CO2レーザーとは気体レーザーの一種で、文字どおりCO2(炭酸ガス)を媒質として光を増幅させるレーザーです。
10.6μm と9.6μmの2つの波長を中心に、9.2-10.8μm程度の長い波長の赤外光を発生させることができます。
CO2(炭酸ガス)レーザーとは?特徴や原理から用途までわかりやすく解説

気体レーザーは、もともと固体レーザー等と比べて大きなレーザー出力を得ることができる(共振器の構造を大きくすることができるため)という特徴があります。
そのかわり、一般的にはエネルギー効率が悪いとされる気体レーザーですが、その中でもCO2レーザーはエネルギー効率が良いレーザーです。
このページをご覧の方には、CO2レーザーについて
「どんな特徴があるか詳しく知りたい」
「YAGレーザーなど他のレーザーとの違いを知りたい」
「購入を検討する上で必要な情報が欲しい」
という方も多いのではないかと存じます。
ここでは、
- CO2レーザーの波長や特徴
- CO2レーザーの用途(アプリケーション)/li>
- CO2レーザーの構造や発振原理
について、詳しく解説いたします。
CO2レーザーに関する疑問はすべて解決できるよう、情報をまとめておりますので ぜひご一読ください。
また、「そもそもレーザーってどんなもの?」ということが気になる方は、ぜひ以下の記事も参考にしてみてください。
CO2レーザーの特徴
冒頭でお伝えしたように、CO2レーザーとはCO2(炭酸ガス)を媒質として光を増幅させる気体レーザーです。
CO2レーザーの媒質に用いられる気体は、ヘリウムや窒素を混合した炭酸ガスとなっております。
一般的にエネルギー効率が悪いとされる気体レーザーの中では例外的にエネルギー効率が良いレーザーとされており、現在利用されている産業用レーザーの中で最も多く使われるのがこのCO2レーザーです。

CO2レーザーのエネルギー効率が良くなる要因は、窒素分子と二酸化炭素分子(CO2)分子の組み合わせであると言えます。
励起状態(分子のエネルギーが高い状態)の窒素分子の振動エネルギーは、二酸化炭素分子を反転分布状態(エネルギーが低い状態の分子の数よりも、励起状態の分子の数の方が多い状態)にするために必要なエネルギーとほぼぴったり一致します。
つまり、ムダなく効率的にエネルギーが使われるということになります。
CO2レーザの波長
CO2レーザーの波長は、 10.6μm と9.6μmの2種類を中心に、9.2-10.8μm程度の長い波長のレーザーです。
これは基本波長(1064nm)のレーザーと比べて10倍近く長い波長であり、一般的に利用されるレーザーの中ではもっとも長い波長帯をもつレーザーとなります。
CO2レーザーはこのように長い波長のレーザーを発振する特徴をもつため、レーザー加工の分野においては材料に熱をかけて加工することができます。
そのため、 透明な素材を含め金属や木材、ゴム、ガラスなど様々な素材を加工することが可能です。
詳しくはCO2レーザーの用途(アプリケーション)の項目でも述べていきます。
CO2レーザーの出力
CO2レーザーの出力は、連続波出力がミリワット (mW) 単位のものから百キロワット (kW) 単位のものまで、幅広く構築可能です。
さらに、回転式ミラーや電気光学スイッチといったQスイッチ(強いパルス光を得るために利用されるレーザー技術)を用いることで、ギガワット単位のピーク出力を得ることも可能となります。
CO2レーザーを加工などに用いる場合、例えば「金属加工に用いるにはどれくらいの出力が必要か?」といった疑問がよく生まれてきますが、一般的な金属(反射率が高くないもの)の場合に必要な出力はビーム経に依存します。
100um以下のスポット経による加工であれば、ワット(W)レベルで刻印程度はできますが、ビームが太ければ、キロワット(kW)レベルでも加工が難しい場合があります。
CO2レーザーの用途(アプリケーション)
CO2レーザーは、主に以下のような用途(アプリケーション)にて利用されます。
- 加工
- 製造
- 距離測定
- 医療
- 美容整形
それぞれ詳しく解説をさせていただきます。
CO2レーザーを用いたレーザー加工
CO2レーザーはここまででお伝えしたように、非常に長い波長かつ高出力のレーザーを生成することができます。
そのため、金属や木材などの加工だけでなく、
他のレーザーでは加工が困難であるガラスなどの透明な素材も加工することが可能です。

