ハイパースペクトルカメラは、光を分光して撮影できる特殊カメラです。
通常のカメラ(RGBカメラ)よりも、多くの情報を取得できることから、土壌や河川の分析など、様々な用途で使われています。
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お問い合わせ2022.12.20 | 植生分析
今回は「自然環境の調査」や「作物の管理」に、ハイパースペクトルカメラをご活用いただけるというお話をお伝えします。
環境保全を始め、分析や評価、モニタリングなど「自然環境」の調査には、多様な計測器を使った様々な方法で行われます。しかし、こうした調査には、時間や手間のかかる方法も多くあります。
ハイパースペクトルカメラを用いることで、手間をかけずに、定量的な分析を行うことができます。
ハイパースペクトルカメラは、光を分光して撮影できる特殊カメラです。
通常のカメラ(RGBカメラ)よりも、多くの情報を取得できることから、土壌や河川の分析など、様々な用途で使われています。
ハイパースペクトルカメラ
今回はハイパースペクトルカメラでの「自然環境の調査」について、様々な撮影事例をもとにご紹介します。
記事前半では「ハイパースペクトルカメラの強み」や「データ分析の仕組み」をまとめました。
後半では、実際の撮影事例(森林の調査)を見ながら、具体的な撮影・データ分析について、お伝えしていきます。
私たちが普段使用している「RGBカメラ」は、3バンド(Red, Green, Blueの3波長)のみ撮影しますが、ハイパースペクトルカメラは数百バンド以上の波長情報を取得できます。
このため「植生図の作成」など、RGBカメラにはできないことも、ハイパースペクトルカメラを使うことで可能になります。
ポイントは、ハイパースペクトルカメラの撮影データは「画像情報である」ということです。
つまり、データは「視覚的」に確認できます。
これがハイパースペクトルカメラの一つ目の強みです。
こちらは「外来種の雑草」を判別した事例です。
「ハイパースペクトルカメラを搭載した航空撮影システム」で、上空から対象区域を撮影しました。
ハイパースペクトルカメラで「外来種の雑草」を判別
通常のRGBカメラで撮影した画像(RGB画像)では、外来種の雑草の見分けがつきません。
しかし、ハイパースペクトルカメラで撮影し、ソフトウェアで処理を施すと、外来種の雑草を視覚的に確認できることがわかります。
このように、ハイパースペクトルカメラで、特定の区域を撮影することで「外来種の雑草」と「その他植物」を区別する、といったことが可能です。
「植生図の作成」や「土地被覆の分類」も可能です。
例えば、植生分布も画像で色分けして確認できます。
ハイパースペクトルカメラの二つ目の強みは、植物、鉱物、水など、固体から液体まで様々な対象を分析できることです。
こちらは「鉱物」を分類した事例です。鉱物ごとの特性によって色分けしています。
例えば、紫色は「緑泥石グループの鉱物が優勢な緑泥石鉱物」を表しています。
ハイパースペクトルカメラで鉱物を分類
このように、ハイパースペクトルカメラで撮影することで、異なる対象を分類できます。
目視では確認しづらい対象であっても、ハイパースペクトルカメラのデータを使うことで区別できます。
次は「植物」を分析した事例を見ていきましょう。
こちらは、ハイパースペクトルカメラ撮影した「レタスの葉」を分析した事例です。
「クロロフィル(葉緑体)の含有量」によって色分けされています。
クロロフィルの含有量別に色分け
このように、ハイパースペクトルカメラで撮影することで、クロロフィルといった「成分」レベルでの分析も可能になります。例えば、クロロフィルの含有量を求める、といったように、定量的な分析も可能です。
ハイパースペクトルカメラは、様々な対象を分類したり、定量的に分析できます。
なぜ、このようなことが可能なのでしょうか?
