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【超短パルス】ピコ秒・フェムト秒レーザーの特徴や用途を詳しく解説

ピコ秒・フェムト秒レーザーとは、レーザーのパルス幅がピコ秒(1兆分の1秒)フェムト秒(1000兆分の1秒)単位で発振される超短パルスレーザーのことです。

レーザーの発振動作は、連続波発振動作とパルス発振動作にわかれます。

連続発振レーザーはCWレーザーとも呼ばれ、一定の出力を連続して発振します。
それに対しパルスレーザーは、パルス状(極めて短い時間だけの出力がパパパっと繰り返される)の出力を一定の繰り返し周波数で発振します。

ピコ秒・フェムト秒レーザーは、パルスレーザーの中でもとりわけパルス幅が短いレーザーとなります。

このページをご覧の方には、超短パルスレーザー(ピコ秒・フェト秒レーザー)について

「特徴や用途について詳しく知りたい」
「他のレーザーとの違いを知りたい」
「導入する上で必要な情報が欲しい」
「用途に合ったスペックのレーザーが知りたい」」

という方も多いのではないかと存じます。

ここでは、

  • ピコ秒・フェムト秒レーザー(時短パルスレーザー)の波長や特徴
  • ピコ秒・フェムト秒レーザー(時短パルスレーザー)の用途(アプリケーション)
  • ピコ秒・フェムト秒レーザー(時短パルスレーザー)の仕組み

について、詳しく解説いたします。

ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーに関する疑問はすべて解決できるよう、情報をまとめておりますので、ぜひご一読ください。

「そもそもレーザーとはどんなもの?」ということが気になる方は、ぜひこちらの記事も参考にしてみてください。

超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーの特徴

超短パルスレーザーは、単にミリ秒やマイクロ秒レーザーよりもパルスが短いだけでなく、様々な特性を持ちます。

その特性は、主に以下の2つがあります。

  • パルス幅の短さ
  • 発振波長の広さ

ここでは、この2つの特性についてそれぞれ解説させていただきます。

パルス幅の短さ

冒頭に申し上げた通りフェムト秒は1000兆分の1秒の途方もなく短い時間です。
レーザーの強度は

レーザー強度=パルスの強度/照射面積・パルス幅

という式で求められます。
つまり、同じエネルギーであればパルス幅が短ければ短い程、強度の高いレーザーが生成されます。

パルス幅の短さとレーザー強度の関係

現在、超短パルスレーザの主流とされるチタンサファイアレーザは、平均出力1W、ピーク出力100kWと高い出力を誇ります。
現在ではさらにこのパルスを増幅し、10^11W/cm2以上の強度を得ることが可能です。

このぐらいの超高強度になると、数ピコ秒程度で照射領域に急激にエネルギーが与えられ、熱が発生する前に元の材料から蒸発します。
このようなプラズマ蒸散等の現象は、レーザーの光エネルギーが熱に変わる前に発生します。

そのため、超短パルスレーザーによる加工をする際、加工が起こる領域は照射した領域に限定され、熱損傷を低減し、パルス幅の広いレーザーよりも遥かにきれいな加工を行うことが出来ます。

発振波長の広さ

超短パルスの発生の原理は、ハイゼンベルグの不確定性原理を基にした以下の式を考えることが重要です。

tp・Δv ≥ k
※光強度のパルス幅tp(半値全幅)とスペクトル幅Δv(半値全幅)

このとき、kはパルス波形に依存した1に近い定数です。

kが決まった値ということは、パルス幅を狭くするためには「スペクトル幅が広いレーザー」が必要です。

現在、長短パルスレーザーとして広く普及しているチタンサファイアレーザーは、660〜1180nmという幅広いスペクトルでの発振が可能です。
そのため、ピコ秒・フェムト秒のような非常に短いレーザーを発振することが可能です。

ピコ秒・フェムト秒レーザーの種類

レーザーには様々な種類があり、ピコ秒・フェムト秒レーザーはそれらのレーザーを超短パルスで照射することを指します。
材料・加工の精度・用途によって適切な波長や出力が異なるため、それによって使用するレーザーが使い分けられます。

