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VOC規制の基本を解説!VOCの影響から日本での規制と排出抑制対策例

VOC(揮発性有機化合物)の規制については、環境保全や健康被害防止という観点から大きな関心が寄せられています。この記事では、VOCとその影響、日本における規制や産業ごとの取り組みについて解説します。

1.VOC(揮発性有機化合物)とは?

VOCは揮発性有機化合物のことで、一般的に常温・常圧で気体または蒸気となりやすい化学物質のことを指します。代表的な物質としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、ベンゼン、ホルムアルデヒドなどで、約200種類以上あるとされています。
VOCは揮発しやすいことや親油性などの特徴を生かして、塗料、接着剤などの溶剤または洗浄剤などに広く利用されており、塗装、建設工事、印刷、脱脂洗浄や自動車への給油など、様々な場面で排出されます。

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東京都内では、2015年度の1年間の排出量は約6万トンであり、工場やガソリンスタンド、工事現場などの固定発生源から約7割、自動車や航空機、船舶などの移動発生源から約1割、一般家庭やオフィスから約2割排出されています。

参考:「東京都環境局:VOCとは?」(最終閲覧日:2023/6/20)

2.VOCの影響

環境への影響

環境への影響

VOCは大気中に排出されると窒素酸化物(NOx)とともに日光、特に紫外線の影響を受けて光化学オキシダント(光化学スモッグ)を生成します。さらにVOCは浮遊粒子状物質(SPM)やそれよりもさらに小さい微小粒子状物質(PM 2.5)の生成原因にもなっています。また、成層圏オゾン破壊や地球温暖化などの環境問題にも、フロンやハロンなどのVOCが関わっています。

健康への影響

前述の通り、VOCは光化学オキシダント(光化学スモッグ)、浮遊粒子状物質(SPM)、微小粒子状物質(PM 2.5)の生成原因となり、シックハウス症候群などの健康被害を引き起こします。

光化学オキシダント(光化学スモッグ)

粘膜への刺激、呼吸器への影響を及ぼし、目がチカチカする、のどが痛い等の症状がみられる。

浮遊粒子状物質(SPM)

大気中に長時間滞留し、肺や気管などに沈着して呼吸器に影響を及ぼす。

微小粒子状物質(PM 2.5)

粒子が非常に小さいため、肺の奥深くまで入りやすく、呼吸器系疾患への影響のほか、肺がんのリスクの上昇や循環器系への影響も懸念されている。

参考:「産業医科大学:PM2.5の健康影響と対策」(最終閲覧日:2023/6/20)

3.VOCに関する日本の規制

前述の通りVOCは人の健康や環境に影響を及ぼすため、VOCの排出抑制は重要な課題です。以下にVOC排出抑制に関連する日本の法律などについてご紹介します。

大気汚染防止法

大気汚染

VOCの排出を抑制するために大気汚染防止法が改正され、VOC濃度の測定法が設定されました。これに基づいて、平成18年よりVOCの排出規制が開始されました。平成25年にはVOCの排出量が目標よりも大幅に削減できたことを受け、事業者の負担軽減のために大気汚染防止法の一部が改正されました。新たな規定では、VOC排出施設が稼働する時間帯で最も負荷のかかる時に年1回以上VOC濃度を測定すればよいとされています。

参考:「環境省:揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制」(最終閲覧日:2023/6/20)

労働安全衛生法

労働安全衛生法では、VOCに曝露する労働者の健康を守るための規制が設けられています。労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則は、54種類の有機溶剤に対する安全対策を規定し、作業環境測定士や作業環境測定機関による作業場の気中濃度の6ヶ月ごとの測定が義務づけられています。

参考:「厚生労働省:有機溶剤中毒を予防しましょう」(最終閲覧日:2023/6/20)

化学物質排出把握管理促進法

化学物質排出把握管理促進法は、PRTR制度とSDS制度を柱として、事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、環境の保全上の支障を未然に防止することを目的とした法律です。PRTR制度とSDS制度はそれぞれに独自の役割を持っていますが、共通して化学物質の管理と環境保全を目的としている点で連携しています。

PRTR制度とは

PRTR制度は、"Pollutant Release and Transfer Register"の略で、「化学物質排出移動量届出制度」とも呼ばれます。この制度の目的は、有害性のある多種多様な化学物質がどのような発生源からどれだけ環境中に排出されたか、または廃棄物としてどれだけ事業所の外に運び出されたかというデータを把握し、集計し、公表することです。

引用:「経済産業省:PRTR制度」(最終閲覧日:2023/6/20)

SDS制度とは

SDS制度は「Safety Data Sheet」の略で、「安全データシート制度」とも呼ばれます。この制度は、第一種及び第二種指定化学物質やそれを含む製品を事業者間で取引する際に、その成分や性質、取扱い方法などに関する情報を提供することを義務付けています。

引用:「経済産業省:化管法SDS制度」(最終閲覧日:2023/6/20)

建築基準法に基づくシックハウス対策

シックハウス症候群

建築基準法は、建築材料からのVOC排出を規制し、居住者の健康を守ることを目的としています。建築材料からのVOCの排出がシックハウス症候群の一因となることから、住宅や学校などの建築物に使用される材料のVOC含有量を制限しています。
厚生労働省では2002年にシックハウス症候群の原因と考えられる化学物質13物質について室内濃度指針値を定めたガイドラインを策定しています。この指針値は現状の科学的知見に基づいて、その濃度以下の物質を一生涯吸い続けたとしても、健康への影響を受けないであろうとされており、室内環境汚染の基準として利用されています。

