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KLV大学 光センサーコース

光ファイバセンシングの種類と採用事例

はじめに

光ファイバセンシングとは、光ファイバーケーブルをセンサーとして活用し、温度や歪み、圧力、振動のような環境変化を計測する技術のことです。橋梁や建物などの構造物の健全性診断、製造設備の保全・監視、環境モニタリング、医療、軍事などの分野で利用されています。
光ファイバセンシングでは、センサー部に電気・電子部品が使用されていないため、落雷などの電磁誘導も受けず、電源付近などの電磁波が発生している環境や防爆構造が必要な環境でも高い精度を得ることが可能という大きな利点があります。

光ファイバセンシングの中には異なる原理をもつ技術があり、それぞれ特有の特性と応用分野を持っているため、使い分けが非常に重要です。各技術の適用範囲と特徴を理解することで、特定の用途や測定条件に最適な技術を選択することができます。

光ファイバセンシング技術の種類

主な光ファイバセンシング技術の種類には以下のようなものがあります。

  • OTDR(Optical Time-Domain Reflectometer)
    光ファイバの診断やネットワークの監視に使用されます。ファイバの損傷や接合部、曲がりなどの特定に適しています。
  • ROTDR(Raman Optical Time Domain Reflectometry)
    温度の分布を測定するのに特化しており、パイプラインのモニタリング、火災検知、環境監視などに利用されます。
  • BOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometry)
    ひずみや温度の測定に適しており、構造物の健全性モニタリングや地すべりの検知、地震の検出などに応用されます。
  • FBG(Fiber Bragg Grating)
    ひずみや温度の高精度な測定に適しており、航空宇宙、土木工学、医療分野などで使用されます。
  • DAS(Distributed Acoustic Sensing)
    音の測定に適しており、パイプラインの監視、セキュリティ分野、交通監視、地震学的調査、油田管理などで使用されます。
  • FOG(Fiber Optic Gyroscope)
    角速度や方向を測定するために使用されます。高精度で信頼性が高く、機械的な動きの影響を受けにくいため、航空機、宇宙船、軍事車両、船舶などの高性能なナビゲーションシステムで利用されます。

参考:「光ファイバセンシング振興協会:5_光ファイバセンサでの計測」(最終閲覧日:2024/2/8)

それぞれの光ファイバセンシング技術を解説する前に光ファイバーセンサーの基礎をおさらいしておきましょう。

光ファイバーセンサーの基礎

光ファイバーセンサー

光ファイバーセンサーは、通信部やセンサー部が光ファイバー及び光学部品で構成されるセンサーです。光源、光の伝達部(ファイバー)、光を使ったセンシング部、光の受光部(受光素子)から成り立っており、光ファイバーそのものがセンシング部として機能することもあります。センサーの種類によって使用される光源や受光素子が異なり、センシング部は測定環境の変化によって光が変化する性質を利用します。光ファイバーセンサーでは温度、歪み、圧力、振動、電流など基本的な物理量はほとんど計測が可能です。

詳しくはこちらの記事をご確認ください。

以下では、OTDR、ROTDR/DTS、BOTDR、FBG、DAS、FOGの原理や特性、活用場面を解説していきます。

OTDR

定義と原理

OTDR(Optical Time Domain Reflectometer)とは、光ファイバーの特性を調べるために使われる測定技術です。電気ケーブルの特性を調べるために用いられる古い技術であるTDR(Time Domain Reflectometry)に基づいています。TDRでは、ケーブルに電気的なパルスを送信し、その反射波を捉えることでケーブルの状態を測定します。OTDRも同様の原理で、光ファイバーに光のパルスを送り、レイリー散乱と呼ばれる現象によって戻ってくる散乱光を検出します。
レイリー散乱とは、ファイバ内を進む光が微小な不純物や構造の不均一性によって散乱される現象です。この散乱光の強度は、光ファイバーの各部分での光の損失に関連しているため、OTDRはこの散乱光を測定することで光ファイバーの損失分布を可視化できます。これにより、ファイバ内の断裂や曲げ、接続部分などの特性を評価することができます。

OTDR計測のイメージ図

引用:「光ファイバセンシング振興協会:18_OTDRの計測の仕方」(最終閲覧日:2024/2/8)

採用事例

OTDRセンサーは、光ファイバーの設置からメンテナンス、障害の特定、修理など、光ファイバーネットワークで広く使用されています。光通信設備で導入されているOTDRをベースとした光ファイバー診断・監視技術の事例を紹介いたします。

