高温且つ高電場・高磁場環境である発電タービンに対して、長期間且つ定常的な測定が可能です。
過酷な環境(高温・高電場・高磁場)での異常検知・予兆検知に 光ファイバー音響センサー
2023.05.01 |
AI/IoTの発達により急成長する設備故障・異常の予兆検知が進んでいます。
ただし、設備がある場所が、過酷な状況(高温・高電場・高磁場)である場合には、通常のセンサーでは、温度・電場・磁場の影響により正しい計測ができない問題があります。
そのような際には、 “光ファイバー技術"を用いたセンサーデバイスが有効です。
本記事では、光ファイバーを用いた異常検知に関して紹介します。
1.音を用いた異常検知
故障を事前に診断する方法として、電気的なものや、カメラを使った画像診断などがありますが、マイクなどの音を使った診断方法も故障を事前に察知する有効な方法の一つです。
カメラを使った画像診断の場合、直接物体をとらえなければ異常を検知することができませんが、音を使った診断は遮蔽物がある場合でも間接的に音波が伝わるため機能します。
また、特に対象物が回転体である場合には、異常があった際に異音が発生しやすいためマイクを使用した診断が特に有効な手段となります。
日常でも、“運転中に車からいつもとは違う音がする“、”洗濯機のドラムが回る音が大きくなった“など、過去と比較して発生している音に違いが発生した場合に、”故障“を疑う方が多いのではないかと思います。
工業用では、いろいろなところで音の情報を元に保守・点検が行われており、機械の動作音から正常か異常かAI等を用いて自動的に判断する取り組みなども出てきています。
2.過酷環境での異常検知
予兆検知ソリューションにおいて、音を用いた故障診断を実現するには、音を高精度で取得するセンサーが必要です。
一方で、測定する対象は、次に示すように、車に搭載するターボのように高温になるものであったり、発電機のように強力な電界、磁界が発生するものであったりと過酷な環境での測定が求められる場合があります。
(1)電力系タービンの異音検知

(2)原子力発電における放射線環境での異音検知
光ファイバーは放射線環境下でも劣化しにくいという特性があり、通常のセンサーでは2~3日で劣化する強い放射線環境下でも使用可能です。

(3)航空機のジェットエンジンの異音検知
ジェットエンジンも、高温且つ電磁波が発生する回転体の一つです。通常のセンサーでは近づける事ができない距離でジェットエンジンの音、振動、圧力を測定することが可能です。

(4)アーク溶接における異常検知
アーク溶接時に発生する音は、溶接の安定性を評価したり、異常な溶接を確認したりする観点で非常に有効です。
ただし、アーク溶接は、プラズマによって行われ高温になるため、温度・電磁波という両方の観点で非常に過酷な状況となります。

3.過酷環境で使用できる光ファイバー音響センサーの原理
光を使用した音響センサーは、そのような過酷な状況(高温・高電場・高磁場)でも高精度に音を取得する事ができます。
通常の音響センサーは、“磁石とコイルを組み合わせたダイナミックマイク”、“2枚の金属板を近接させたコンデンサマイク”など音を電気信号に変換するものが一般的です。
これに対して光ファイバー音響センサーは、音を光信号に変換して検知します。そのため、“光を出射、受光するコンバーター“と”先端に音圧を光信号に変換する機構を備えた光ファイバー“で構成されます。

光の経路に沿って、原理を説明します。コンバーター内のSLEDから出射された光は、接続された光ファイバーを通って光ファイバーの先端に取り付けられたメンブレンに届きます。
メンブレンは音圧波(圧力波)によって振動しているため、メンブレンから反射した光が振動の情報を持ちます。この反射光はファイバーを通ってコンバーターへと戻り、ディテクターで検出されます。ディテクターで検出した波形からメンブレンの振動である“音”を検出することができます。
(この原理からセンサーは音だけではなく、圧力や振動も検出できます。)
光ファイバーセンサーの原理をもっと詳しく知りたい方はこちら。
4.光ファイバー音響センサーの利点
電気信号を使用する音響センサーは、信号の伝達に金属を使用するため高温に耐えられる材料にするのが困難且つ、電界や磁界からノイズの影響を受けやすいという特性があります。
(1)350℃の高温での使用が可能
センサー先端部の材質にInvarという鉄、ニッケル、マンガンの合金を使用することで、高温にも耐えることができます。また、350℃までの熱膨張係数が非常に小さいため、350℃でも変形しないという特徴を持ち、高温でも音響センサーとしての精度を保つことができます。また、ファイバーには高分子材料の中でも、高強度、高耐熱性であるポリイミドを使用しています。
(2)高電場、高磁場環境下でのSN比が高い
光を使用しており、電界や磁界からのノイズの影響を受けないので、ノイズに対する信号の割合(S/N)が低いという特徴があります。
(3)長距離の信号送信が可能
光は、信号が劣化しにくいので、ファイバーをカスタムで最大10kmまで伸ばして使用する事が可能です。
ただし、光がファイバー内のコアとクラッドの間を全反射して進むため、曲げ半径を守って使用しない場合、光が全反射せずにクラッドに光が漏れてセンサーが正常に動作しない場合や、最悪の場合、コアが断線する危険性がある点には注意が必要です。
(4)長期運用コストが安い
一般的に光ファイバーセンサーのコストは割高のため初期投資は必要ですが、メンテナンスフリーで寿命が長いのでランニングコストは低くできます。
5.光ファイバー音響センサーの性能
(1)周波数帯域
対応する周波数帯域は15Hz~20kHzで人が認識できる周波数(20Hz~20kHz)をカバーすることができているため、人が認識できる異音は検知が可能です。事例にもよりますが、広い周波数特性を示し異音検知で一般的に使用されるコンデンサ式のマイクの周波数帯域とほぼ同等であり、回転体の騒音や振動を検知する事にも適しています。

光ファイバーの周波数感度特性
(2)出力
計測した音は、「マイクで使用される3.5mmのジャックへの出力」、「BNC端子から±2.5Vの電圧での信号出力」、「USB TypeC端子によるPCへの出力」が可能です。これにより、通常の音響設備に接続することや、オシロスコープ等を用いて波形をリアルタイムでモニタリングすることが可能です。
6.高温での測定例
実際の高温での測定例として、車のターボチャージャーの例を紹介します。
ターボチャージャーはエンジンからの廃棄ガスでタービンを回し、その回転で同軸上のコンプレッサーで空気を圧縮し、密度の高い空気をエンジンに送り込みます。
この時、350℃付近になったターボチャージャーの本体の異常検知を行いました。

測定結果の横軸が周波数[Hz]、縦軸が時間[s]、色が音の強度[dB]で、赤い部分は大きな音が出ている部分です。
測定開始から数秒後に、コンプレッサーの羽に空気の渦が発生する乱流という現象を発生させたところ、定常状態とは異なる周波数帯において、強い音を検出できました。

7.製品紹介
Phonoptics社の光ファイバー音響センサー Myotisは、光を用いるため、通常の音響センサーでは測定できない厳しい環境下でも測定が可能です。
過
酷な環境下でのセンシングにご興味がある方は、ケイエルブイまでご連絡下さい。

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