それは、ハイパースペクトルカメラが「波長」を分析しているからです。
ここからは「ハイパースペクトルカメラの分析の仕組み」を見ていきます。
まずは、大まかな撮影のプロセスから、お伝えします。
屋内で撮影する場合は、ハイパースペクトルカメラを定位置に固定して撮影します。
対象のデータを正確に取得できるよう、専用の「光源」を用います。
屋外で撮影する際は、三脚などを使って、ハイパースペクトルカメラを固定します。
さらに広範囲を撮影したい場合は、ドローンにハイパースペクトルカメラを搭載することで、上空から対象の区域を撮影します。
屋外での撮影イメージ(左:三脚を使って固定、右:ドローンに搭載)
このように、ハイパースペクトルカメラは「リモートセンシング」での撮影も可能ですので、フィールドワークや、自然環境の調査でも活躍しています。
撮影したデータは、専用のソフトウェアを使って分析します。
ソフトウェアを使うことで「ピクセル単位」で何百もの波長データを見ることができます。(1ピクセルごとの波長データが見れます。)
グラフでは、波長(横軸)ごとの強度(縦軸)を見ることができます。
十字の中心(1ピクセル)の波長データが右のグラフに表示されている
ポイントは、この「波長データ」にあります。
波長データを見ることで、様々な対象を分類したり、定量的に分析できるようになります。
ハイパースペクトルカメラの波長データは「波長(横軸)ごとの強度(縦軸)」を表しています。
【スペクトルデータのイメージ図】横軸:波長、縦軸:強度
実は、物質ごとに、反射や吸収する波長は異なっています。
こちらは岩石の波長データです。
石によってグラフの傾き(波長ごとの強度)が異なっていることが見て取れます。
さらに、波長データは物質ごとに一定のパターンがあります。
つまり、物質ごとの波長パターンを見ることで「岩石の種類を特定する」といった、物質の「特定」が可能になります。
これは分子レベルでも可能で、例えば「コンクリートの塩分量」や「植物の葉のクロロフィル含有量」を割り出すこともできます。
ハイパースペクトルカメラによって波長データ(波長ごとの強度)を撮影できる。
物質によって反射光・吸収光は異なり、それには規則的なパターンがあるため、波長ごとの強度を見ることで物質を特定できる。(分類や定量的な分析も可能)
様々な対象を分類したり、定量的に分析できるため、ハイパースペクトルカメラは様々な用途で活用されています。
ケイエルブイは、それぞれ特徴のある5種類のドローン搭載用スペクトルカメラを取り扱っています。
など
デモ機のご用意もありますのでお問い合わせください。
ここからは、ハイパースペクトルカメラの撮影事例として、植生分類を中心に「森林調査」の事例を見ていきます。
ハイパースペクトルカメラを航空機やドローンに搭載することで広範囲の植生分類が可能です。
こちらは、ヒースランドを撮影した事例です。
ヒース(Heath)とは、ツツジ科の低灌木(エリカ属)のことで、ヒースが群生する荒地も指します。(本来はヨーロッパ北部の平坦地の荒地を表す言葉でした。)
ヒースの土壌は、酸性で肥沃度が低く、多くは砂質のため排水されやすいといった特徴があります。
面積の大部分を占める「紫色」で表されたエリアは、ヘザー(Heather)で、ヒースの表土に生えたエリカ属の植物を指します。
「緑色」は樹木を指し、「肌色」は裸地や草むらを表しています。
こちらの画像はハイパースペクトルカメラHySpex ミュルニルでの撮影後、機械学習によって分類されました。
ハイパースペクトルカメラで撮影した波長データ(スペクトルデータ)は、機械学習で解析できます。
スペクトルデータは、物質ごとに一定のパターンが見られます。ヘザー、樹木、裸地では、それぞれ、異なるパターンを示します。
さらに、ハイパースペクトルカメラは「1ピクセルごと」に、膨大な波長データを取得できます。
つまり「1ピクセルごと」の波長データを見ることで、そのピクセルが、ヘザー、樹木、裸地のどれに分類されるかがわかります。
ピクセルごとの波長データを見て判別する
機械学習では、データセットを作成し「撮影データと各ピクセルが何に分類されるのが正解か」を機械に覚えさせて、トレーニングを行います。
トレーニングが完了すると、ピクセルごとの波長データを見ることで、それが何か(ヘザー、樹木、裸地)を分類できるようになります。
1ピクセルの波長データを見て分類するため、詳細な植生分類が可能です。
例えば、こちらの画像で「くすんだ緑色」は「わらび」を指します。
画像を見ると、ピクセルごとに分類されている様子が見て取れます。
わらびの分布(くすんだ緑色のピクセル)
このように、ピクセルごとに分類できるため、裸地に生えている、わずかな「わらびの分布」もしっかりと確認できます。
加えてハイパースペクトルカメラは「特定の樹木」を識別できます。こちらをご覧ください。
白樺の分布(明るい緑色のピクセル)
