建設業界では、安全性や作業効率の向上が常に求められており、その中でも構造物の健全性を示す「歪み」の把握は重要な課題です。従来はコストや運用面でのハードルがありましたが、近年は低予算・スモールスタートで導入できる手段が注目されています。
ラズベリーパイとFBGセンサーで実現!低コストで始める遠隔歪み監視システムの構築方法
2024.12.20 |
はじめに

この記事では、FBGセンサーとラズベリーパイを組み合わせることで、遠隔から歪み状況をリアルタイムに把握できる簡易的なシステムの構築方法をご紹介します。
建設業界における遠隔監視の重要性
建設業界では、人手不足や高齢化、過酷な現場環境により、広範囲の構造物(橋梁、トンネル、ダムなど)の点検や維持管理が難しくなっています。これらの課題に対し、現場へ行かずとも構造物の状態を把握できる「遠隔監視」が注目されています。センサーを使ったデータ収集とインターネット経由のモニタリングにより、限られた人員でも効率的な判断が可能になり、迅速な対応や人材不足の補完につながります。

中でも、歪み計測は構造物の健全性を知る上で重要な要素ですが、従来のシステムは高コストかつ定期点検ベースで、リアルタイム性に乏しいという問題がありました。これを解消するには、低コストかつ常時モニタリング可能な技術が必要です。また、事後対策ではなく、異常の兆候を早期に捉える「予防保全」の考え方が、長期的なコスト削減とリスク低減に寄与します。
予防保全については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。

センサー選びのポイントを紹介し、予防保全で重要な役割を果たす音響センサーである光ファイバー音響センサーとAEセンサーを比較し、それぞれの特性や用途を詳しく解説します。
FBGセンサーとラズベリーパイで作る簡易的な遠隔監視システム
遠隔監視技術は建設業界をはじめとする各種現場で極めて有用ですが、その導入には多大な初期投資が必要となり、予算が限られるプロジェクトでは導入が難しい場合があります。そこで、ここではFBGセンサーとラズベリーパイを組み合わせ、弊社の検証環境で構築した簡易的な歪み遠隔監視システムと、その構築方法をご紹介します。このシステムは、測定対象に歪みが発生すると即座に検知し、リアルタイムでSlackに通知を飛ばすことが可能です。
準備するもの
本システムを構築するにあたって準備が必要なものは以下です。
- Slack通知を受信するためのデバイス(SlackアプリがインストールされたPC、スマートフォン、タブレットなどのインターネット接続可能な端末)
- Raspberry Pi 5(電源が必要)
- FBGセンサーおよびインテロゲーター
- 各種ケーブル類(USBケーブル等)
- Fisens プログラマーマニュアル
- Python環境

システム構成イメージ
以下の図は、本システムの基本構成を示したものです。

FBGセンサーで計測した歪みデータはインテロゲーターを介してRaspberry Piへ伝送され、そこからSlackへ通知が行われます。
構築手順
-
Raspberry Piの準備
Raspberry Piを用意し、インターネットに接続できる状態にします。 -
FBGセンサーとインテロゲーターの接続
FBGセンサーとインテロゲーターを接続します。その後、インテロゲーターとRaspberry PiをUSBケーブル(シリアル通信)で接続します。 -
Raspberry Pi側の環境構築
必要なドライバやライブラリをインストール後、Fisensプログラマーマニュアルを参照し、インテロゲーターからの信号を適切に処理できる環境を整えます。
また、Slack APIトークンを取得した上で、設定した閾値を超えた場合にSlackの指定チャンネルへ自動通知する仕組みを実装します。 -
センサーの設置と動作確認
計測対象(橋梁、建築物の構造材、機械部品など)にFBGセンサーを取り付け、試験的な荷重や変形を加えて、正しく歪みを検知できること、そして閾値超過時にSlack通知が適切に行われることを確認します。 -
調整・最適化
必要に応じて閾値の再設定や通知内容の調整を行い、実運用に適した状態へ微調整してください。

※上記の構築手順は、弊社の検証環境で簡易的に構築した事例をもとにご紹介しています。すべての環境で同様に使用できるわけではないことにご注意ください。
アプリケーション
このシステムは以下のような場面で活用できます。
- 構造物の歪み監視:橋梁やビルの安全性確保。
- 設備の状態監視:機械やプラントのメンテナンス効率化。
- 環境モニタリング:温度や振動のリアルタイム監視。
Fisens社FBGセンサーの紹介
Fisens社のFBGセンシングシステムは、小型・低コストを特徴とし、様々な計測環境に柔軟に対応します。
従来の方法では、光ファイバーにFBGを加工する際、一度コーティングを剥がしてから書き込みを行い、再びコーティングを施す必要がありました。この手間がコスト増加の原因になっていました。
FiSens社は、フェムト秒レーザー加工技術を採用することで、コーティングを剥がすことなく直接ファイバーコアにFBGを書き込むことを可能にしました。この技術により、不要な作業工程を大幅に削減し、結果としてFBGセンサーのコストを抑えることができています。

さらに、FBGセンサーの信号を解析するインテロゲーターも、特許技術「Aspheric chirped grating」によって内部部品を大幅に減らし、手のひらサイズを実現しています。これにより、設置スペースや環境条件に左右されず、導入やメンテナンスを容易に行えるため、運用コストを抑えながら高精度な計測が可能になります。


Fisens社FBGセンシングシステム
「FBGが書き込まれた光ファイバー」と「インテロゲ一夕(分光器)」で構成された「FBGセンシングシステム」です。 光ファイバーをインテロゲ一夕へと接続することで、温度・ひずみを検出できるセンサーとしてご使用いただけます。
製品の詳細を見るまとめ
この記事では、FBGセンサーとラズベリーパイを活用した低コストで簡易的な遠隔歪み監視システムをご紹介しました。低コストかつスモールスタートで実現でき、現場へ足を運ばずに構造物の状態を把握できるため、人手不足やコスト面の課題を抱える現場において、大きな効果が期待できます。まずは少数のセンサーで小さく始め、実際に得られたデータや効果を踏まえて徐々に拡大していくことで、より効率的で柔軟な歪み監視体制が構築できます。ぜひ本システムを活用してみてください。
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