自動運転技術やドローン技術を用いて、耕耘、種・苗植え、水・肥料やり、農薬散布、収穫などを自動で行うことで、人手を削減する取り組みが行われています。
事例には、自動コンバイン、自動トラクター、自動収穫機、パワースーツによる作業、ドローンを活用した農薬散布、自動水管理装置などにより人手が70%〜20%に削減されたという報告が多数ありました。
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お問い合わせ2023.01.26 |
近年、農業分野では、担い手の減少・高齢化により労働力不足が深刻な問題になっており、労働力不足や経験不足を先端技術を用いて解決する「スマート農業」が注目されています。
本記事では「スマート農業」に必要不可欠なセンサーの種類と役割に焦点を当てて解説していきます。
まずは、スマート農業の取り組み内容から、どのようなところでセンサーが使用されているかについてご紹介します。
スマート農業とは、「ロボット技術、センシングなどのデジタル技術」と「IoT(クラウド)やAI技術を用いたデータサイエンス」を活用し、効率的に高品質な農作物を育てる新しい農業です。
「スマート農業」という言葉が示す範囲は幅が広く、様々な取り組みによる効果が期待されています。
農林水産省が中心となって行っているスマート農業の現場での実現を加速するための「スマート農業推進プロジェクト」の内容を参考に、その取り組みを内容をまとめました。
自動運転技術やドローン技術を用いて、耕耘、種・苗植え、水・肥料やり、農薬散布、収穫などを自動で行うことで、人手を削減する取り組みが行われています。
事例には、自動コンバイン、自動トラクター、自動収穫機、パワースーツによる作業、ドローンを活用した農薬散布、自動水管理装置などにより人手が70%〜20%に削減されたという報告が多数ありました。
「センサーからの情報を集めて、最適な育成を行う取り組み」や、「スペクトルカメラで生育状況の把握し、最適な収穫タイミングを提案する取り組み」などが行われています。
事例には、水位センサーを用いて自動水やりを行うという簡単なものから、”様々なセンサーによる情報の収集”、”情報を1箇所に集めるためのIoTの仕組み”、”機械学習等を用いた集めた情報の解析”など最先端の技術を組み合わせた取り組みまで様々です。
そして、この活動に欠かせないのが分析に必要な情報を取得するための"センサー"です。センサーから、温度、湿度、照度、水分、CO2、クロロフィル、pH、土壌、NDVI(育成度)などの情報を取得し、それを分析に活用します。
センサーや機械(ロボット)を用いて、大きさ・重さ・色だけでなく糖度・酸度・熟度・内部腐敗などの味に関わる条件も含め仕分けが行なわれています。
事例には、選果機(選別機)を用いた、労働力の削減、品質の保持(ブランド化)などが紹介されています。
すでに、カメラ、はかりなどを利用したサイズ・重量・色などでの仕分けだけではなく、それに加えて、分光センサーで糖度・酸度・熟度・内部腐敗も考慮して仕分ける選果機が開発されています。
ここでも、農作物をより正確に選別するために”センサー”が重要な役割を果たします。
”市場の需要を予測して、栽培する農作物の種類や量、時期を調整する取り組み”や、”農作業用具を効率的にシェアリングすることによりコストを削減する取り組み"などが行われています。
先にご紹介したスマート農業の取り組みの中では、ロボット、ドローン、センシング、IoT、AIなど様々な技術が使われています。
スマート農業の取り組みと、使用される技術を以下の表にまとめました。
①作業の自動化 | ②データ化と活用 | ③自動仕分け | |
---|---|---|---|
ロボット | ◎ | ー | ◎ |
ドローン | ◎ | ○ | ー |
センシング | △ | ◎ | ◎ |
IoT(クラウド) | △ | ◎ | △ |
AI | ○ | ○ | ○ |
表から、どの取り組みでも、技術が複合的に使用されていることがわかります。