ネオンカラーの「明るい緑色」は「白樺」を指します。
「濃い緑色」は白樺以外の樹木です。
画像の通り「白樺」を「その他の樹木」と区別できています。
ハイパースペクトルカメラで撮影し、機械学習によって分析することで、植生分類が可能です。
「機械学習」と聞くと、難易度が高いように思えるかもしれませんが、むしろこれまでに比べて容易になりました。
スペクトルデータは、実運用レベルでの分類・定量値の解析を実現する場合は、多変量解析などの統計解析を用いた方法が一般的でした。しかし、機械学習を用いることで、分光や機械学習の知識が少なくても目的である分類や定量値推定を実現できます。
通常の植生分類は、人手も時間もかかる作業ですが、ハイパースペクトルカメラを用いることで、植生分類もスムーズに行えます。
ハイパースペクトルカメラで撮影することで「樹木の高さ」をマッピングしたり、「植物・樹木の健康状態」を評価できます。
こちらは「樹木の高さ」をマッピングした事例です。
樹冠の高さ(m)が高いほど「濃い緑色」として表現されています。
「植生分類」や「樹冠の高さ」による分類の他にも、ハイパースペクトルカメラによる分析で、様々な分析が実現します。
ハイパースペクトルカメラは、様々な対象を分析できます。
例えば、土壌の分析では、種類を見分けたり、含水比を推定するといったことが可能です。
他にも、ミシシッピ川流域で、ハイパースペクトルカメラが現場測定を行い、硝酸塩、リン酸塩などを検出しました。このように、河川の汚染の分析もできます。
また、ハイパースペクトルカメラは農業分野でも使われています。
ハイパースペクトルカメラで鉱物を分類
記事前半でも触れましたが、ハイパースペクトルカメラで鉱物を特性ごとに分類できます。
こちらは、防衛・セキュリティー分野の事例記事に詳細をまとめております。
こちらはハイパースペクトルカメラで「冬小麦の収穫量」の予測を行った事例です。
PLSRモデルによって、上空から撮影した48の圃場の「クロロフィル量」を可視化しました。(※1)
(※1)「クロロフィル量」と「葉面積指数」の2つの値を予測し、それらの値から収穫量を予測します。
PLSRモデルに基づくクロロフィル量の空間予測
ハイパースペクトルカメラを用いることで、クロロフィル量など「収穫量の予測に必要なデータ」を取得できます。
こちらの事例の詳細は「農業分野」の事例記事に記載しておりますので、必要に応じてご参照ください。
「冬小麦の収穫量の予測」を始め「植生分析」でも、リモートセンシングによって、広範囲の撮影・分析が可能になりました。
ドローン技術の進歩によって、安定したスペクトルデータの撮影が可能になりました。
さらに、スペクトル解析も進歩しています。
例えば、ハイパースペクトルカメラ FireflEYE V185の分析ソフトウェアは「農業用途向けのハイパースペクトルインデックスライブラリ」が組み込まれています。
スペクトルインデックスを使用することで、データから、健康状態、クロロフィル含有量、水分含有量、構造情報等の情報を抽出できるため、広範囲を、素早く、定量的に、分析できます。
手作業による調査や管理、モニタリング、ラボでの分析には、膨大な時間と労力が必要ですが、リモートセンシングによって、必要なデータの取得がスムーズになる可能性があります。
「リモートセンシングでのハイパースペクトルカメラの撮影の様子」をまとめたコンテンツもございます。「機材一覧」や「カメラの取り付け手順」など、他では見られない詳細な情報をご覧いただけます。
当ページでご紹介した研究事例で実際に使用されたハイパースペクトルカメラです。
「植生分類」の事例で、使われた製品です。
UAV用に開発された高分解能のハイパースペクトルカメラで、ハイパースペクトルカメラの飛行撮影に必要なシステムがすべて内蔵されています。
他にも、リモートセンシングが可能なUAVハイパースペクトルカメラを取り揃えております。
「UAVハイパースペクトルカメラご紹介」ページでは、ハイパースペクトルカメラの強みがわかりやすくまとまっていますので、ご参考ください。
KLV大学「ハイパースペクトルカメラコース」には、基礎から用途例、研究例まで、多数の情報がまとまっていますのでご参考ください。
弊社(ケイエルブイ株式会社)はハイパースペクトルカメラの導入実績が豊富にございます。(実際にリモートセンシングでの製品の導入実績もございます。)
豊富な経験をもとに、お客様の用途に合わせた、最適な一台をご紹介いたします。
また弊社はハイパースペクトルカメラの専門家として「データ分析」でもお客様をサポートできます。
ソフトウェアの基本的な使い方を始め、機械学習を使ったスペクトルデータ分析にも知見がございます。(関連コンテンツ:機械学習/ディープラーニングを活用したスペクトル解析)
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