TDLASとは? ガス計測技術の原理・用途・お勧めの製品
TDLAS(Tunable Diode Laser Absorption Spectroscopy)とは、可変波長ダイオードレーザ吸収分光法の略で、レーザーを用いてガスの濃度を測定する技術です。
TDLASでは設計により様々なガス種に対応でき、高速・高精度な測定を行える優位性があることから、特定ガス種に対する測定を行いたい研究・産業・各種現場で幅広く用いられています。
ここでは、TDLASによるガス計測の開発・実装を行いたい方から、特定ガス種に対するセンサーを組み込みたいOEM、またユーザとしてTDLASによるガスセンサー・濃度計を利用したい方それぞれに向けて解説します。
TDLASの原理
まず、TDLASはレーザーを使って特定のガス種の濃度を測定します。
その根幹となるのは、光が物質に入射する際の、入射光と透過光の関係を表した「ランベルト・ベールの法則」です。
ランベルト・ベールの法則
光が物質に入射する際に光が吸収される量には一定の法則があります。
- 物質は分子種ごとに、特有の波長に吸収線が現れる
- 光が物質に入射した際の吸収量は、対象分子の濃度と光路長に応じて増加する
その法則を用いてガス計測器として実装するために、2つの技術が使われています。
- 吸収分光法
特定波長の光(狭帯域のレーザー光)を対象空間に当てて入射光と透過光を比較する。
- レーザーを三角波で駆動させ、掃引する
計測対象ガスがよく吸収される波長に沿ってレーザー光をゆっくり掃引し、どの波長でどれだけ吸収されたかを測定します。
なぜ掃引するのか?吸収線の櫛を見る
もし、特定波長の光1点だけの測定の場合、光量低下の理由を特定できません。
つまり、そもそもの光量が減ったのか、ガスに吸収されたのか、検出側の窓の汚れか、レーザーの出力が温度変化や電流変化でドリフトしているのか等の区別がつきません。
それを判定できるよう、0.1~0.5nm(実装による)程度の波長をシフトさせて掃引し、線の外を基準として比較することで、吸収されていることが確認できます。
下記はメタン(12CH4)について吸収線を可視化したグラフです。
実装の際はどの吸収線を選ぶのか検討し、その吸収線1本及び左右の吸収の弱い基準エリアに沿ってピンポイントに掃引します。(広帯域を掃引するわけではありません。)

図:選んだ吸収線(1650.96 nm)付近の透過率と掃引範囲。条件:CH4 1000 ppm, 1 atm, 296 K, 光路10 m(真空波長)。出典:HITRAN2024(本文末「データ出典」参照)。
TDLASの2つの実装 、DASとWMS
シンプルな構造のDAS(直接吸収法)
これまでご説明してきた内容は、DAS(直接吸収法)です。
DASは、一般に構造がシンプルなため校正・メンテナンス負荷が低く、一般的にノイズの少ない環境で高濃度ガスを計測する際に適します。(様々な工夫により低濃度ガスの高精度検出を実現している機器もあり、長光路セルや適切な信号処理により低濃度測定は可能です。)

低濃度のガスであっても高精度に測定するノイズに強いWMS
環境によるノイズの影響が生じやすい低濃度環境における高精度計測の一つの実装として、波長変調分光(WMS:Wavelength Modulation Spectroscopy)が用いられています。
原理としては、DASと同じ機構で三角波でレーザーを周波数シフト(掃引)する際に、細かく変調した正弦波を重ね、レーザーの波長を高速に前後へ揺らします。
波長を谷の上で細かく揺らすと、透過してくる光もその谷の形に応じて揺れます。とくに谷の底(カーブした部分)では、光の揺れが変調の2倍の速さの成分として現れます。これを 2f成分 と呼びます。
この2f成分だけを取り出すために、決まった周波数の揺れだけを選択的に拾う装置であるロックインアンプを用いて取り出します。2f成分は吸収線の形をくっきり映します。
そのため低濃度ガスで明確な差異が取りにくい場合でも、レーザーの出力の揺れ(ドリフト)やノイズの影響を抑えやすくなり、より高いS/N比で検出できます。

設定は実装により様々ですが、例えば30Hzの三角波に対して10kHzの高周波を重ねている研究事例などがあります。
参考:Festa-Bianchet, S.A.; Seymour, S.P.; Tyner, D.R.; Johnson, M.R. "A Wavelength Modulation Spectroscopy-Based Methane Flux Sensor for Quantification of Venting Sources at Oil and Gas Sites," Sensors 22(11), 4175 (2022). (Carleton University, Canada)
TDLASの実装
まず、計測したいガス種の吸収波長を把握する。
目的とするガス種がよく吸収する波長が具体的にどの波長なのかというデータは、例えばHITRAN onlineに高解像度透過分子吸収データベースとして提供されています。
例えば、メタンガスのセンサーを例に説明します。
メタンの主な同位体分子種として
12CH4
13CH4
12CH3D
13CH3D
がありますが、分子種ごとに分子が吸収する波長が異なるため、ここでは12CH4を対象にします。
HITRANから取得した線パラメータを用いて吸収スペクトルを計算すると、複数の吸収線が櫛状に並ぶ様子を可視化できます。

