ガスセンサーの選び方【感度と速度とコストバランス】
2019.07.23 | NDIR式センサー, ガスセンサー, 量子カスケードレーザー(QCL)
産業用のガスセンサーは、工場における製造プロセスのモニタリングでの利用、研究設備での安全性の確保、現場の環境保全・管理の評価、危険性の高いガスを取り扱う装置に組み込んでの利用等、様々なシーンで用いられています。
活躍の場が多いガスセンサー。それだけに選定には気を遣うことでしょう。
用途目的により、選定の軸として、大まかに下記のように分類されます。
- 検出したいガスの種類
- ガスの検出下限
- 応答速度
- コスト
今回は、これら4つの観点から、ガスセンサーの選び方をご紹介いたします。
検出したいガスの種類
塩素、二酸化炭素といった一般的なガスから、シアン化水素のような猛毒まで、多様なガスに対応するセンサーが多数存在しています。 センサーは種類によって測定が得意なガス種が異なりますので、まずは「何を検出したいか」が肝心です。
例えば「排気ガス」から二酸化炭素(CO2)を検出したい場合を考えてみましょう。 一口に排気ガスといっても、排気ガスを構成する成分が全て二酸化炭素でできている、というわけではありません。
有機化合物に由来する排出ガスは大部分が二酸化炭素と水蒸気であるが、微量成分として他物質を含む。一酸化炭素 (CO)、炭化水素 (HC)、窒素酸化物 (NOx) あるいは粒子状物質 (PM) などである。
Wikipediaより引用
つまり、具体的な条件を整理すると「二酸化炭素と水蒸気で構成されている排気ガスから、二酸化炭素を検出したい」というように「何を検出したいか」を決定できます。
さて、ガスセンサーで検出したい成分が明確になったら、次は「センサー」の性能を見ていきます。 つまり「感度と速度とコストバランス」です。
- ガスの検出下限
- 応答速度
- コスト
感度、速度、コスト。
3つのバランスに配慮しながら、センサーを選定することで「目的」に沿ったセンサーを選ぶことができます。
ガスの検出下限
感度、速度、コスト。この中で「検出下限」が「感度」に該当します。
検出下限(LOD:Limit of Detection, Detection Limit)とは「検出できる最小量・最小値」を指します。
検出限界とも呼ばれます。
センサーの場合は「このセンサーはどの程度までの濃度のガスを検出できるのか」を示す値と考えてよいでしょう。
「検出できるガスの最小量・最小値」ですので、最小の値として「単位」で記載されます。
ガスの場合、検出限界は、次のような単位で示されます。
- パーセント(%)
- ppm:100万分の1
- ppbオーダー:10億分の1
「検出下限」と、先ほど触れた「検出したいガス」の情報を掛け合わせて考えます。
「検出したいガス」を「どこまで測定するかの最小値」を見ることで、必要なセンサーも絞られてきます。
%オーダーで良いのか、ppmオーダー(100万分の1)が必要なのか、 ppbオーダー(10億分の1)なのか、もしくは更に微量なオーダーなのか。
検出下限の設定は、センサーの目的・用途に適したものであることが肝心です。
近年のトレンドとして「微量のガスを検出する」というニーズが高まってきています。これは環境保全や危険な化学物質の管理に関する規制が強化されていることや、より製造プロセスの最適化が求められていることが背景にあります。
例えば、ガスセンサーは工業用の製造プロセスの管理にも用いられておりますが、製造プロセスおいて極低濃度のガスが処理を阻害してしまい、製品の品質低下や歩留まり率の低下(生産性の低下)に繋がる場合があります。
こうしたケースに対応するには、わずかなガスも検出できるガスセンサーが必要です。
つまり「検出下限」は、言い換えると、センサーの性能の高さと密接に関わる値とも言えます。
もちろん検出下限が低いセンサー(高感度)ほど、測定時間やガス種などの測定条件の制約があり、高価格になる傾向があります。
低感度のセンサーとしては焦電型センサーがあり、高感度なもので質量分析計があります。近年高感度なセンサーで注目されているものとして、QCL(量子カスケードレーザー)を用いたガスセンサーがあります。
応答速度
ごく簡単に述べると応答速度は「検出されたガスの状態が変化してから、出力されるまでの速さ」を示します。
さらに単純化すると「ガスをどのぐらい早く測定できるか」に尽きます。
一般的に、応答速度は、センサー及び、検出対象ガスによって異なります。
ガス検出の応答速度として数分程度要するものから、数秒程度で応答するものまで、方式により様々です。
例えば、研究目的で微量なガスの分析では主に質量分析計が使用されており、前処理を含み数十分から数時間かけて測定します。一方、製造プロセスや排出ガスのモニタリングでは、ガスの状態変化をリアルタイムで監視する必要があるため焦電センサーや赤外線分光法(NDIRやFTIR)などが使用され、数秒~数十秒の速度でガスを連続測定します。
コスト
当然ながらガスセンサーの選定において、コストは重要なファクターです。
これまで、検出対象ガス、センサーの感度、測定の速さという観点で見てきました。
ここにコストという条件を加えると、これまでご紹介した「ガス、感度、速度」までの条件によるトレードオフが生じることが一般的です。
代表的なガスセンサーの紹介
代表的なガスセンサーとして、次の4つが上げられます。
- 焦電センサー
- NDIR型ガスセンサー
- 量子カスケードレーザー(QCL)
- 質量分析計(ラボ用)
―ガスセンサーの種類
ガスセンサーついて詳しく解説!
