電力設備におけるIoT
2020.05.29 | FBG, 光ファイバー
電力設備は社会のインフラであり、極めて重要な設備です。その電力設備が安定稼働するには保守/保全が欠かせません。
また2011年(平成23年)の東日本大震災による安全意識への高まりや、2016年の電力自由化による電気事業への参入規制が緩和される等、電力設備を取り巻く環境は変化しています。
社会情勢の変化に対応するため、東京電力、関西電力等、これまで発電設備を担ってきた企業が「コスト削減」へと乗り出しました。例えば東京電力は数年前より経営効率化とコスト削減に向けて、設備投資の見直し等を進めています。(参考リンク)
コストカットが進展する中、IoTによる設備不具合の予兆検知を導入する動きが加速しています。
しかしながら、電力設備という特性から、従来型のセンサーでは支障が生じ、導入に詰まる面もあると考えています。
今回、そのような「電力設備」のIoTならではの困り事について考察し、これらの課題を解消する注目の「光ファイバーセンサー」についてご紹介いたします。
IoTと電力分野の関わりについて
当記事で取り上げる「電力設備」とは主にとして発電、変電、送電と関わる設備を指していますが、コストカットを始め設備と関わる課題解消に向けてIoTが注目を集めています。
IoT(Internet of Things)とはモノのインターネットのことであり、様々なモノがインターネットに接続されることを指します。
産業界ではIoTにより、これまで人海戦術で行なっていた多数の無駄を削減しながら、かつ重大事故を予防するという新たな価値の創造が期待されています。
IoTの利点は?
モノがインターネットに接続される利点は「情報の蓄積」にあります。
例えば、稼働中の電力設備に何らかのセンサーを設置することで、センサーの情報を随時取得することができるようになります。
すると、センサーによって設備の温度やひずみの監視が可能になり、設備の状態を常に把握できるようになります。
これらは機器のモニタリングによる保守保全につながる他、もう一つの価値「コスト削減」を生み出す情報です。
単なる「監視・モニタリング」と「IoT」の違いはここにあります。
IoTは「モノのインターネット」。
つまりモノがインターネットを媒介として情報をやり取りできるようになるため「モノの状態・環境を伝える」だけでなく「経過データの取得」が可能になります。
これが上述したIoTの利点「情報の蓄積」です。
日々、設備のデータを蓄積していくことで「データの分析」が可能になります。
情報の分析によって今まで発見されていなかった隠れた無駄に気づいたり、ある時期やある条件下で故障リスクが高くなるといった保守保全に関わる傾向を導き出せたりします。
「データの分析」による「気づき」そして「改善」。
この仕組みこそがIoT化の最大のメリットです。
通常の「監視」や「モニタリング」の場合、異変の早期発見による安全性の向上が目的となるでしょう。
しかし、IoTの場合、監視・モニタリングと並行し、コスト削減や安全性の向上といった「新しい価値の想像」が実現します。
まずは「センサー」が必要
さて、IoTにおいては「データ分析」の元となる「データ」が必要です。例えば、日々の設備の温度をモニタリングし、変化をデータとして蓄積するためには「温度センサー」が必要です。
センサーはIoTにとってデータを集める「五感」となるためIoTにおいて大変重要になります。(IoTにおけるセンサーの重要性はこちらの記事で解説。)
- 設備の「温度」を知るためには「温度センサー」
- 設備の経年劣化による「歪み」を知るためには「ひずみセンサー」
- タービンをはじめとする回転体の「異常」を知るためには「音響センサー」
このように設備の状態と関わる情報を知りたい場合は、適したセンサーが必要になります。
電力設備分野で用いられるセンサーの種類
ここからは電力設備と関わる4つのセンサー(温度センサー、ひずみセンサー、音響センサー)について見ていきます。
温度センサー
例えば発電プラントにおける配管の温度を多点測定することで、異常の検知に役立てることができます。燃料を供給する配管から、蒸気を排出する配管まで、発電施設では温度センサーが役立ちます。
