シングルモード/マルチモードの違いと変換方法
シングルモード/マルチモードという言葉は、ビームモード、すなわち出力されたレーザーの形状や強度の分布のことを表しています。
これらのモードは主に光ファイバーもしくは半導体レーザー(共振器)において
- 光ファイバーでは、シングルモードファイバー/マルチモードファイバー
- 半導体レーザーでは、シングルモード発振/マルチモード発振
本記事では、シングルモードとマルチモードの原理からその応用先(アプリケーション)までを説明しています。
光ファイバーと半導体レーザーそれぞれのシングルモードとマルチモードの違いを知りたい方は、シングルモードとマルチモードの違いをご覧ください。
また、原理を既にご存知の方でシングルモードとマルチモードの接続方法や変換方法、アプリケーションの選び方を探している方は、シングルモードとマルチモードの応用へお進み頂ければ幸いです。
シングルモードとマルチモードの違い
まずはシングルモードとマルチモードそれぞれを詳しく説明します。
シングルモードとマルチモードという言葉は、その名の通り、ビームモード数が一つか複数かを表していますが、光ファイバーと半導体レーザーそれぞれに使われる意味は少し異なります。 光ファイバーではファイバー内を光が伝播する際の伝わり方(ファイバー内のモード数)に対して使われ、半導体レーザーにはその発振形態に使われます。 そこで、シングルモードとマルチモードを光ファイバーと半導体レーザーに分けて説明していきます。
シングルモード
光ファイバーにおけるシングルモード
光ファイバーでモードを説明するとき、導波モードという言葉を用います。
導波モードとは光ファイバー内を光が伝播する際の伝わり方のことです。 光ファイバーのシングルモードとは、導波モードが次の計算式で導き出された結果が2.405未満であるものになります。
(1)
式(1)を計算することはつまり、ビームモード数を求めることにあたります。
また、光ファイバーはコア層とクラッド層で構成されていますが、シングルモードでは主にコア層のみで光が伝播する性質を持つので、信号の遅延や歪みが少なくなり、高い伝送品質が得られます。
よって、長距離通信や高データレート通信に適した光ファイバーと言えます。
半導体レーザーにおけるシングルモード
半導体レーザーにおいて、特定の波長(一つの縦モード)のみが発振するレーザーをシングルモードレーザーといいます。
特徴は、横モードの観点から見るとビームの広がりが少ないため高いビーム品質を持っており、縦モードの観点から見ると、特定の波長(周波数)のみで発振するため狭線幅なスペクトルを持っていることです。
ここで、縦モードと横モードという言葉が出てきました。これらについて簡単に説明します。
縦モードは、共振器による共振周波数が
(aは整数) で示されるように、離散的なスペクトル分布のことです。
一般に、共振し得る波長(周波数)の光は多数存在します。
これは、共振器内部でのミラー間の距離は波長よりも長いため、波長の異なる多数の光が共振可能となるためです。
そして、多数の縦モードが同時に発振している状態は、レーザー発振において発振周波数が安定していないことを意味します。
逆に言えば、単一縦モードの時に発振が安定し、スペクトルが狭線幅になるのです。
一方で、横モードは、レーザー光の強度分布や電磁界分布のことを言います。
そのような分布ができるのは、レーザーが発振する際に共振器のミラーに対して完全垂直な光の成分とそうではない成分が干渉を引き起こすためです。
横モードを区別するためにTEM(Transverse Electromagnetic)という表現が使われており、Tは横方向、Eは電気、Mは磁気のモードを意味しています。
横モードはビーム品質を説明するときに用いられる言葉です。
横モードが基本モード(TEM00)である時、強度分布が中心で大きくなるような正規分布となっています。
この場合を単一横モード(あるいは単一モード(single-mode))と呼び、 単一モード以外での発進形態を多モード(multi-mode)と言います。
単一モード発振したレーザー光は光の広がり角が最小となる理想形なため、レーザーの「ビーム品質が良い」ことが特徴です。
マルチモード
光ファイバーにおけるマルチモード
光ファイバーのマルチモードは、シングルモード光ファイバーで説明した式(1)のうち、シングルモードの条件を満たしていないものになります。
