉄粉が混入したり、吸収した燃えカスが溜まってしまうことで汚染され、劣化が進んでいきます。
潤滑油が酸化するメカニズム
潤滑油が使われる製造機械や、車や船舶のエンジン、発電機のタービンでは、潤滑油はしばしば高温にさらされます。
このとき潤滑油に含まれる成分が、空気中の酸素と反応します。
すると、酸性物質やワニス、スラッジなどが生成されることで酸化が進みます。
このような酸化を防ぐために、酸化防止剤などが利用されることも多いですが、やはり機器が高温で稼働する環境下では劣化の進行を防ぐことは難しいとされています。
潤滑油が劣化・酸化してしまうと機器の故障や事故を招く
潤滑油が劣化することにより、起こりうるリスクには以下の3つがあげられます。
摩擦や摩耗による機器の劣化
部品の高温化
エンジンの汚損
摩擦や摩耗による機器の劣化
潤滑油はその名のとおり、金属同士がぶつかる部分の動きを潤滑にするはたらきがあります。
そのため、潤滑油が劣化してしまうことで金属部の摩擦・摩耗が激しくなり、消耗してしまいます。
オイルは交換すればいいものの、すり減ってしまった金属部品は、適合する部品と交換できなければ寿命が縮まる一方です。
部品の高温化
金属部の摩擦・摩耗が大きくなることで部品が高温化する恐れがあります。
部品が高温化すると、熱応力や熱疲労により部品の寿命が短くなるリスクや、人が触ってやけどしてしまうなどのリスクがあります。
そのような場合、もちろん製造機械やエンジン全体が使えなくなってしまうこともありますし、やけどなど怪我を負わせてしまった場合は労災扱いとなります。
エンジンの汚損
あらゆる機械の動力となるエンジンですが、劣化した潤滑油が使われることでエンジンの内部が汚れてしまいます。
エンジンは、燃料を気体に変えて圧縮することにより動力を得ています。
しかし、エンジンが汚損することで気化した燃料が漏れて圧縮されにくくなり、燃費が低下してしまいます。
エンジンの故障の原因にもなりますが、エンジンは機械の心臓のようなものなので、交換には莫大な費用がかかることが多く、ほぼ全とっかえになってしまうケースもあります。
潤滑油の劣化を防ぎ経済的に機器を長持ちさせるには
ここまで説明したように、劣化した潤滑油を使い続けると、あらゆる故障や事故のリスクが起こります。
かといってこまめに交換するのは、潤滑油だけでなく交換作業に関わる人手や委託費用、交換中に稼働停止する損害などあらゆるコストが発生してしまいます。
そのため、潤滑油の劣化を防ぎ、経済的に機器を長持ちさせるには、潤滑油の適切な交換タイミングを見極めることが最も大事です。
潤滑油の適切な交換タイミングを見極めるための診断方法を3つご紹介してきました。
それぞれメリット・デメリットがありますが、潤滑油を交換する目的はあくまで機械の保全です。
そのため、正確なオイル分析データをあらゆるリスク回避に応用できる中赤外分光法を弊社では推奨しています。
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