ネットワーク

光線路試験システム

光線路試験システムは、光ファイバー網の開通、保守、運用の際に光線路の正常性を確認するために使用されます。OTDRを用いて、光ファイバーの状態を遠隔から自動的に試験することができます。このシステムは、光ファイバーの接続点の損失や反射量を測定し、故障の位置を特定するのに役立ちます。

浸水検知技術

光ファイバーケーブルが地下に配線されている場合、長期間の浸水によって光損失が増加したり、ケーブルが破断するリスクがあります。この問題に対処するために、特別な浸水検知モジュールが設置されています。このモジュールは、水に反応して膨張し、光ファイバーに曲げ損失を与えることで浸水を検知します。

参考:「伊藤文彦・荒木則幸:光ファイバ網診断・監視技術—現状技術と最新研究事例—」(最終閲覧日:2024/2/8)

ROTDR/DTS

定義と原理

ROTDR(Raman Optical Time Domain Reflectometry)は、光ファイバーにおいてラマン散乱という現象を利用する測定技術です。ラマン散乱とは、光ファイバーを通過する光が石英の分子と相互作用し、その結果、入射光の波長が変化する現象を指します。この変化には、ストークス散乱光とアンチストークス散乱光の2種類があり、特にアンチストークス散乱光は周囲の温度に非常に敏感です。この性質を利用して、ROTDRは光ファイバー沿いの温度分布を測定することができます。
この技術はDTS(Distributed Temperature Sensing)としても知られており、光ファイバーを使って広範囲にわたる温度を分布的に測定するシステムを指します。しかし、ラマン散乱光は非常に弱いため、精度の高い測定を得るには、光パルスを多数入射してデータを平均化する必要があります。さらに、次の光パルスを入射する前に前のパルスの散乱光が測定装置に戻るのを待たなければならないため、この平均化処理には時間がかかることがあります。

ROTDR計測のイメージ図

引用:「光ファイバセンシング振興協会:19_ROTDRはどのように計測を行うものですか」(最終閲覧日:2024/2/8)

採用事例

ROTDRセンサーは、火災検知、電力ケーブルの温度監視、石油・ガス分野などで広く使われています。

油井での温度計測

ROTDRセンサーは幅広い場面で活用されていますが、特に油井探索や油井マネジメントにおいて、アメリカの石油技術者協会(SPE)が中心となって活用を進めています。石油や天然ガスなどの地下資源を効率的に採掘するためには、地中の油層やガス層の位置を正確に知ることが重要です。これを実現するために、光ファイバーを使って掘削された穴の深さに沿って水圧と温度を測定する技術が使われています。
油井は高温や高圧の水素の環境のため、光ファイバーの伝送損失が増加します。油井の温度分布計測に用いられるROTDRセンサーは、もともと弱いラマン散乱光を使っているため、伝送損失が大きくなると、測定する散乱光の信号がさらに弱くなり、ノイズに比べてその強度が小さくなってしまい、測定の精度が低下することがあります。そのため、このような環境での測定には、坑井の厳しい環境に耐えられるような素材を使用した光ファイバーが必要です。実際に、水素透過を抑制するためアモルファスカーボンでガラス表面をコーティングし、耐熱性を向上させるためにポリイミドの被覆を施した光ファイバーが使用されています。

油井

参考:「足立正二・小山田弥平:時間領域測定技術による光ファイバ分布型センシング」(最終閲覧日:2024/2/8)

BOTDR

定義と原理

BOTDR(Brillouin Optical Time-Domain Reflectometry)は、光ファイバー内のブリルアン散乱現象を利用する継続技術です。ブリルアン散乱とは、光ファイバーを伝搬する光が、ファイバ内部の微小な振動(音響フォノン)と相互作用することによって発生します。この相互作用により散乱光の周波数が変化しますが、この周波数の変化はファイバ内の歪みや温度変化に依存します。
BOTDR技術では、光ファイバーに光パルスを入射し、ブリルアン散乱光の戻る時間を計測することで、光ファイバーのどの部分に歪みや温度変化が発生しているかを特定できます。こうして、光ファイバーに沿った位置ごとの連続的なデータを取得することができます。
BOTDRの強みは、長距離にわたる光ファイバーの歪みや温度を測定できること、そして一本の光ファイバーで広範囲の測定が可能であることです。また、ループ状に設置すれば、光ファイバーが破断しても他の部分からの測定が可能で、システムの冗長性を高めることができます。しかし、ブリルアン散乱光は非常に弱い信号であるため、信号を平均化するためには長い時間が必要となります。このため、リアルタイムでの測定が難しいという短所があります。