ここからは、本記事のテーマである、スマート農業で使用されるセンシング(センサー)に着目し、 「②熟練者の感覚のデータ化と活用」と「③収穫した作農物の自動仕分け」で使われているセンシング(センサー)の種類や役割を紹介していきます。
スマート農業では、データを用いて判断するため、”精度の高いデータ”を取得する必要があります。
この”精度の高いデータ”の鍵を握っているのが”センサー”です。
まず初めに、「②熟練者の感覚のデータ化と活用」で育成環境の測定に使用される8種類のセンサーをご紹介します。
センサーの種類の多さから、農作物の成長には、非常に多くのパラメータが関係していることがわかります。
次に、「②熟練者の感覚のデータ化と活用」で育成環境の測定に使用されるセンサーをご紹介します。
最後に、「③収穫した農作物の自動仕分け」で使用される糖度・酸度・熟度や内部腐敗などが測定可能な分光センサーをご紹介します。
温度は、暖かいところで育つバナナや、涼しい高原で育つレタスがあるように、農作物には「それぞれ育成に適した温度」があります。
適温よりも高い温度においては、農作物が蒸散を防ぐために気孔(葉に空いた非常に小さな穴)を閉めるため、光合成が阻害されます。また、温度差が発生すると、結露により農作物の病害が発生することもあります。
農作物の育成の速度を予測したり、最適化するには温度を正しく測定する必要があります。
農産物の育成に関係する温度には、”環境(大気)の温度”と”土壌の温度”の2種類があります。
環境温度用の温度センサーは、一般的に室温を測る際に利用されているサーミスタ式が主流です。サーミスタ方式は、温度による抵抗値変化を読み取ることで温度がわかります。
一方、土壌に刺して使用する土壌温度用の温度センサーには、温度により2種類の金属間に発生する電圧が変化する熱電対式が使用されます。
ハウスや工場内においては、温度を上げたい際には暖房を、温度を下げる際には換気を行うことで温度がコントロールできます。
ハウス内の温度は、外気温や日中に太陽光が注ぐことによっても変化するためこまめな管理が必要になります。
農作物が養分を作り出すための光合成に”光”が必要であることから、”照度”も農産物の育成において重要な要素です。
照度が高いほど早い成長を実現することができますが、照度を強くし過ぎると農作物の表面に亀裂が入ってしまうなど、照度で成長を促すのには限界があるため正しく測定する必要があります。
農業で使用される照度センサーには、受光した光を電流に変換して測定するフォトダイオード式が主に使用されます。
フォトダイオード式の照度センサーは、全て波長を含めた光の強さの総和を検出していますが、植物の成長に寄与しているのは特定の波長であるという点には注意が必要です。
詳細な照度データを取得には分光センサーがおすすめ
照度は簡単に計測ができる指標ですが、先に述べたように実際の光合成に寄与している波長は限られているという点に注意が必要です。
例えば、植物が光合成に利用できる波長帯(400-700nm)に注目した指標として、光合成有効放射(PAR)や光合成光量子束密度(PPFD)という指標があります。
分光センサーは波長毎の光の強さを個別に測定するので、これらの値はもちろん、さらに厳密な解析も可能となります。
スマートフォントに無線接続し、光合成有効放射(PAR)や光合成光量子束密度(PPFD)が農業向けアプリで確認できる分光センサーです。
ハウスや工場内では、LED照明が使用されており、光や波長のコントロールにより早い成長を実現しています。
農作物の葉は湿度が適切な場合にのみ、気孔(葉に空いた非常に小さな穴)を開き、光合成を行うので、湿度も農作物の成長に影響する重要な要素です。
また、湿度が高い場合に細胞の伸長が起こり、葉の面積が増えるという結果も出ています。
湿度センサーには、毛髪、ナイロンが湿度により伸縮する特性を利用する「伸縮式」と電極間挟んだ乾湿膜の抵抗値や静電容量が湿度によって変わる特性を利用する「電気式」があります。
「伸縮式」は単純な構造で安価ですが、「電気式」の方が小型で応答性が早いため一般的には「電気式」が使用されます。
ハウスや工場内では、湿度を上げる際にはミスト発生器を使用し、湿度を下げたい場合には換気を行うことで湿度をコントロールします。