レーザー波長特徴
チタンサファイアレーザー800nm

その名の通り、サファイアにチタンをドープしたチタンサファイア結晶を媒質とした個体レーザーの一種です。
ArイオンレーザーやYAGの2次高長波など500nm付近のレーザーで励起することで発光します。

発振可能な波長は、もっとも出力の高い800nm付近を中心に660-1100nmと範囲が広いのが特徴です。
モード同期という非線形光学現象を使用することで、数fsから数百fsという超短パルスレーザーを照射することが可能であり、代表的な、フェムト秒レーザーの1つです。

YAGレーザー1064nm
532nm
355nm
イットリウムとアルミニウムの複合酸化物から構成されるガーネット構造の結晶に、微量のネオジムを添加して得られる固体レーザーです。
YAGレーザーの波長は、1064nmですが、2次高調波(532nm)、3次高調波(355nm)なども利用できるため、プリント基盤の穴開け加工レベルの微細加工に使用されます。
シミそばかすをとるための美容系の”ピコ秒レーザー機器”には、YAGレーザーが使用されており選択できる波長が1064nmや532nmとなっています。
半導体レーザー808nm
940nm
半導体レーザーは、n型とp型の半導体に挟まれている「活性層」と呼ばれる層に電気を流した際の発光を利用してレーザーを発振させます。
活性層の材料によって波長が決まり、短波長側は、ZnSSe系が400nm〜、長波長側はInGaAsP系が〜2ummと幅広い波長を出せますが、加工に使用されるのは、出力の高い808nmや940nmです。
小型でメンテナンス性も高いため、幅広い用途で活躍しており、アルミなど、炭酸ガスレーザーやYAGレーザーで対応が難しい波長を必要とする材料などを効率よく加工するためにも使用されます。
F2レーザー157nmF2レーザーはレーザー媒体としてF2を用いた気体レーザーの一種です。
波長は157nmと市販されているレーザーでもっとも波長の短いレーザーの一つであるため、ピコ・フェムト秒レーザーの得意とする微細加工と相性が良いレーザーです。
熱に弱いポリマー樹脂などもF2レーザーを使用することで高い品質で加工することが可能です。

超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーの用途(アプリケーション)

超短パルスレーザーは前項でご説明したような「熱による損傷が少ない」といった特徴から、特に繊細な加工に向いていると言われています。

また、美容や医学の分野においても生体組織を精密かつ無損傷に蒸散することができる作用から、超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーが活用されています。

ここでは、そのような超短パルスレーザーの具体的用途(アプリケーション)と活用例について、詳しく解説していきます。

ピコ秒・フェムト秒レーザーを用いた加工

まずは超短パルスレーザー(ピコ秒・フェムト秒レーザー)が特に活用される加工の分野についてです。

ここでは特に活用されている

  • 微細加工
  • 種類を選ばない材料の加工
  • 透明媒質の3D加工

の3つについて解説します。

微細加工

超短パルスレーザー(ピコ秒・フェムト秒レーザー)による加工は、ここまででお伝えしたようにレーザーを照射した部分の超ピンポイント加工が可能で、周辺部分に損傷を与えません。
そのため、特に微細加工に適したレーザーであると言えます。

現代においては技術の発達により、精密機械の小型化が進んでいます。
それに伴い電子機器を制御する基盤もさらに小型化しています。

特に半導体の製造においては「薄膜」がつかわれており、ガラスやシリコン基板などの上に、ごく薄く平滑に膜を堆積させていきます。
このような加工がまさに微細加工の分野です。

ピコ・フェムトは大きさを表す単位であり、フェムト<ピコ<ナノの順に大きくなりますが、ピコ秒レーザーはナノ秒レーザーと比較し、約10分の1も細い加工が可能超ピンポイント加工が可能となる場合もあります。

種類を選ばない材料の加工

ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーなどの超短パルスレーザーは、出力を大きく取れることから他のレーザーでは加工が難しいあらゆる材料を加工することが可能です。

