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偽造防止印刷とは?
分光器と不可視インクによる不正防止の技術

2024.02.07 | 

スキャン技術や印刷技術の進歩によって偽造技術が格段に進化する中、紙幣や重要文書を守るための偽造防止印刷技術も同様に高度化しています。この記事では、偽造を防ぐための先進的な偽造防止印刷を紹介し、分光器が真贋判定にどのように貢献しているのかを解説します。

はじめに

近年、スキャン技術や印刷技術の進歩に伴って偽造技術も格段に向上しています。高解像度スキャナーや高度な印刷機器が容易に入手できるようになったことで、偽造者は紙幣や重要文書の模倣をより簡単に行えるようになっています。これに対抗するために紙幣や商品券、証明書、チケットではより高度な偽造防止技術を採用しています。

2024年7月から発行される新紙幣には従来の紙幣から継続して採用される偽造防止技術だけではなく、新たな偽造防止技術も採用されています。新たに採用された3Dホログラムの技術は世界で初めてお札に採用される技術として注目されています。

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新一万円札に採用される偽造防止技術
  • 高精細すき入れ
  • 3Dホログラム
  • 潜像模様
  • パールインキ
  • マイクロ文字
  • 深凹版印刷
  • 識別マーク
  • すき入れバーパターン
  • 特殊発光インキ

これらの技術は偽造者が真似をすることが非常に難しいため、紙幣の安全性と信頼性を大幅に向上させています。

引用:「独立行政法人 国立印刷局:新しい日本銀行券特設サイト|新しい一万円札について」(最終閲覧日:2024/2/4)

このように、偽造技術の進化に対応するように偽造防止技術も進化を続けており、紙幣や重要文書の保護に不可欠な役割を果たしています。

偽造防止印刷とは

偽造防止印刷の定義

偽造防止印刷は、文書や商品が不正に複製されるのを防ぐために特別な印刷技術や材料を用いる手法です。これには、特殊インク、顕微鏡でのみ確認できる細かなデザイン、あるいは特定の光のもとでのみ見える模様などが含まれます。このような技術は、本物と偽物を区別するために重要な役割を果たします。

偽造防止技術の重要性

偽造防止印刷は、金融、政府文書、ブランド保護などさまざまな分野で極めて重要です。例えば、紙幣に用いられる偽造防止技術は、通貨の信頼性を維持するために欠かせません。また、身分証明書やパスポートの偽造を防止することは、セキュリティと個人の安全確保に不可欠です。さらに、高級ブランド製品の偽造を防ぐことも、企業のブランド価値や消費者の信頼を守る上で重要です。

偽造防止技術の種類

偽造防止技術には以下のようなものがあります。

特殊インク

紫外線下でのみ表示される不可視インクや、乾燥すると特定の部分が盛り上がるクリアインクなどがあります。

微細な印刷

肉眼では認識できない微細な印刷を用いることで、複製を困難にします。

ホログラム

見る角度により画像や発色が変化するホログラムは、偽造が困難で、本物の証明として広く用いられます。

透かし

紙幣や重要文書によく用いられる透かしは、特定の角度や光のもとでのみ見える特別なデザインです。

引用:「独立行政法人 国立印刷局:お札の偽造防止技術~現在発行されているお札〜」(最終閲覧日:2024/2/4)

偽造防止に役立つ特殊インク

偽造防止技術の中でも、特殊インクは重要な役割を果たしています。特殊インクには以下のようなものがあります。

金銀インク

金属粒子や特殊な顔料を含むため、独特の輝きを持っています。

クリアインク

乾燥すると特定の部分が盛り上がる特性を持ちます。これにより、独特の質感や立体感を文書に与えることができます。

不可視インク

ブラックライトなど特定の光源の下でのみ見えるようになるインクです。不可視インクで印刷された文書は、特殊な光源を使用しない限り通常は見えません。

磁気インク

鉄粒子を含んだインクで、磁気リーダーを用いて検出することができます。特に銀行の小切手などで使用されています。

引用:「あさひ高速印刷株式会社:偽造防止印刷(セキュリティ印刷)」(最終閲覧日:2024/2/4)

引用:「協同工芸社:ブラックライト印刷」(最終閲覧日:2024/2/4)

引用:「三星インキ株式会社 :特殊インキ 示温インキと磁性インキ」(最終閲覧日:2024/2/4)


例えば、金銀インクは金属粒子や特殊な顔料のために特別な輝きを持っており、クリアインクは乾燥すると特定の部分が盛り上がる特性を持ちます。通常のスキャナーで金銀インクの輝きを正確にデジタル化することは難しく、さらに一般的なインクジェットプリンターやレーザープリンターでは、金銀インクの複雑な反射やクリアインクの盛り上がりを再現することは難しく、そのような特殊インクを用いた印刷には特別な印刷機が必要です。そのため偽造された文書や製品は簡単に本物と区別することができます。
また、不可視インクは特定の光源の下でのみ見ることができる特別なインクのため、特殊インクの中でも紙幣やパスポートのように特に高いセキュリティ性が求められる場面で利用されています。

不可視インクの特性

不可視インクとはインビジブルインクとも呼ばれ、特定の光源の下でのみ発現したり発光する特別なインクです。多くの場合には検知にブラックライトが用いられますが、より特殊な光源でないと検出できないインクもあります。これらのインクは、紫外線や赤外線などの特定の波長の光に反応して発光する蛍光物質や燐光物質を含んでいます。

不可視インクの偽造防止効果

一般的なスキャナーでは、不可視インクで印刷された情報やパターンを検出することが困難です。さらに、不可視インクは複雑なデザインと組み合わせることもできるため、より模倣を難しくすることが可能です。このように、特殊インクの中でも不可視インクは、その隠匿性と模倣の難しさにおいて特段の性能を持ち、偽造防止用途で主に使用されています。

