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KLV大学 ハイパースペクトルカメラコース

産総研・新澤先生による 低価格マルチスペクトルカメラの実力検証

イメージセンサの低価格化や分光機構の工夫により、非常に高いコストパフォーマンスを実現したマルチスペクトルカメラ”Monarch Ⅱ”が登場しました。
通常のマルチスペクトルカメラと比較して価格が安いため「どこまで使えるのか?」と思われるのではないでしょうか。
そこで今回、産総研の機能化学研究部門でグループ長をされている新澤先生に、”Monarch Ⅱ”で実験を行なっていただき、「ハイパースペクトルカメラのエントリー機として非常に魅力的な製品」という評価をいただきました。
本記事では、Monarch Ⅱ(※)の概要や実験の結果を紹介いたします。

Monarch 製品ページ(※)

(※)Unispectral社製マルチスペクトルカメラ「Monarch」 製品シリーズ
MonarchⅡは旧製品となり、後継品はIP55のアルミニウム筐体でFWHM(半値幅)を向上した「Monarch Pro」となります。詳細は製品ページをご覧ください。



1. マルチスペクトルカメラ”Monarch Ⅱ”とは

マルチスペクトルカメラとは

マルチスペクトルカメラとは、スペクトルカメラの中でも、測定できるスペクトル(バンド)が4〜30バンド程度の比較的少ないカメラです。

測定できるスペクトルバンドが30バンド以上のハイパースペクトルカメラに対して、得られる情報が限定できですが、測定波長(測定波長帯域)を限定することによって、分光にかかる費用が抑えられ、価格が安いという特徴があります。
このため、ハイパースペクトルカメラで測定対象の波長を特定し、特定された波長をカバーするマルチスペクトルカメラを現場で使用するというのが一般的な使い分けです。

RGBカメラ

RGBカメラのバンド数

RGBカメラは、3バンドの波長情報を獲得します。

マルチスペクトルカメラ

マルチスペクトルカメラのバンド数

マルチスペクトルカメラの波長情報は10バンド程度です。

ハイパースペクトルカメラ

ハイパースペクトルカメラのバンド数

ハイパースペクトルカメラのバンド数は非常に多いです。

マルチスペクトルカメラ”Monarch Ⅱ”で何が見れるのか

Monarch Ⅱの波長帯域は、690~935 nmです。
この波長帯域は、「可視域の赤」および「近赤外」であり、植物の健康状態や栄養分のモニタリング、害虫の検出、水分検出、材料の分別、静脈の検出による高精度な顔認証 などが可能です。

農業分野

Monarchの農業アプリケーション
  • 水分
  • 害虫,病気の侵入
  • 糖度,NPK(窒素・リン・カリウム)

産業分野

Monarchの産業アプリケーション
  • 生産ラインでの分類
  • ロボット,自動検査

医療分野

Monarchの医療アプリケーション
  • バイタルサインのモニタリング
  • 肌分析

2. 新澤先生による”Monarch Ⅱ”の検証結果

検証①ポリ乳酸とナイロンとの分類

ポリ乳酸(PLA)は、植物に含まれるデンプンを原料とした生分解性プラスティックで、微生物の力で分解できる環境に優しいプラスティックで、トレー、ストロー、カトラリーなどに使用されます。
一方で、ナイロン(ポリアミド)は、アミド結合を持つ合成樹脂で、強度や耐熱性に優れているため、衣類や工業用品など幅広く使用されています。

この、ポリ乳酸とナイロンはプラスチック分別の際に判別する必要がありますが、両方とも白濁した材料なので見た目では分別がつきません。

ポリ乳酸とナイロンの比較画像

今回、このポリ乳酸とナイロンが、Monarch Ⅱで分類可能かを確認いただきました。

ポリ乳酸とナイロンのスペクトル測定結果

ポリ乳酸とナイロンのスペクトル比較

結果から、ポリ乳酸は全ての波長で吸光度が高く、ナイロンは全ての波長で吸光度が低いという違いがあることがわかります。
これは、光を散乱する度合い(=濁度)の違いが現れているためだと考えられ、これにより、2つの材料を区別することができます。

ポリ乳酸とナイロンの分類結果

以下は、スペクトル解析に基づいて、736nmの強度で2値化処理を行った結果です。
茶色がポリ乳酸、黄緑がナイロンと判別された部分です。この結果から、ポリ乳酸とナイロンをある程度分類することが可能といえます。