代表的なものとしてはSiC(炭化シリコン)やGaN(窒化ガリウムなどの)ワイドバンドギャップ材料(ワイドバンドギャップ半導体)があげられます。

バンドギャップとは、電子やホールが価電子帯から伝導帯に遷移するために必要なエネルギーのことをいいます。
つまりワイドバンドギャップ材料というのは、このバンドギャップが大きい材料のことで、加工にはより大きなエネルギーが必要ということになります。

超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーは高出力のレーザーであるため、このように加工が難しいとされる材料も加工することが可能です。

美容・医療分野における超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーの活用

美容・医療の分野では、ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーの高強度性による「生体組織蒸散」を利用し、シミの除去や若返り手術、眼科手術や精密レーザー手術に活用されています。

生体組織蒸散とは、簡単に言うとレーザー照射によりプラズマが発生し、そのプラズマが膨張するときに発生する衝撃波によって生体組織を破壊・除去する作用のことです。

う少し詳しくお話しすると、蒸散のときに発生する衝撃波は2度あります。
プラズマは超音速で膨張しますが、スピードが減速すると1回めの衝撃波が発生します。

その後もプラズマは膨張し続けるわけですが、そのとき生体組織には局所的な加圧状態と減圧状態ができ、それによりできるキャビティ(空洞)が気泡となって現れます。

この気泡のことをキャビテーションバブルといいます。

このようにして発生したキャビテーションバブルもまた、プラズマと同様に膨張することによって崩壊を起こし、これが2次的な衝撃波(光破断)となって、周囲組織を損傷してしまいます。

ここで重要になるのが、ピコ秒レーザーやフェムト秒レーザーの超短パルス性です。

プラズマによる生体蒸散が引き起こす組織損傷の大きさは、レーザーエネルギーの1/3乗に比例すると言われています。
つまり、レーザーエネルギーが低いほど、周囲組織への損傷が少ないということになります。

生体においてレーザーの照射により発生するプラズマは、パルス幅が短いほど低エネルギーで発生させることができます。
すると、衝撃波やキャビテーションバブルのエネルギーも減少することで、周囲組織への損傷を最小限に抑えることが可能です。

これが美容・医療分野における、超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーの優位性と言えるわけです。

結果として、患部周辺の組織損傷を限りなく抑えたいシミ治療などに利用されています。

理化学アプリケーションにおける超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーの活用

長短パルスレーザーはそのパルス幅の短さから超短時間での測定、分光に使用する事が可能です。
また、気体に照射すると異なる波長の光が発生するHGGや光パラメトリック増幅器と使用する事で短パルス波長可変レーザーを作り出す事も可能です。

  • 超短時間分光
  • HHG(高次高調波)
  • ポンプ・プローブ分光

ガラスのピコ秒・フェムト秒レーザー加工

選択的レーザーエッチング:Selective Laser Eteching(SLE)は、ガラスやサファイアのような透明な物体に複雑な加工する技術として用いられます。
ガラスの内部の加工を選択的に加工可能であるため、微細なレンズアレイや流路を作成することに向いており、光通信分野や医療分野での利用が注目されています。

選択的レーザーエッチング

選択的レーザーエッチングは、以下2つの工程で加工を行います。

①ピコ秒・フェムト秒レーザーを用いてガラスを改質。
②化学エッチングを行い、レーザーで改質した部分のガラスを除去。

ピコ秒・フェムト秒レーザーを用いることで、「高精度な加工ができる」、「加工表面を滑らかに仕上げることができる」などの利点があります。

SLEの用途例は以下の通りです。

  • マイクロレンズアレイ
  • マイクロ流路
  • 機能性ガラス部品

このように、超短パルスレーザーは美容から理科学用途、産業にいたるまで非常に幅広いアプリケーションで使用が可能なのです。

超短パルス(ピコ秒・フェムト秒)レーザーの発振原理

最後に、この超短パルスレーザーの発振原理について解説します。
発振の方法が変わると発生できるパルス幅も変わるので、合わせて覚えておきましょう。

超短パルスレーザーの発振は以下4つの方法があります。

  • 直接変調法(発生可能なパルス幅:〜ns、〜ps)
  • 外部変調法(発生可能なパルス幅:〜ns、〜ps)
  • モード同期法(発生可能なパルス幅:〜ps、〜fs)

