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日本は金属資源の多くを輸入に依存しており、特にレアメタル・レアアースは産出国が限られています。
国際情勢の変化によって調達が不安定になるリスクが指摘されており、国は供給源の多角化を進めています。
当記事では、世界で行われているハイパースペクトルカメラによる鉱物資源の確保や鉱山に関する管理、および日本国内での適用可能性について言及します。
鉱物資源の探査は、広い範囲から段階的に対象を絞り込みます。
ハイパースペクトルカメラを搭載した衛星によるリモートセンシングでは、広い範囲を一度に分析可能です。
ただし地表に露出している対象を測ります。植生、土壌、積雪、水、雲、影などに覆われている鉱物を、そのまま透視できるわけではありません。
経験を積んだ熟練の技師が、露頭(地層や岩石や鉱床がむき出しになっている場所)や岩石試料、転石、沢砂などを採取・観察します。
分光放射計があればその場で変質鉱物が確認でき、次の調査地点を判断する材料になります。
多くの重要な鉱床は熱水により作られます。(熱水鉱床)
マグマで熱された地下水や海水が金属の成分を溶かします。その金属が溶け込んだ熱水が地殻や岩盤の割れ目を通って上昇し、冷えて鉱床になります。
その熱水の通り道では、対象となる金属以外にも岩石が化学的作用で変質していきます。変質鉱物の組み合わせや化学組成は、熱水の温度やpH、流体組成、母岩との反応を反映します。
複数地点の情報を地質構造や化学分析と組み合わせることで、鉱化の中心や広がりを推定する手掛かりになります。
絞り込んだ有望地に対し、ボーリング調査を行います。実際に採取したコアを技師が観察し、鉱化(有用な金属が濃縮)の有無を確認します。
ただし鉱床の発見は容易ではなく、何度もボーリングを繰り返しながら都度掘削コアを分析し、高品位(金属の含有割合が高い)な鉱床を探索します。
1回のボーリングには相応の費用が掛かります。
この一連のプロセスでは技師による高度な熟練の知見・技術に依存しており、人手不足・技術の継承も課題です。対して海外では、人による判断を支援し、観察・記録を効率化する取り組みが進んでいます。
衛星によるリモートセンシングでは、空間分解能は代表的なセンサーで15m~30m程度です。これは撮影画像の1ピクセルの単位がとても広い範囲になることを意味します。傾向は掴めても、そこから広い範囲で人が現地調査を行う必要があります。
地質学のリモートセンシングの基準地であるCuprite Hills(アメリカ・ネバダ州)で、ハイパースペクトルカメラをドローンに乗せてスペクトルデータの収集を行った事例をご紹介します。
使用したカメラはHySpex Mjolnirです。VNIR(可視近赤外)と、SWIR(短波長赤外)の波長範囲をカバーする2つのハイパースペクトルカメラが搭載されており、400~2,500nmの幅広い波長範囲のデータを取得することが可能です。それにより鉱物マッピングの性能が評価されています。
事例)ドローン搭載型ハイパースペクトルカメラによる鉱物マッピング(Cuprite Hills)
ドローンに搭載して低空から撮影すれば、条件によっては数cm級の空間分解能で露頭や斜面、採掘面を面的に記録できます。衛星では捉えられない細かな変質の分布が見え、人が立ち入りにくい急斜面にも対応できます。
衛星で広い範囲から当たりをつけ、ドローンで絞り込み、現地調査に入ることで、限られた調査期間・人員をより有望な場所に集中させることができます。
高分解能、高速性に加え、軽量かつ低消費電力。UAV用に開発されたハイパースペクトルカメラです。
現地で採取した試料をその場で確認したい場合、持ち運び可能な分光放射計が便利です。岩石や鉱物にセンサーを向けるだけでスペクトルデータを取得できます。(点での測定)
1モデルで350~2,500nmの分光データを取得できるポータブル分光放射計です。
ボーリングによって得られる地質情報と化学分析結果は、鉱床評価における重要な判断材料になります。深い場合掘削は1,000mを超えることもあります。
従来それら掘削コアや岩石破片(カッティングス)等の確認は技師が人手で行っていました。しかし全てを手作業で確認していくことは現実的ではありませんので、ポイントを絞って分析していくことになります。
海外ではこの工程に大きな変化が起きており、ハイパースペクトルカメラによる連続的に記録・可視化する方式が普及し、成果を上げています。
オーストラリアではNational Virtual Core Library(NVCL) という、国家規模の掘削コアデータベース基盤を構築しています。
参考)National Virtual Core Library — AuScope
オーストラリアでは6つの州および準州の地質調査所に、コアスキャンシステム(ハイパースペクトルカメラによるコアスキャン専用装置)が設置されており、各調査所の専門スタッフによる運用・品質管理が行われています。それにより20年以上にわたってマッピングされた6,200本以上の掘削コアと、1,680kmに及ぶスキャン済みコアのライブラリが構築されています。
CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)はこの仕組みについて、下記のポイントを言及しています。
CSIROによると、導入の効果として、毎年数百万ドルの節約と、精度および効率性の向上を実現しているとのことです。
参考)HyLogging: saving millions through automated drill core logging — CSIRO
ハイパースペクトルカメラをコア分析に用いると、粘土鉱物、雲母、炭酸塩、鉄酸化物など、可視・近赤外・短波長赤外域に特徴的な吸収を示す鉱物の分布を推定できます。肉眼では識別しにくい鉱物組成や組成変化を捉えられる場合があります。
その分布や組成のわずかな変化は、連続データ化することによって鉱化部へ向かう方向を推定する手がかりになります。
プロジェクト全体で合計数kmに及ぶ掘削コアを、非破壊で連続的に記録できることは、探査全体の効率化に直結します。目視観察を補完し、記録の再現性や比較可能性を高められる点が特長です。
CSIROはこれを、地質学者に「新しい目」を与えるものと表現しています。
日本国内では、そのような取り組みはまだこれからという状況です。
ボーリングでは多大な費用が掛かります。特に海洋資源探査の世界では顕著です。
2017年に公表された内閣府のSIP「次世代海洋資源調査技術」の資料では、海底探査は陸上に比べて高い傭船費(数百万円/日)と、陸上と比較して100倍とされる高額なボーリング費が挙げられています。
参考)内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代海洋資源調査技術」
これは裏を返せば、1本のコアから得られる情報を最大化することが、それ自体で有益な投資になりうるということです。再取得が難しい高価な試料であれば尚更、非破壊で連続した記録を残す意味は大きくなります。
資源大国であるオーストラリアの専門機関が言及しているように、掘削コアからの情報は時間と費用を節約するのに役立つということです。
日本の海洋資源というと、南鳥島周辺の海底泥に含まれるレアアースが今注目されています。しかし海洋鉱物資源はそれだけではありません。海底熱水鉱床もその一つです。
海底熱水鉱床は、海底下に浸透した海水がマグマ等により熱せられ、地殻から溶け出た金属が海底で沈殿してできたものです。
銅・鉛・亜鉛のほか金・銀を含み、日本のEEZ内でも沖縄トラフなどで調査が進められています。
この鉱床と地質学的に同系統にあたるVMS(火山性塊状硫化物)鉱床では、掘削コアのハイパースペクトル撮像が既に実践されています。スペイン・イベリア黄鉄鉱帯のElvira鉱床では、80孔・総延長7,000mの掘削コアが撮像され、得られた鉱物マップからは、一見均質に見える黒色頁岩の内部にも鉱物組み合わせや化学組成の変化が認められ、鉱化へ向かうベクトルとして利用できる可能性が示されています。
参考)De La Rosa, R. et al. (2021) Mineral quantification at deposit scale using drill-core hyperspectral data: A case study in the Iberian Pyrite Belt. Ore Geology Reviews, 139, 104514.
また、HySpexのSWIR-320mカメラを用いた掘削コアの変質マッピングは、カナダ・サスカチュワン州の不整合関連ウラン鉱床への適用事例として論文化されています。この事例はVMS鉱床だけでなく、不整合関連型ウラン鉱床においても掘削コアの変質鉱物マッピングにハイパースペクトル撮像を利用できる可能性を示しています。
資源探査の分野には、ハイパースペクトルカメラの活用によって加速・効率化できる余地がまだ多く残されています。
新たに掘削するコアだけが対象ではありません。
過去にボーリングされ、保管されている掘削コアを改めて撮像することで、当時の観察では得られなかった情報が得られる可能性があります。掘削費用をかけずに始められる取り組みであり、既存の資産を見直すという観点からも検討に値します。
ここまで、目的の金属そのものではなく周囲の変質鉱物を追う手法を説明してきました。ただし例外があり、ネオジム(Nd)などの希土類イオンは、可視〜近赤外(VNIR)領域に固有の鋭い吸収特性を示します。
希土類を含む鉱物が一定以上の濃度と粒径で存在する場合、その吸収特性を利用して鉱物分布を推定できることがあります。
ただしこれは元素濃度を直接測定する化学分析ではありません。母岩、粒径、混合する鉱物、濃度などによって検出の難易度は変わり、化学分析による確認が必要です。
資源探査:ハイパースペクトル顕微鏡によるレアアースの検出