農作物が養分を作り出すための光合成に”水分”が必要であることから、農作物の水分管理が重要な事は言うまでもありません。
水分もただ多くあげれば良いということではなく、水分が多過ぎると根腐れが発生するため、農作物や季節によってある程度決まっている「1日に消費する水分量」を考慮して、適度に管理する必要があります。
水分センサーには、土壌の比誘電率をマイクロ波を用いて測定して水分量を計算する方式と、水分量によって土壌内のコンデンサ(並行平板)の静電容量が変化する特性を利用する方式があります。
水やりでは、土を複数回に分けて少しずつ湿らせる方が良いとされているので、水分センサーとスプリンクラーなどの水やり器を連動させて適切に水やりができる仕組みを実現できます。
CO2も光合成に不可欠な要素です。
CO2濃度が低いと光合成が行われず、育成に悪影響がありますし、逆にCO2濃度が高い場合には、温度や湿度の管理に悪影響を及ぼす場合があります。
CO2センサーには、電気式と光学式があります。
電気式CO2センサーは、CO2と酸化物の電気化学反応を起こし、その反応の大きさからCO2の濃度を測定します。
一方、光学式CO2センサーは、CO2濃度に応じて光学特性が変化することを利用してCO2の濃度を測定するもので、NDIR方式が一般的です。
農業用途では、精度、寿命、安定性の観点から電気式よりも光学式(NDIR方式)の方が採用されています。
CO2の濃度を上げたい場合には、外部からCO2を含むガスを投入し、CO2の濃度を下げたい時には、換気をすることで、コントロールが可能です。
また、湿度を高めるとCO2が低下することを防ぐことができるため、そのようなアプローチが取られる場合もあります。
クロロフィルは、植物の細胞色素で、光合成を行う際に欠かせない成分です。
このクロロフィルが不足している場合、養分不足、照明不足、病気など、植物の育成を阻害する要因があることがわかるので、植物の健康状況を知るたの指標として使用されます
クロロフィルの量は、植物プランクトンが光合成する際の発光であるクロロフィル蛍光の強度で測定することができます。
クロロフィルセンサーは、470nmの光を照射して、クロロフィル蛍光を起こし、その蛍光の波長帯である640〜980nmの光の強さをフォトダイオードで測定することでクロロフィルの量を測定します。
光ファイバーで高感度を実現したクロロフィルセンサー
青色のパルス光を光ファイバーを通して照射し、それによる蛍光を光ファイバーを通して測定します。光ファイバーは光の劣化が少ないので高感度を実現できます。
pHは、土壌がどれだけ酸性かアルカリ性かを数値で表したもので、農作物は一般的に pH6.0程度の弱酸性の土壌が望ましいとされています。
pHが低くなり酸性に傾くと土壌内の養分が水などで流れやすくなり、 pHが高くなりアルカリ性に傾くと一部の養分の吸収が妨げられやすくなるという問題が発生するため注意が必要です。
ガラス薄膜の内側と外側に異なるpHの液体がある際に、ガラス薄膜にはpHの違いに応じた起電力が生じます。
pHセンサーは、ガラス電極と参照電極を用意して、そこに発生する起電力を測定することでpHを測定します。
農作物は、養分を吸収する際に根から水素イオンを出すため、農作物を育てるだけで土壌のpHは下がります。
炭酸カルシウムなどアルカリ性の石灰資材追加するとpHを上げることができます。
逆にpHを下げるには、酸性の肥料(硫安など)を使用するか、石炭資材の使用を控える必要があります。
土壌中の肥料濃度は、農作物の成長や味を決める重要な要素の一つです。
農作物毎に適切な肥料濃度が決まっており、肥料濃度が低いと農作物が育たず、肥料濃度が高いと”濃度障害”が発生します。
窒素をはじめとする肥料の成分は、NH4+などイオン化された状態で植物に吸収されるため、土壌中のイオン濃度を測定すると肥料濃度がわかります。
そこで土壌センサーは、土に微弱な電流を流して、イオン濃度と関連性の高い電気の通りやすさ”EC(電気伝導度)”を算出します。
※肥料濃度を調べるEC測定に、温度、湿度、pHなど他の測定機能も合わせて土壌センサーと呼ぶ場合もあります。