ひずみセンサー
火力発電所の伝熱管は、非常に高温となるため、亀裂が生じることがあります。その監視のためには温度のリアルタイム監視に加え、歪みを検知することが有効と考えられています。
音響センサー
タービンをはじめとする回転体は、異常が発生すると特定の周波数の音が強くなるなど音に何らかの変化が発生します。音響センサーで取得した音をフーリエ変換で周波数に分解するなどすると、異常を検知することが可能です。
電力設備の監視で注目される「光ファイバーセンサー」
コスト削減効果が期待される電力設備分野ではIoT化へ向けた取り組みが進んでいます。その実現には、人の五感に代わるもの、つまり「センサー」が重要です。
しかし「電力設備」ならではの課題もあります。
電力設備でIoTを導入する上で電磁波がネックに
電力設備は設備の特性上、電磁波の発生ポイントが多く存在します。
一般の温度センサー、ひずみセンサー、音響センサーでは電磁波の影響を受けるため「電磁ノイズ障害」の危険が付き纏います。
電磁ノイズ障害とは電磁波の干渉によって、機器が平常通りに動作しなくなることを指しますが「センサー」もまた電磁波の影響を受けるため、電磁ノイズ障害が起こり得ます。
こうした課題がある中、障害が起こりにくい「電磁波の影響を受けないセンサー」として、光ファイバーセンサーが注目を浴びています。
光ファイバーを使用したセンサーの特徴
光ファイバーセンサーは、名前の通り光ファイバーを用いたセンサーです。
一般の「電気式」のセンサーが電磁波などによる影響を受けやすいのは「電気」を用いているためです。
しかし、光ファイバーセンサーは測定に「光」を用いるため、電気式のように電磁波のある環境でも影響を受けず、正しくデータを測定することが可能です。
さらに、光ファイバーそれ自体は「ガラス」で構成されているため、「耐久性が強い(劣化しにくい)」という特徴があります。これは「メンテナンスコストの抑制」につながります。
例えば、金属等で構成されたセンサーは長年の負荷による劣化が問題となったり、電磁波の影響を受けやすく電力設備への導入では不向きですが、他方、光ファイバーセンサーの場合は「ガラス」でできており、さらにファイバーそれ自体はコーディングが施されています。その耐久性の強さから、道路、橋、トンネルといったインフラストラクチャーのモニタリングにも使われているほどです。
こうした光ファイバーの特徴は電力施設のモニタリングと相性が良いため、実際に「東北電力秋田発電所」で光ファイバーセンサーの実証実験が行われています。
富士通は東北電力様と、2014年6月から2015年の3月にかけ、光ファイバー超多点温度センシング技術を用いて、東北電力秋田発電所の燃料配管と蒸気配管(注5)、ボイラー煙道の温度変化を継続的に測定しました。そして、東北電力様の発電関連設備の温度変化から設備異常を検知するノウハウをベースに測定結果を解析し、設備異常をより精緻にリアルタイム検知する実証実験を行いました。
富士通株式会社プレスリリース「光ファイバー超多点温度センシング技術を活用した火力発電所の設備異常検知システムの実証実験を実施」より引用(最終閲覧日:2020/05/29)
実際の電力設備への導入が期待される光ファイバーセンサー。
2020年代には、モニタリング用途での導入が進むことが期待されます。さらに近い将来、電力施設のIoT化への一翼を担うセンサーとなるかもしれません。
FBG(温度・ひずみセンサー)
高耐久性・高耐熱性の「光ファイバーセンサー」です。 弊社取扱のFBGセンサーは、ドイツのメーカーFiSens(フィセンス)社の特許技術が用いられているためコストカットを実現しました。 1本の光ファイバーで複数箇所を同時測定できることから、導入時にコストがかからない点も強みです。
製品情報光温度センサー
OSENSAの光ファイバー温度センサーは、スイッチギヤの接点、バスバー、キャスト樹脂変圧器、モーター、発電機の巻き線に設置されることを想定して設計されています。絶縁耐力の高い素材でできており、最大38kV(三相)までの機器に設置して安全に作動することが確認されています。
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