図:メタン(12CH4)2ν3帯の吸収スペクトル。HITRAN2024の線パラメータ(ν, S, γ_air, γ_self, n_air)からVoigt畳み込みで計算。条件:CH₄ 1000 ppm, 1 atm, 296 K, 光路10 m(真空波長)。出典:HITRAN2024(本文末「データ出典」参照)。
TDLASでは水蒸気(H2O)や他のガス(CO2などその環境に存在するガス)による干渉を抑制するために、
想定される干渉ガスのデータを重ねて確認し、どの線をターゲットにするか選びます。
干渉ガスが少ない帯域を優先し、その帯域を狙えるレーザーを選定します。
例えばメタンは1650 nm近傍に比較的よく吸収され、かつ機器も揃っており実装しやすいため、1650nm帯のDFBレーザーが選ばれます。

また、吸収線のスペクトルは温度や圧力依存で変動します。
HITRANのデータは296K(≒22.85℃)基準のため、異なる温度や圧力環境下では計算して吸収線を算出して用いることになります。
レーザーダイオードドライバーで注入電流を制御する
- 低周波の三角波(triang)で掃引
- 高周波の正弦波(sin)を印加(WMSの場合)
それにはTDLASに最適化されたレーザー駆動電源を用いることをお勧めします。
研究や単一用途にそのまま用いる場合のほか、システムインテグレーション用のライブラリも用意しており、ガスセンシングシステムのOEMに組み込む等も可能です。
TDLASの優位性
ガスセンサーには様々な方式がありますが、TDLASは下記特徴があります。
WMSで微量の計測も可能。
漏れ検知など低濃度アプリケーションに適する。(システム構成や対象ガスによっては、ppm以下~特定条件下ではppbオーダーの測定も可能)
測定時間が短くリアルタイムに計測できる
TDLASは非常に素早い測定が可能です。
オープンパス型等では接触型センサーのように、ガスを取り込むプロセスは必要ありません。
そのため、数秒単位から高速プロセスではミリ秒オーダーまで、ほぼリアルタイムで即時の計測を実現します。
特定のガス種を選択的に検出できる
分子固有の吸収線を利用するため、適切な吸収線を選ぶことで、特定のガス種を高い選択性で検出できます。
オープンパス型では離れた場所から測定できる
TDLASは、対象空間にレーザー光を照射し、受光器で測定します。
離れた場所からでも測定が可能です。
危険ガスの充満する環境や高温環境にTDLASは有効です。
ガスセンサーの種類について
他のガスセンサーの情報はこちら
TDLASの適用例
- 工場やプラントにおける排ガス監視
- メタンや一酸化炭素などのガス漏洩検知
- 大気環境や温室効果ガスの観測
- 水素関連設備の研究開発
ほか、特定ガス種を選択的に高精度に計測する特性から、
様々なオリジナルのガスセンサー・ガス濃度計の開発に用いられています。
お勧めの製品
TDLASによるガスセンサー開発
TDLASによるガスセンサー開発に。
多様な波長のDFBレーザーを取りそろえています。
遠隔でガスを監視したい
TDLAS 遠隔ガス分析計 BM-V-2 BeamSight®
ガス漏洩監視や環境モニタリングなど、離れた場所からガス濃度を測定したい場合には、遠隔ガス観測システムがお勧めです。
レーザー光を利用した非接触測定で、危険区域や広範囲の設備監視にも対応します。
製品詳細ガス濃度の変化を測定したい
ビームセル搭載 TDLAS 高速ガス分析システム BM-H-3 BeamCell®
プロセス監視や研究開発など、瞬間的なガスの濃度変化を捉えたい場合には、高速ガス計測システムがお勧めです。
高速応答のTDLASで、リアルタイムのガス挙動の分析に対応します。
製品詳細ガスを高感度に測定したい
TDLAS オープンパス ガス分析計 BM-H-3 BeamStack®
有害ガスや可燃性ガスなどの漏洩監視や研究開発など、より高い感度が求められる場合には、高感度ガス計測システムがお勧めです。
微量なガスでも検出しやすい光学構造を採用しており、低濃度ガスの高感度測定に対応します。
製品詳細ほか、TDLAS以外にも様々なガス種に対するセンサーを取りそろえています。
まとめ
TDLASの開発や、TDLAS技術を用いたガスセンサーの導入検討はKLVにご相談ください。
目的に合わせて多様なガスセンサー機器からご提案可能です。
データ出典(HITRAN)
■ データベース ■ 本図で用いた12CH4 2ν3帯パラメータの主な原典 ■ データ取得HITRANonline(https://hitran.org)、12CH4、パラメータ ν, S(296 K), γ_air, γ_self, n_air、取得日 2026年7月31日。