肥料濃度が低い場合には、肥料を追加することで、肥料濃度をあげることができます。
植物は、赤の波長の光を光合成のために吸収しますが、近赤外の波長の光は吸収しません。
この特性を利用して、赤の波長の強度(RED)と、近赤外の波長の強度(NIR)の差によって、植物の育成状態を把握する”NDVI”という値が考案されました。
この”NDVI”を知ることで、「場所毎に最適な農作物の刈り取りの時期を知る」、「育成状況の異常を知り、対策する」などが可能になります。
・NDVIとは
NDVIは、”(NIR-RED) / (NIR+RED)”という計算式で求めます。
分母を足し算、分子を引き算にしていることから、植物の育成度とNDVIは以下のような関係になります。
・植物の育成度が低い場合
→赤の波長が吸収されず、REDの値は大きいので、NDVIの値は低くなる。
・植物の育成度が高い場合
→赤の波長が吸収され、REDの値が小さくなるので、NDVIの値が高くなる。
NDVIセンサーは、特定の波長のみを透過するフィルターや光を波長毎に分けるプリズムやグレーディングを用いて、赤の波長の光強度(RED)と、近赤外の波長の光強度(NIR)を測定し、そこからNDVIを算出します。
点での測定には分光器、面(画像)での測定には、ハイパー・マルチスペクトルカメラが使用されます。
農業向けには、上空から撮影するために小型・軽量のものが開発されており、ドローンに搭載するためのマウンターや位置情報を付与するためのGPSがキットになったものがおすすめです。
《手軽に初めて見たい方はこちら》
波長帯域を主に農業用途で使用する690~935 nmに絞ることで低価格を実現したスペクトルカメラで、組み込み用に基盤のみの販売も可能です。
※取得したデータからNDVIを算出するには、ソフトウェアやプログラムでの計算が必要になります。
農家の方がこだわって生産した農産物は、”ブランド化”することで高値で取引されるようになります。
ただし、販売した農作物の中に、質の低いものが紛れ込んでしまうと、ブランドの価値が落ちてしまうので、”ブランド化”では、美味しさ・品質の確保が非常に重要です。
この美味しさ・品質の確保を定量的に行うために、”糖度・熟度・酸度”などでの評価が必要となっています。
また、農作物には個体差があり全数を検査する必要があるという観点から、”非破壊”で”高速”に測定できる必要もあるので、”分光センサー”に注目が集まっています。
分光は、対象物に光を当てた際に、反射・透過する光を各波長に分けて測定することで様々な分析をする手法です。
糖度・熟度・酸度に関連する分子は、近赤外の特定波長で吸収があります。よって、「近赤外分光センサー」で各波長毎の光強度(スペクトル)を測定し、多変量解析などの統計的手法を用いることで糖度・熟度・酸度などの定量値を算出することができます。
《超小型で装置や機器への組み込みを検討されている方》
400~1800nmの範囲の選択した波長の光強度を測定できる、組み込み用途に最適なチップ状の分光センサーです。
《より精度の高い解析を行いたい方》
この近赤外分光器を用いて作成された、食品の糖質、タンパク質、脂質、カロリーが測定できる”Foodscanner”は欧州委員会のHorizon Prizeを受賞しました。
現在、農業における労働力不足や経験不足を補うために、データを用いて農業を行う”スマート農業”が注目を集めています。
そこで重要になるのが、”精度の高いデータ”を取得するためのセンサーです。本記事では、農業に関連する10個の要素を測定するセンサーの種類や必要性をご紹介しました。
実際に販売されているセンサーは、複数の要素の測定を組み合わせたものなどもあります。どの要素を測定するのかを決定し、その要素を測定するためのセンサーを探していただければと思います。
ケイエルブイは、光を用いたセンシング(スペクトルカメラ・分光器・光ファイバーセンシング)を得意としています。
光を用いた測定手法や製品に関してご不明点があればお問い合わせください。
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