マルチモードファイバーでは、低次のモードでコア層のみ、高次のモードでコア層とクラッド層の両方で光が伝播するという性質があります。
そのため、シングルモードファイバーに比べて伝送品質が劣ります。
性能が劣ってしまう代わりに、シングルモードファイバーよりも比較的安価であるというメリットがあります。
こちらは、主にビル内の短距離通信に用いられることが多いです。
半導体レーザーにおけるマルチモード
マルチモードレーザーは、複数の波長で発振されるレーザーのこと。
特徴は、多数の縦モードを持つためスペクトル幅が広くなることです。
また、横モードの強度分布が複雑になり、シングルモードレーザーと比較するとビーム品質が少々劣ります。
性能の面ではシングルモードレーザーには及びませんが、複数の光モードを使用するため高出力を得ることや、製造コストが比較的安いという利点もあります。
シングルモードとマルチモードの比較
ここまでで、シングルモードとマルチモードについて説明してきました。
今一度、各々の特徴を比較してみましょう。
光ファイバー
シングルモードファイバー
- 光ファイバー内を伝播する光の導波モードが一つ
- 伝送品質が高い
- 製造の際にシングルモードの条件を満たすことは難しいため比較的高価
マルチモードファイバー
- 光ファイバー内を伝播する光の導波モードが複数
- 伝送品質が低い
- 比較的安価
光ファイバーにおけるシングルモードとマルチモードの違いは次の表の通りです。
シングルモードファイバ | マルチモードファイバ | |
---|---|---|
モード数 | 1つ | 複数 |
コア直径 | 小さい | 大きい |
伝送品質 | 高い | 低い |
利用例 | 長距離通信など | 短距離通信など |
ここで重要なのは、伝送品質が異なるという点。
光ファイバーの構造はコア層とクラッド層で構成されていますが、モードによって光が伝播する場所が異なるため、このような違いが出てくるのです。
この違いから、それぞれの応用先(アプリケーション)が変わります。
半導体レーザー
シングルモードレーザー
- 特定の波長(周波数)のみが発振するレーザー
- 高いビーム品質
- 狭線幅なスペクトル
マルチモードレーザー
- 複数の波長(周波数)で発振するレーザー
- 低いビーム品質
- 広いスペクトル
- 高出力が可能
半導体レーザーにおけるシングルモードとマルチモードの違いは次の表の通りです。
シングルモードレーザー | マルチモードレーザー | |
---|---|---|
発振モード数 | 1つ | 複数 |
ビーム品質 | 高い | 低い |
利用例 | 光学計測 精密加工 医療分野 光通信 | 切断 溶接 光励起 |
このように、ビーム品質の良し悪しによって使用される場面が変わるのです。
シングルモードとマルチモードの変換と応用
例えば、「数十キロ離れた2つの建物間をシングルモードファイバーで接続したいのに、建物内の端末がマルチモードファイバー対応の機器である」といった状況では、 シングルモードファイバーとマルチモードファイバーを変換する必要があります。
これは一例ですが、ここでは光ファイバーにおけるシングルモードとマルチモードの互換性や変換方法、応用先(アプリケーション)の選び方について説明します。
シングルモード/マルチモードのモードコンディショニング
シングルモードからマルチモード、あるいはマルチモードからシングルモードへ変換するには、モードコンディショニングが必要です。
モードコンディショニングを行う場合は、モードコンバータを使用する必要があります。
モードコンディショニングとは
モードコンディショニングとは、光ファイバーの導波モードや特性を制御したり整形したりする行為のこと。
これによって、シングルモードファイバーを伝播してきたレーザー光をマルチモードファイバーに適切な角度で入射させることができます。
また、その逆も行うことが可能です。
<現環境におけるモードコンディショニングの重要性>
現在普及しているギガビットイーサネットネットワークにおいて、IEEE 802.3zで標準化されている1000BASE-LXでは、伝送路として既存のマルチモードファイバーケーブルを利用する際に、モードコンディショニングが欠かせません。