それぞれ図を用いつつ、詳しく解説していきます。

直接変調法

LDの電流制御をON/OFFすることで、パルス光を発生させます。

直接LDの電流制御をON/OFFすることでパルスの波形を制御でき、ps~msの任意のパルス幅に変更することが可能です。
その特徴から、CWレーザーより熱影響を抑えられるため「穴あけ加工」や「光通信」に使用されることが多いです。 時短パルスレーザーの直接変調法

ただ、高出力の発振器のほとんどが後述する「外部変調法」になります。

外部変調法

CWレーザーのビーム出力を変調器を用いてON/OFFしパルス光を発生させることを、「外部変調法」といいます。

直接変調法と比較し、高周波数または高出力の発振器で使用されることが多いです。 超短パルスレーザーの外部変調法

モード同期(モードロック)法

モード同期法を活用することで、ピコ秒・フェムト秒のパルス幅が得られます。
これはほか2つの方法と比較しても最も短いパルス幅を発生させることが出来ます。

ピコ秒・フェムト秒レーザーの発振波長の広さで説明した通り、パルス幅を狭くするためには広いスペクトル幅が必要です。

レーザー内部では実は複数の波長が存在しています。
ただしそれぞれ位相が異なっている状態で打ち消しあったり強め合ったりして存在します。

位相は一定周期で動くものの現在の位置の事です。
波を想像して頂くとわかりやすいのですが、波は山と山が重なり合う事で強め合い、山と谷が重なり合うことで弱め合います。
波長も波と同じような動きをしており、 一般的なレーザーでは特定の波長のみを反射増強するような構造になっています。

モード同期法では、なるべく多くの波長の位相を合わせる(山と山の位置を合わせて強め合う)ことで、幅広い波長を含んだ強くパルス幅の短いレーザーを作る方法です。

位相が合った強い光を抜き出す方法としては、

①SAM(可飽和吸収ミラー)等の可飽和吸収体を使った方法
②Kerr効果とスリットを用いたKerrレンズモード同期

の2つが代表的です

可飽和吸収体

可飽和吸収体とは、弱い光を吸収し、強い光は透過する特殊な特性を持つ物質です。

そこにミラーを組み合わせたものがSAMで、弱い光は同じく吸収され強い光は可 飽和吸収体を透過し、ミラーで反射されます。
つまり位相が合って強め合った光のみを反射増強し、より強度の高いパルスを作り出します。

また、可飽和吸収体により反射するたびにパルスの弱い部分がそぎ落とされます。
結果として、波形はより細く鋭いものとなります。

可飽和吸収体に夜今日どの大きいレーザーの取り出し方

Kerrレンズモード同期は

Kerrレンズモード同期は、レーザーの強度によって屈折率が高くなるKerr効果を用いた方法で、可飽和吸収体によるレーザーの吸収(結果としてパルス幅の狭さの限界) を改良した方法です。

強度の非常に高いレーザーが非線形媒質に入るとKerr効果が起きレーザーは凸レンズを通ったように収束します(自己収束)。
つまり強い光はレーザーの中央に分布するようになります。

そこにスポット穴が空いているスリットを置くことで収束した強度の高いレーザー(位相が合い強め合ったレーザー)のみを取り出すことが出来ます。

Kerrレンズによる強度の大きいレーザーの取り出し方

どちらの方法も強め合った光のみを照射・増幅するのですが、何度も媒質中を透過するため 分散の影響も無視できません。

分散は波長による屈折率の違い、つまり位相の違いに影響するため、 位相を整える位相補償素子を組み合わせることで位相ずれを防ぎ、ピコ秒・フェムト秒のパルスを発生させます。

まとめ

超短パルスレーザーは、その極めて短い時間でのパルス発生が大きな特徴であり、

パルス幅の短さ、発振波長の広さを活かして、微細加工や美容、理科学用途、産業分野まで非常に幅広いアプリケーションで使用されています。

そのほか超短パルスレーザーの発振原理と、発振方法によるパルス幅の変化も解説しました。

ぜひ本記事で得られた知識を元に、超短パルスレーザーをご自身の事業に活かしてみましょう。

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