CO2レーザーを用いた加工は主に製造業で活躍しており、切断や穿孔を行うレーザー加工機、レーザー溶接が使われています。
また、レーザー径や出力を調整することで、 彫刻や刻印などの細かい加工も可能です。
様々な素材への加工が可能であるCO2レーザーですが、例えば
アルミ素材に対してはCO2レーザーは95%以上が反射されてしまいます。
そのような場合は、波長の異なるレーザー(アルミ素材の場合は、YAGレーザーなど近赤外以下のパルスレーザー)を用いる必要があります。
他のレーザー加工機と比較したCO2レーザーのメリット・デメリット
よくレーザー加工機に用いられるレーザーとしては、CO2レーザーの他に「ファイバーレーザー」「YAGレーザー」があります。
前述のように、加工の用途でもっとも多く使われるレーザーはCO2レーザーですが、それぞれ他のレーザーと比較したときにメリット・デメリットが存在します。
まずメリットとしてあげられるのは、以下のような点があげられます。
- 対応できる素材が幅広い
- 購入時の価格が比較的安価
逆にデメリットとしては以下のようなものがあげられます。
- 光を反射する素材の加工に向かない
- ガスの供給が必要でランニングコストがかかる
このように、幅広い素材に対応でき、比較的低コストで購入可能なCO2レーザーですが、アルミ素材のように、一部の金属素材はCO2レーザーの波長の光を反射してしまいます。
つまり、レーザー加工の分野において多くの場合CO2レーザーが用いられますが、CO2レーザーによる加工が適していない素材については他のレーザー(ファイバーレーザーやYAGレーザー)が用いられる。というイメージです。
CO2レーザーを活用したマイクロ流体デバイス製造
マイクロ流体デバイスの材料となるアクリル樹脂(PMMA)は、2.8μmから25μmの波長帯の赤外線を吸収するため、マイクロ流体デバイスの製造においてはCO2レーザーが多く使われています。
マイクロ流体デバイスとは、マイクロ流体力学にもとづいた技術を活用した機器に用いられるデバイスのことで、マイクロ流体力学とはマイクロスケールで流体を移動、混合、処理、分析する技術のことをいいます。


マイクロ流体技術の最たるものとしてはインクジェットプリンターがあげられます。
マイクロ流体デバイスは、小さいものでは5µm〜100μmというとても小さなサイズで、アクリル樹脂以外にもガラスやポリマーといった素材も用いられます。
このマイクロ流体デバイスは、レーザー彫刻の技術を用いることで製造が可能になり、特にCO2レーザーは上記すべての素材に対して直接マイクロ流体経路を形成することが可能です。
CO2レーザーを用いた距離測定とLiDAR

CO2レーザーは、大気中での吸収や減衰が少ないため、レーザー距離測定の用途でも使われています。
中でもLiDAR技術を使った軍事用のレーザーレンジファインダー(目標物に照射、その反射の度合いで目標物までの距離を一瞬で測定出来るという光学機器で、射撃などに用いられる)に使われています。
LiDAR技術とはLight Detection And Ranging(光による検知と測距)の略称で、赤外光のほか近赤外光や可視光、紫外線を使って対象物にレーザー光を照射し、その反射光をセンサーでとらえ距離を測定するリモートセンシング(離れた位置からセンサーを使って感知する)記述のことを指します。
CO2レーザーを用いたLiDAR技術は主に軍事用としてですが、代表的な活用例は自動運転技術です。
以下の記事では、LiDAR技術について詳しく解説しています。
CO2レーザーを用いた医療
CO2レーザーは医療現場において、レーザーメスや歯科治療、形成外科領域や皮膚疾患の治療につかわれています。
CO2レーザーの長い波長帯の光は水に吸収されやすいことから、生体組織へ照射することにより内部の水分が蒸発します。
レーザーメスの原理は、その破壊孔を通して脱水・収縮・炭化が起こることで切開・切除が行われるというものです。