室内空気中VOC濃度に関する厚生労働省の指針値

揮発性有機化合物発生源人への影響室内濃度指針値
ホルムアルデヒド合板、 PB、 集成材、 壁紙接着剤、ガラス繊維断熱材など鼻・のどの粘膜を強く刺激0.08ppm
トルエン油性ニス、接着剤、木材保存剤など神経行動機能・生殖機能低下0.07ppm
キシレン油性ニス・ペイント、 接着剤、木材保存剤など新生児の中枢神経発達への悪影響0.05ppm
パラジクロロベンゼン防虫剤・防ダニ剤、消臭材などアレルギー症状増大0.04ppm
エチルベンゼン有機溶剤(塗料)、接着剤など肝臓・腎臓機能低下0.88ppm
スチレン発泡ポリスチレン、断熱材、合成ゴムなど脳・肝臓機能低下0.058ppm
クロルピリホス防蟻剤など生殖器の構造異常0.07ppb
フタル酸ジ-n-ブチル塩ビ製品など生殖器異常1.5ppm
テトラデカン塗料の溶剤、灯油肝臓機能低下0.04ppm
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル可塑剤生殖器の構造異常6.3ppb
ダイアジノン殺虫剤血漿及び赤血球コリンエステラーゼ活性阻害0.02ppb
アセトアルデヒド接着剤・防腐剤成長遅延、鼻腔粘膜の異常0.03ppm
フェノブカルブ防蟻剤コリンエステラーゼ活性阻害3.8ppb

引用:「特定非営利活動法人 日本VOC測定協会」(最終閲覧日:2023/6/20)

4.VOC排出抑制対策の事例

VOC排出抑制対策は作業員の健康保持や大気汚染防止、環境対策の観点からも重要な取り組みです。以下に産業ごとの取り組みをご紹介します。

工業塗装におけるVOC排出抑制対策

工業塗装

産業別のVOC排出割合の全体の4割を占めているのが工業塗装です。工業塗装におけるVOC排出抑制対策方法には、①作業工程の見直し、②スプレー作業の見直し、③低VOC塗料への転換の大きく3つがあります。

①作業工程の見直しは塗料保管方法や調色・調合方法、洗浄作業のような日々の工程を見直し、改善していくことです。これらは最も基本的な手法で、手軽に始められる一方で、VOC削減効果は他の方法と比較して低めです。
②スプレー作業の見直しはスプレーガンの種類や使い方、塗装環境を見直し、改善していくことです。これらを改善することで、塗料の無駄を減らすことにつながり、VOCの発生を抑制することが可能です。
③低VOC塗料への転換は塗料自体の性質を変えることによるVOC削減方法で、最も効果が高いとされています。ハイソリッド塗料は溶剤の含有量が少なく、粉体塗料と水性塗料はVOCを全く含まないため、VOC排出抑制などの環境保全に寄与します。

参考:「一般社団法人産業環境管理協会:VOC排出抑制における企業の取組事例」(最終閲覧日:2023/6/20)

印刷工程におけるVOC対策

印刷工場

印刷工程においては、印刷インキ、湿し水、洗浄剤中にVOCが含有しています。印刷業界ではグリーンプリンティング(GP)認定制度を設け、環境に配慮した製品づくりを推進しています。

グリーンプリンティング(GP)認定制度とは

グリーンプリンティング(GP)認定制度とは、印刷業界の団体代表である日本印刷産業連合会が、印刷環境自主基準「印刷サービスグリーン基準」を達成した印刷関連工場・事業所、印刷資機材及び印刷製品を認定する制度です。印刷工場、資機材、印刷製品のそれぞれの工程に基準を設け、印刷の総合的な環境配慮を進めています。グリーンプリンティング(GP)認定工場ではVOC発生などの大気汚染防止、地球温暖化防止などの環境対応、労働安全衛生への配慮を基準化しているため、グリーンプリンティング(GP)認定工場への発注こそが環境配慮につながるとされています。

参考:「一般社団法人日本印刷産業連合会:VOC削減に結びつく印刷発注方法とグリーンプリンティング認定制度の活用」(最終閲覧日:2023/6/20)

産業洗浄におけるVOC対策

産業洗浄

産業洗浄とは、製造所や作業場、コンビナートや公共建築物において、機器の内外部に堆積した不純物を、物理的および化学的な手法を用いて取り除く作業を指します。産業洗浄においては、日本産業洗浄協議会がVOC排出抑制に取り組んでいます。産業洗浄の多くが中小・零細企業で行われ、これらの企業はコストや洗浄性能の観点から塩素系洗浄剤へと移行し、既設の洗浄機を継続使用しています。その結果、十分な排出抑制対策が取られていない現場が多いという課題があります。日本産業洗浄協議会では、低コストの対策を複数組み合わせることで効果的なVOC排出抑制が可能となるアプローチを推奨しています。そのための具体的な手法として、EVABAT(経済的に実行可能な最良利用可能技術)の考え方を具現化した支援システムを開発し、これをWeb上で利用できる計画を進めています。

参考:「日本産業洗浄協議会:産業洗浄におけるVOC対策」(最終閲覧日:2023/6/20)

5.まとめ

VOCは大気汚染や健康被害を引き起こす可能性があり、規制が進められています。産業ごとに自主的な対策を進め、生産プロセスの改善に取り組んでいます。VOCの適切な管理と使用により、健康と環境への影響を最小限に抑えることが求められています。

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