熱水性の金鉱床や地熱地域では、粘土鉱物・雲母・緑泥石などの変質鉱物の分布が熱水活動や鉱化作用を把握する手掛かりになります。これらの水酸基を含む鉱物の識別には、SWIR領域の分光測定が適しています。
日本は石灰石について自給率100%を維持しており、国内年間生産量は近年1.1億トン規模です。資源に乏しいとされる日本において、自給できる数少ない地下資源です。
方解石と苦灰石(ドロマイト)は炭酸塩の吸収帯位置が異なるためSWIRで区別でき、粘土も同じ波長域で識別できます。ベントナイトの主成分となるスメクタイトも、SWIR領域に特徴的な吸収を示します。
炭酸塩の品質検査
鉱物マッピングとして事例があります。Apliki鉱山(キプロス共和国 ニコシア地区の銅-金-黄鉄鉱山)におけるハイパースペクトル撮影と、鉱物の分類について紹介しています。
鉱物の分類
JOGMECによれば、日本には全国に5,000ヵ所以上の休廃止鉱山が存在し、そのうち約450ヵ所では閉山した現在も鉱害防止事業が実施中、あるいは実施が必要とされています。
国内の金属鉱物は硫化物が多いため、旧坑道や捨石・鉱さいの集積場から酸性かつ重金属を含む坑廃水が発生することがあり、その処理は半永久的に続くコストとして大きな課題となっています。
対策の方向性として、坑廃水を下流で処理するだけでなく、水量削減や水質改善を目的とした「発生源対策」が挙げられています。
酸性坑廃水の生成過程で生じる二次鉄鉱物は、pH条件等によって種類が変わります。捨石や鉱さいの集積場は植生に覆われていない場合、ドローンによる上空からの撮像に適しています。対策を優先すべき領域を面的に把握する手段として、活用の可能性があります。
実際に廃鉱となったキプロスのMemi鉱山において、HySpexのハイパースペクトルカメラによる撮影+Breeze Geo(鉱物マッピングソフト)を活用した事例があります。
事例)Mine Waste Monitoring — HySpex
参考)鉱害防止 — JOGMEC JOGMECが開発した鉱害防止対策最新技術(JOGMECプロセス)を盛り込んだ2つのガイダンスを公表 — JOGMEC 鉱害防止事業について — JOGMEC
HySpex(Norsk Elektro Optikk社/ノルウェー)は、高い波長分解能とS/N比を特長とするハイパースペクトルカメラです。世界各国の研究機関・資源探査プロジェクトで採用されています。
航空機から実験室、野外およびイメージング分光法の工業用途に至るまでの幅広い用途に対応。
SWIR-320mカメラを用い、サスカチュワン州の不整合関連ウラン鉱床の掘削コアに適用した事例が論文化されています。
参考)Mathieu, M. et al. (2017) Alteration mapping on drill cores using a HySpex SWIR-320m hyperspectral camera: Application to the exploration of an unconformity-related uranium deposit (Saskatchewan, Canada). Journal of Geochemical Exploration, 172, 71-88.
HySpexを用いて、ブラジルの2か所の鉄鉱山と1か所のニッケル鉱山から得られた試料を分析した事例があります。
鉄鉱石については鉄含有量や夾雑物の異なる試料、ニッケル鉱石については品位の異なる鉱石、表土、廃石などを対象に、VNIR・SWIR領域のスペクトルから試料を判別しました。
こうして作成した鉱山固有のスペクトルライブラリは、採掘面やドローン画像などの解析に利用でき、鉱石と低品位鉱・廃石の判別や、選別工程の判断支援への応用が期待されます。
事例)Hyperspectral Imaging for Ore Distinction — HySpex
ハイパースペクトルカメラで撮影したデータを用いて照合を行います。
鉱物のスペクトルデータ解析には、専用ソフトウェアがあります。
地質学向けスペクトル解析ツール Breeze Geo
データベースとして、米国地質調査所(USGS)が提供するMICAデータを用いて解析を行います。 世界的研究機関のデータをもとにしているため、豊富な鉱物候補の中で信頼性の高い判別ができます。
さらに、解析結果は鉱物ごとに色分けしたマップとして可視化できます。 これにより、どの鉱物がどこに分布しているのかを直感的に把握できるため、解析を効率的に進めることができます。
→スペクトル解析専用ソフトウェア Breeze Geoこちら
ハイパースペクトルカメラによるリモートセンシングは既に広く活用されていますが、それ以降の工程において、日本国内における活用の余地は大きい状態です。
鉱物資源のハイパースペクトルカメラ活用をご検討の際には、お気軽にケイエルブイへご相談ください。
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