米国立研究所が開発した2色に光るインク

米国エネルギー省のサンディア国立研究所が開発した不可視インクは、偽造品の流通を防止するために作られました。このインクは通常は無色透明ですが、紫外線を当てると可視光と近赤外線の両方を発する特性があります。材料には金属有機構造体(MOF)が使われており、これにはユウロピウムとイッテルビウムという2種類の金属原子が含まれています。ユウロピウムは可視光、イッテルビウムは近赤外線を発します。これまでの技術では1種類の光しか発せませんでしたが、2種類の光を発するため模倣をより困難にしています。さらに、MOFのもう一つの成分であるガドリニウムの量を調整することで、発光時間を変えることができ、これにより時間経過によって変化するマークを作ることも可能です。現段階では長期的な機能や実用化に向けた検討を行っている最中ですが、今後の実用化が期待されています。

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引用:「日本経済新聞 :偽造品防止の特殊インク、米研究所 2つの光を発光」(最終閲覧日:2024/2/4)

証明書や重要書類への適用例

不可視インクは、証明書、身分証明書、入場券、クーポンなど、多岐にわたる文書に応用されています。このようなインクを用いることで、重要文書の偽造を大幅に防ぐことができます。これらの文書は、特定の光源を当てることで真贋を確認できるようになります。例えば、パスポートの身分事項ページにブラックライトを当てると写真や政府の紋章が浮かび上がるような加工がされています。そのほかにも高度な精密印刷技術を駆使することにより、偽造をほぼ不可能にしています。

証明書や重要書類への適用例

真贋判定技術は、偽造防止印刷技術と密接に関連しており、本物と偽造品を区別するために不可欠です。この技術は、特殊な機器や手法を使用して、文書や商品の真正性を確認するものです。真贋判定の方法は多岐にわたり、物理的、化学的、光学的な特性を分析することで、偽造品の検出を可能にします。

真贋判定における分光器

真贋判定において、分光器は重要なツールです。分光器は、光をその構成要素に分解する装置であり、特定の波長の光を検出し、分析することが可能です。この原理は、特殊なインキや素材を使用した防止印刷技術において、偽造品と本物を区別するために利用されます。
分光器が真贋判定において果たす役割は大きく分けて2つあります。1つ目は、特定の波長の光を反射または吸収する特殊なインキを識別することです。これにより、正規の印刷物と偽造物とを区別することが可能になります。2つ目は、分光器は印刷物に隠されたセキュリティ機能を検出するために使用されます。これらの機能は肉眼では見えず、特定の波長の光の下でのみ見ることができます。

分光器の応用事例

分光器は、貨幣や身分証明書、ブランド製品など、さまざまな分野の真贋判定に使用されます。例えば、紙幣には、特定の波長の光に反応して特有の色に光るインクが使用されており、分光器はこれを検出して真正性を確認します。また、フランス当局発行の身分証明書に使用されている発光体を分光器で測定すると、他とは明確に区別される特徴的なスペクトル特性を確認することができ、その真正性を確かめることができます。

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引用:「ケイエルブイ:分光器を使用した偽造文書の判別(文書の認証)」(最終閲覧日:2024/2/4)

真贋判定技術の比較

例えば、公的文書の真贋判定を行う場合にはいくつかの手法があります。

  • 化学的手法:分光器分析やガスクロマトグラフィー、質量分析などが含まれます。これらは文書に使用されているインクや紙の化学組成を分析し、真贋を判断します。
  • 物理的手法:顕微鏡分析、紙の密度測定、3Dスキャニング、X線分析などが含まれます。これらは文書の物理的特性を調べることによって、その真贋を判断します。
  • デジタル手法:デジタル画像分析やフォレンジック技術を用いて、文書のデジタルコピーまたはスキャンされた画像の真贋を判断します。

それぞれを各項目で比較すると以下のようになります。

手法 特徴と利点 精度 手軽さ コスト
分光器 多様な光のスペクトルを分析し、広範な化学的特性を特定する。非破壊的な手法。
ガスクロマトグラフィー 揮発性化合物を分析し、インクの化学的成分を特定する。
質量分析 超高精度の化学分析で、分子レベルの成分を特定する。
顕微鏡分析 紙の繊維構造やインクの塗布を細かく観察する。非破壊的な手法。
3Dスキャニング 文書の表面を高精度にスキャンし、微細な特徴を捉える。非破壊的な手法。
X線 内部構造を詳細に分析し、物理的特性を明らかにする。非破壊的な手法。
MRI 内部構造を非侵襲的に分析し、隠れた特徴を検出する。非破壊的な手法。
デジタル画像分析 高解像度の画像処理技術で、細かな特徴を検出する。非破壊的な手法。

偽造防止に役立つ分光器

いくつかの真贋判定技術でも分光器は以下の理由から真贋判定において非常に有効なツールです。

  • 様々な光のスペクトルを分析することで、インクや紙など多様な材料の化学的特性を広範囲に特定することが可能。
  • 文書を損傷することなく詳細な情報を抽出できるため、特に歴史的価値のある文書や貴重な書類の分析に適している。
  • 非常に高い精度で微細な化学的差異まで検出可能で、文書の年代判定や特定の製造工程の特定、微量のインク成分の分析など高度な情報収集が可能。
  • 比較的手軽に利用できるため、様々な状況での真贋判定に迅速かつ効果的に対応が可能。

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まとめ

偽造防止印刷技術は、現代社会においてますます重要な役割を果たしています。不可視インクや分光器を活用した真贋判定技術は、文書や商品の安全と真正性を保証する上で不可欠な要素です。この記事では、これらの技術の基本的な原理、その効果、および実際の応用事例について解説しました。

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