切開・止血・蒸散が精密かつ高速かつ広範囲で可能とされており、 術中の出血も少なく、術後の腫れ、痛みも少ないことが報告されています。
CO2レーザーを用いたシミ・ほくろなどの除去
前述の医療の分野でも触れたとおり、CO2レーザーの長い波長の光は生体組織へ照射することにより内部の水分が蒸発します。
このメカニズムは美容分野でも活用されており、ほくろやいぼ、シミ、消えないニキビ跡の除去治療にも用いられます。

CO2レーザーを用いた治療は、肌の奥深くの組織や周りの皮膚に余計なダメージを与えません。
また、メスによる切開に比べ傷跡も残りにくいため、美容分野においては多く使われています。
CO2レーザーの照射によってシミ・ほくろが取り除かれるメカニズムは蒸散によるものです。
患部にCO2レーザーを照射すると、患部の細胞に含まれていた水分がレーザーを吸収することにより、蒸散作用で瞬時にシミ・ほくろを形成する組織を取り除きます。
また、レーザーを照射した患部は周囲の血管が熱凝固作用ですぐに固まるので、出血がほとんどありません。
さらに、炭酸ガスレーザーの蒸散作用は皮膚の表面側のみに作用し、深部には届かないので術後は早い段階で治癒します。
このような特徴をもつことから、CO2を用いたレーザー美容治療は大変人気となっています。
CO2レーザーの構造と発振原理
冒頭でお伝えしたように、CO2レーザーは炭酸ガスを媒質として光を増幅し放射する気体レーザーです。
レーザーの基本的なしくみとしては誘導放出があります。
誘導放出とは、励起状態(エネルギーが高い状態)の分子が、外部から加えられたエネルギーによってより低いエネルギー準位にうつり、その分のエネルギーを放出、それによってまたさらに励起状態の分子がひくいエネルギー準位にうつるという現象をくりかえすことをいいます。
つまり、繰り返される誘導放出によって生成された光エネルギーを取り出すことでレーザー光をつくりだすということになり、CO2レーザーはこの媒質に炭酸ガスが用いられているものです。
媒質となる炭酸ガスにエネルギーが加えられると、窒素分子と二酸化炭素分子が衝突することで共鳴励起状態となります。
ここで窒素分子と二酸化炭素分子のエネルギー交換が行われると、二酸化炭素分子も振動準位が高くなります。
基底状態(エネルギーが低い状態)の分子よりも多くの二酸化炭素分子が上準位に遷移すると、その領域は反転分布状態(エネルギーが低い状態の分子の数よりも、励起状態の分子の数の方が多い状態)となります。
反転分布状態となると、わずかな光子の通過や衝突によって誘導放出が連続的に発生し、レーザー発振します。
もちろんに参加炭素分子に電子が直接衝突することでもエネルギー受け取り反転分布の形成を促し、同様に誘導放出を引き起こしてレーザーを発振します。
CO2レーザーの構造