BOTDR計測のイメージ図

引用:「光ファイバセンシング振興協会:20_BOTDRはどのように計測を行うものですか」(最終閲覧日:2024/2/8)

採用事例

大規模構造物の応力測定・沈下計測

BOTDRセンサーを活用した事例には清水建設株式会社の大規模構造物の応力測定・沈下計測の事例があります。BOTDRセンサーは繊維強化プラスチックで光ファイバーの外側を覆い、表面に凹凸を持たせることでコンクリート中に埋め込むことが可能です。建物やトンネルなどの土木・建築構造物に埋め込むことができ、応力測定や地中埋設管の沈下計測などが可能です。BOTDRセンサーは電気を使用せず火花が出ないため防爆性があること、長距離の信号伝送が可能なこと、電磁誘導を受けず、高い絶縁耐力でノイズが少ないことが大きなメリットです。

ビル

参考:「賢材研究会:事例紹介『BOTDR光ファイバーセンサー』」(最終閲覧日:2024/2/8)

FBG

定義と原理

FBG(Fiber Bragg Grating)とは、光ファイバーのコア内に短いセグメントで構築された屈折率変調(回折格子)を指します。インテロゲータと組み合わせることで、温度や歪み、圧力などを測るセンサーとして機能します。FBGは光ファイバーのコアに形成され、屈折率の高いコアと低いクラッドの二重構造によって、光を選別する役割を担います。

BOTDR計測のイメージ図

詳しくはこちらの記事をご確認ください。

採用事例

トンネルの変位モニタリング

トンネルの覆工コンクリートの目地部では、温度変化や外部からの力によって応力が集中し、ひび割れや剥落が起きるリスクがあるため、目地の段差や開きを監視することが重要です。この事例では、約5kmの長さを持つ新設トンネルに、目地部の段差と開きを監視するためにFBG変位センサーを設置しました。
FBG変位センサーは、目地部の段差方向と開き方向の2軸を測定するように2台設置されています。これらのセンサーはトンネルの下層避難通路にあるキャビネット内に設置された計測器に接続されており、センサーと計測器間のケーブル長は最大で約300mです。トンネル開通後のセンサー交換が困難であり、長距離伝送と長期間の連続動作が必要であるため、光ファイバーセンサーが選ばれました。このシステムは設置から約4年間にわたり安定して動作しています。

トンネル

参考:「SENS‣AITプロジェクト:FBGセンサとその応用(2)」(最終閲覧日:2024/2/8)

DAS

定義と原理

DAS(Distributed Acoustic Sensing)は、レイリー散乱という現象を利用してリアルタイムで音を検知する分散型センシング技術です。レイリー散乱は、光ファイバー内を進むレーザー光が微細な不均一性に遭遇すると一部が跳ね返される現象で、この散乱された光を測定することで、ケーブルが伸びたり圧力を感じたりした際の微細な変化を検出することができます。DASは、光ファイバーケーブルに小さな光の点滅を送って、その光がケーブル内の小さな不完全な部分から跳ね返ってくるのを測る技術です。光が跳ね返ってくると、光ファイバーの状態のスナップショットを取ることができます。このスナップショットをたくさん集めると、ケーブルがどのように少しでも動いたかを見つけることができます。これを早くたくさん繰り返すことで、ケーブルに沿って音や振動をとても正確に感知することができ、まるでケーブルが長いマイクのように動作します。DASはマイクとは異なり、電気ケーブルやバッテリーを使用せずに何kmにもわたって、構造物のきしみや地震などの振動や音を検知できます。

参考:「独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]:Distributed Acoustic Sensing (DAS) 技術を活用した地震探査」(最終閲覧日:2024/2/8)

DAS計測のイメージ図

引用:「High Definition Seismic and Microseismic Data Acquisition Using Distributed and Engineered Fiber Optic Acoustic Sensors - Scientific Figure on ResearchGate. (一部改変)」(最終閲覧日:2024/2/8)