ポリ乳酸とナイロンのスペクトルによる2値化




検証②乾燥ナイロンと吸湿ナイロンの分類

ナイロンは吸湿しやすいうえに、成形加工中に水分子が気化することで破壊の起点となるボイド(構造欠陥)を生成するため、水分を含んでいるかの確認が重要になります。

しかし、当然のことながら”水”は透明のため、水分を含んでいるかを目視で判別することは困難です。

吸湿ナイロンと乾燥ナイロンの画像

今回、吸湿ナイロンと乾燥ナイロンが、Monarch Ⅱで分類可能かを確認いただきました。

吸湿ナイロンと乾燥ナイロンの主成分分析結果

取得したスペクトルを多変量解析にて、主成分分析した結果の”第1主成分のスコアとローディング”、”第2主成分のスコアとローディング”をそれぞれ示します。

第1主成分のスコアとローディング

スコア

ローディング

第1主成分は、射影したデータの分散が最大となる軸を元にした成分分析で、今回のケースでは、主にペレット表面での光散乱の度合いを表します。

第1主成分のローディングを確認してみると、すべての波長において第1主成分のローディング値が大きな正の値を示しており、どの波長でも吸湿・乾燥ペレットの分類は難しいことがわかります。

第2主成分のスコアとローディング

スコア

ローディング

第2主成分は、第1主成分と直行する軸の中で、軸上に射影したデータの分散が最大になる軸を元にした成分分析です。

第2主成分のローディングを確認してみると、900nmm付近においてのみ大きな正の値を示しており、これが、吸水ナイロンに含まれるOH基の赤外線吸収によるものだということが推測できます。

また、スコアでも吸湿、乾燥ナイロンの間でスコアの差が出ており、吸湿・乾燥ナイロンの分類ができていることがわかります。

主成分分析のスコアとローディングとは

主成分分析は、データが持つ変量が多い場合に、新たにデータの変量を用意して、少ない変量でデータを表す解析方法であり、スペクトル解析で一般的に用いられる方法の一つです。

主成分分析のスコアとローディング

上図ように、x-y軸をl-m軸に変換した場合、第1主成分”l”と第2主成分”m”を以下の数式で表すことが可能です。

l = h11 * x + h12 * y
m = h21 * x + h22 * y

この時、変換によって算出された”l , m”がスコア、変換における”重み”である”h11,h12,h21,h22”がローディングです。


3. まとめ(マルチスペクトルカメラMonarch Ⅱの活用)

今回、Monarch Ⅱが、以下のような目的で、ある程度使用可能であることをご確認いただきました。

透明性や色味の僅かな違いや、成形品の表面・内部の傷の外観検査に活用可能

見た目の色味では差がわからないポリ乳酸とナイロンを、Monarch Ⅱを用いて取得したスペクトルから2値化を行うことで分類することができました。
Monarch Ⅱの短波長側は、試料の透明性の違いの検出に適していることがわかります。

プラスチック原料の吸湿検査や食品の水分量の簡易分析に使用可能

見た目では差がわからないのない吸湿、乾燥ナイロンを、Monarch Ⅱを用いて取得したスペクトルの主成分分析を行うことで分類することができました。
Monarch Ⅱの長波長側(特に900nm付近)は、水のOH基による光の吸収の検出に適していることがわかります。


産総研 新澤先生について

新澤英之 先生
産総研 機能化学研究部門

化学材料評価グループのグループ長として、樹脂・ゴム材料やプラスティック材料の品質や安全性を評価するための独自の分析・評価技術を開発されています。

産総研 化学材料評価グループHP

新澤先生には、過去に「光でプラスティックの劣化診断・判別ができる」というWebセミナーで、ハイパースペクトルカメラを用いた”ポリプロピレンの劣化の定量値化”についてご講演いただきました。

以下から動画や資料がダウンロード可能です。是非ご確認ください。

光でプラスティックの劣化診断・判別ができる

2022年2月8日開催
SDGsで注目されるプラスティックのリサイクルや品質保証。
近赤外光によってポリプロピレンの劣化の度合いを推定する技術に関して、産総研の新澤先生に研究内容をご紹介いただきました。

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