例えば、 1000BASE-LX準拠のトランシーバーからの送信光は、1.31um(長波)でシングルモードレーザー光です。
このシングルモードレーザー光が伝送路であるマルチモードファイバーに入射すると、複数の伝播路が生じて信号が受信側に到達するまでに時間差が発生することがあります。これをDMD(Differential Mode Delay)と呼びます。
DMDが生じると、レシーバー側で信号を正しく受信できずにエラーが起こる可能性があります。
DMDは、送信光とマルチモードファイバの相性により起こってしまう現象で、必ず発生するわけではありません。
しかし、既に敷設されているマルチモードファイバーケーブルとの相性を調べるわけにもいかず、トランシーバーとレシーバー間が一定の距離を超えた場合に、モードコンディショニングをするといった対策を取っているのが実情です。
モードコンバータとは
モードコンバータとは、異なるモードの光ファイバー間で光信号の変換を行うデバイスのこと。
モードコンバータを用いることで、異なるモード同士の適合性を確保することができます。そうすることで、通信品質の向上などに繋がります。
シングルモード/マルチモードの互換性や変換・接続方法について
シングルモードファイバーとマルチモードファイバーは主にコア径の違いによって異なる特性を持っています。
一見するとそれらを物理的に接続することは不可能のようにも思えますが、実は問題なく接続することができるのです。
異なるモードを接続する際に重要なことは以下の4点です。
- モードコンディショニング
モードコンディショニングは前述しました通り、異なるモード同士の接続を行う際に重要な役割を担っています。 - モードコンバータの使用
モードコンディショニングを使用したい場合に必要不可欠なのがモードコンバータ。
この2つは切っても切れない関係にあります。 - ハイブリッドアダプタの使用
シングルモードとマルチモードにはそれぞれ適したアダプタがあります。
ハイブリッドアダプタは、その両者を適切に接続することができます。 - 適切なパッチコードの選択
パッチコードを使用する際に、そのコア径やコネクタタイプが適合していることも重要です。
一般的には、モードコンディショニングパッチコード(MCP:Mode Conditioning Patchcord)を使用します。
MCPは、片端にシングルモードファイバー構造を持つマルチモードファイバーのこと。
例えば、1000BASE-LX準拠のトランシーバーとマルチモードファイバーケーブル間にMCPを接続することで、変換方法の項にて解説したDMD(信号を受信するまでの時間差)を軽減することができます。
以上を踏まえ、シングルモードとマルチモードを接続すると信号の損失を最小限に抑えて効率的な通信を実現することができます。
シングルモード/マルチモードの応用(アプリケーション)
シングルモードとマルチモードの違いで説明したように、シングルモードとマルチモードは、その性質が異なっていました。
モードによって光が伝播する場所が異なると、応用先(アプリケーション)も変わります。
ここでは、それぞれがどんなアプリケーションに応用できるのか、どんな場合におすすめなのかをご紹介します。
どちらを利用すべきか悩んでいる方は、より自分の目的と合致する方を選ぶ目安にしてみてください。
シングルモード
- アプリケーション
- 長距離通信(地域間通信や国際通信)
- 高ビットレート通信
- 高精度センシング
上記のようなアプリケーションを想定する場合や、高い信号品質およびコヒーレンスが求められる場合はシングルモードの導入を検討することが推奨されます。
マルチモード
- アプリケーション
- 短距離通信(LANやビル内通信)
- 産業用途(材料加工など)
- ビデオ・オーディオ伝送
上記のようなアプリケーションを想定する場合は、低コストで多様な光信号が利用でき多様な経路を通ることができるマルチモードが推奨となります。
まとめ モードの違いを理解して使い分けを
以上、シングルモードとマルチモードの違いを原理からその応用までご紹介いたしました。
これらに関する疑問や不安を解消することができましたら幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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