CO2レーザーは、
- 光共振器
- 炭酸ガス
- 放電・冷却装置
の3つの要素で構成されています。
光共振器
光共振器とは、>光が何度も往復するように鏡を配置した装置のことです。
レーザーにおける光共振器の役割は、光共振器内部に媒質を封入することで光を何度も往復させて誘導放出を起こすことです。
CO2レーザーの光共振器は、低圧の炭酸ガスを封入した放電管の一端に全反射鏡(反射率がほぼ100%に近い鏡)が、もう片方には半反射鏡(反射率が35〜60%程度の鏡)がおかれたものです。
また、放電管内の側面や両端には、放電用の電極がとりつけられています。
炭酸ガス
CO2レーザーの媒質となる炭酸ガスは、以下のような構成になっています。
- 二酸化炭素 (CO2) - 約10-20%
- 窒素 (N2) - 約10-20%
- 水素 (H2) またはキセノン (Xe) - どちらも約2-5%
- ヘリウム (He) - 残りの全成分
この混合ガスの成分は、メーカーによって多少異なります。
放電・冷却装置
レーザー加工機で用いられる大出力のCO2レーザーでは、光共振器内で放電することで媒質に励起エネルギーを与えます。
このときの電流は、工業周波数帯と呼ばれる(100kHz、2MHz、13.56MHzなど)高周波電流で、高周波の放電電流を断続させることでパルス波とされます。
周波数を調整する場合は、パルス波の長さを変化させ、デューティ比を変えることで可能になります。
レーザーを発振し続けると、混合ガスが劣化してしまうためダウンタイムを取って休ませる必要があります。
また同時に、ヘリウム原子が熱を帯びてしまうため、これを冷却する必要もあります。
これらの劣化や温度上昇を防ぐために使われるのが冷却装置です。
混合ガスを封入しているガラス容器の側壁から、空冷や水冷によって冷却するタイプと、外部に冷却機構を設置してガスを循環させるタイプがあります。
出力が小さいCO2レーザーは混合ガスが放電管となるガラス管に封入されているものが多いため、前者のタイプが用いられますが、大出力のCO2レーザーは放電管にガスが封入されないものが一般的になりますので後者のタイプの冷却装置が用いられます。
2種類のCO2レーザーとそれぞれの発振原理
前項で、CO2レーザーには混合ガスがガラス管に封入されているものとそうでないものがあるとお伝えしましたが、それぞれ
- ガラス製レーザー発生管(同軸型導波構造)
- スラブ型(平行平板型導波構造)
と呼ばれています。
ガラス製レーザー発生管(同軸型導波構造)

放電方向・ガス流方向・光の取り出す方向が同一である方式をガラス製レーザー発生管(同軸型導波構造)といいます。
主に小出力のレーザーを発振したい場合に利用されるタイプで、以下に解説するスラブ型と比べて低コストなのが利点です。
ガラス製レーザー発生管(同軸型導波構造)には、最初から封入している封じ切り型、ガスを流入して循環させる軸流型に分けられます。
封じ切り型は安定したモードのレーザーを取り出すことができる点、軸流型は出力を上げることができる点がそれぞれ利点となります。
その反面、ガラスを利用するため劣化・破損する場合もあります。 封じきり型に関してはガラス管内に封入されたガスを入れ替えることがないため、ガス劣化に伴い性能は低下(定期的にガスチャンバを交換することで維持が可能)しますし、軸流型はブロワーなどによりガスを強制循環するため、ガス流れが振動するためビームの安定性が劣るというデメリットもあります。
スラブ型(平行平板型導波構造)

スラブ型(平行平板型導波構造)はガスの流れる断面積を大きくして、冷却能率を高めることができるため比較的大出力レーザで用いられています。
ガラス管と比べて連続運転が可能だったり、高品質なレーザー形成が可能であったりと利点が多いです。
デメリットとしてはやはり、ガラス製レーザー発生管(同軸型導波構造)と比べて コストが高いということがあげられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、CO2レーザーについて特徴や用途、しくみについて解説させていただきました。
弊社では半導体レーザーを中心とした各種レーザー製品を取り扱っており、用途に応じた様々な製品をご提案しております。
レーザー製品に関してご不明点やご要望などありましたら、お問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせいただけますと幸いです。
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