採用事例

DASセンサーは石油や天然ガス、地下水、鉱物などの地下資源の探査や、地震活動の監視、ダムや橋などのインフラの安全性評価に用いられます。

メタン ハイドレート長期陸上産出試験

独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構はアメリカの国立エネルギー技術研究所と共同で、アラスカ州でのメタンハイドレートの長期陸上産出試験をしています。地下の状態を調べるために、以前は地震計を井戸に吊るして特定の深さごとにデータを記録していたため、データ取得に多くの時間がかかっていました。しかし、DASセンサーを使用することで、地表から地下深部にわたるデータを一度に収集することができ、データ収集が迅速かつ効率的に行えるようになります。DASセンサーデータと地震波の波形を解析して地下の速度構造を推定するFWI解析を組み合わせることで、地下の物質の種類や密度の推定に有用であることが分かりました。しかし、地下資源が貯蔵されている地層において観測された高速度層がメタンハイドレート貯留層か推定できなかったため、今後さらなる解析手法の改良が必要と考えられています。

メタン

参考:「独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構[JOGMEC]:Distributed Acoustic Sensing (DAS) 技術を活用した地震探査」(最終閲覧日:2024/2/8)

光ファイバージャイロ

定義と原理

光ファイバージャイロ(Fiber Optic Gyro: FOG)は、回転を測定するためのセンサーで、サニャック効果という原理を利用しています。サニャック効果とは、回転すると光が通る道の長さが変わったように見える現象です。実際には光路の長さは変わりませんが、回転によって光の伝搬時間が変わります。FOGはコイル状に巻いた光ファイバーの両端から時計方向と反時計方向に光を入射し、光ファイバーを回転させます。光ファイバーの回転によって入射した方向によって生まれる光路長の差がを測定することで、角速度を求めることができます。

光学式ジャイロ

引用:「多摩川精機株式会社:ジャイロセンサとは?(一部改変)」(最終閲覧日:2024/2/8)

採用事例

光ファイバージャイロは、その高精度な測定能力のために一般産業や航空分野で広く使用されています。

宇宙ミッションでの航法誘導制御

宇宙分野においては、機械コマ式や振動式ジャイロセンサーに比べ、可動部がないためロケット打ち上げのような厳しい環境にも耐えられる利点があります。FOGは小型で中精度のものから、大型で高精度のものまで様々なニーズに対応できるスケーラビリティを持っています。これにより、数十kg級の小型衛星から「はやぶさ」のような数100kg級の惑星探査機に至るまで、様々な宇宙ミッションでの航法誘導制御系に搭載されています。

スペースシャトル

光ファイバセンシング技術の選び方

光ファイバセンシング技術をまとめると以下のようになります。

種別 センシングのタイプ 計測できる物理量 用途・応用例
OTDR 分布型 曲げ
断線
光線路試験システム
浸水検知技術
ROTDR/DTS 分布型 温度
断線
油井での温度計測
BOTDR 分布型 歪み
温度
断線
大規模構造物の応力測定・沈下計測
FBG 多点型 歪み
温度
振動
圧力
トンネルの変位モニタリング
DAS 分布型
振動
メタンハイドレート長期陸上産出試験
光ファイバージャイロ 多点型 振動
電流磁界
宇宙ミッションでの航法誘導制御

センサーには大きく分けて、分布型と多点型の二種類があります。分布型センサーは、物体の長さに沿って温度や歪みなどを測定するのに使われ、多点型センサーは特定の場所での温度や歪み、振動などを測るのに用いられます。光ファイバセンサーを選ぶ際には、目的に合ったものを選ぶことが重要です。

たとえば、分布型ではROTDRが温度計測に、OTDRが光ファイバーのロス測定に、BOTDRが温度または歪み測定に適しています。多点型の場合は、従来の電気式センサーを光ファイバーセンサーに置き換えたものが多いので、どんな光ファイバーセンサーがあるのか?計測に必要な応答性はどの程度なのか?を確認しながらセンサーを選ぶといいでしょう。例えば、圧力、移動量、たわみ量のように複数種のセンサーを使用した計測システムを構築する場合には、同じ計測原理のセンサーを選択することで、1台の計測器でシステムを構築することができます。

まとめ

この記事では、光ファイバセンシング技術の基本原理とその多岐にわたる応用分野について解説しました。それぞれに特有の特性と応用分野が存在します。適用範囲と特徴を理解することで、特定の用途や測定条件に最適な技術を選択することが可能です。この記事が光ファイバセンシング技術の理解を深め、新たな応用分野への興味や探究のきっかけとなれば幸いです。

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