ガスセンサーの種類と特徴を千葉大学 椎名先生が解説
ガスセンサーには、ガス吸引で測定する「半導体式、電気化学式・燃料電池式、接触燃焼式、赤外せん式(NDIR)」や遠隔で測定する「赤外線カメラ方式、光学式」などがあります。
そして、各方式にメリットデメリットがあるため、産業機器、自動車、家電などでガスを計測するにあたっては、各方式を理解した上で、目的に応じた最適なガスセンサーを選択する必要があります。
ケイエルブイでは、ガスセンサー選びに関する様々なコンテンツを提供しています。
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千葉大学の椎名先生が、ガスの濃度の単位や爆発限界などの基礎知識、各方式の原理・特徴を解説 無料Webセミナーを見るKLV大学センサーコース
ケイエルブイ大学では、ガスセンサーの種類や選び方に関してのコンテンツをご提供 KLV大学を見る―焦電センサ
温度の変化に応じて、自発分極をもつセラミック(PZT)の表面に帯電する電荷が増減する焦電効果を利用してガス検知・濃度測定をします。
ガス検知器などの特定の目的を達成する場合、最も小型でコストバランスが良いセンサーです。
ただし、センサー1個に対し検出できるガスの種類が少ないものが一般的とされています。また、ガス濃度を焦電効果から間接的に測定しますので低濃度ガスの検出には適しておりません。
―NDIR型ガスセンサ
メタン(CH4)、二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)を高安定に測定。
【Awite Bioenergie社】NDIR マルチガス赤外線センサー
ガスを構成する分子の赤外領域における固有吸収スペクトルを読み取ることでガス検出・濃度測定をします。
ガスに直接光を当てて測定を行うため、前処理は不要で焦電センサーよりも検出感度が高い点が特徴です。
検出できるガスの種類は限定されていますが、複数のガスの検出ができるため、工場などのモニタリングで使用されているなど、焦電センサーと比較し、高度な用途に対応できます。
赤外線スペクトルの検出が困難な分子(例えばO2やN2などの二原子分子)を測定する際には適さないため、他のガスセンサーと併用される場合があります。
―量子カスケードレーザー(QCL)
量子カスケードレーザーと光音響分光を基盤とする、小型の微量ガス分析計。
【MIRSENSE社】ガス分析計向け 検出モジュール
ガスを構成する分子の特定の吸収スペクトルをピンポイントで照射し、分子が振動した際に発生する音波を検知しガス測定を行います。
理論上ppb/pptオーダーの微量なガスを正確に検出することができると言われており、現在市場で注目されているガスセンサーです。
検出感度が高いことはもちろんですが、応答速度も速いためリアルタイムモニタリングに適しているという特徴があります。
ガスの高感度測定・高速測定の両方が求められるプロセス管理、毒性ガスの検知、パイプラインや石油プラントにおけるガスの漏出検知など、多数のアプリケーションに対応できます。
一方で、NDIRと同様に赤外線吸収スペクトルの検出が困難な分子には対応できず、また多数のガス種の同時測定には適しておりません。
―質量分析計(ラボ用)
サンプルをイオン化し、そのイオンを分離した上で検出することでガスの特定とその質量を計測します。ガス計測では一般的にガスクロマトグラフィー(GC)が使用されています。
ガス種や検出器の種類によってはpptオーダーの高感度なガス検出ができ、最も高性能なガスセンサーと言えます。
微量なガスの特定と量の測定が求められる環境・生命科学などの研究目的で用いられています。
当然ながら、価格もそのスペックに見合った高価格となっています。
また、ガス測定を行うにはサンプル前処理が必要になるため測定まで時間がかかります。測定後のガスを元の状態に戻し再利用することができないのでガスのモニタリング用途には不向きです。
おわりに
ガスセンサーを必要とする場合、対象を測定や検知、検出するための目的があります。
- 製造現場でのプロセス管理
- 毒性ガスの検知
- 漏出検知
- 研究用途における分析
それぞれの用途と照らし合わせ、測定対象、感度、速度、コスト、それぞれのバランスの取れた最適なガスセンサーを選ぶと良いでしょう。
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