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KLV大学 レーザーコース

冷却原子を用いた量子センシングにおけるレーザー活用

原子をレーザー冷却により超低温(μK)まで冷却することで、原子が持つ波の性質(量子的性質)を扱いやすくすることができます。
結果、超高精度・高感度な物理計測に用いることが可能になります(原子干渉計)。

光は波としての振る舞いから干渉することが知られていますが、原子は光と異なり質量を持つことから、時間、重力、慣性などの物理計測に応用されています。
当記事では、冷却原子を利用した量子センシングにおけるレーザーの活用方法について解説します。

記事前半では、量子センシングの「基本原理」をお伝えします。
後半では、量子重力計(マッハ・ツェンダー型原子干渉計)を例に「具体的なレーザーの活用」を、操作の流れに沿ってご紹介していきます。

冷却原子を利用した量子センシングの基本原理

原子の基底状態(最も安定したエネルギー状態)は、ごくわずかにエネルギーの違う複数の準位に分かれています(超微細準位)。

ルビジウム87(87Rb)原子では低いエネルギー準位(F=1)と高いエネルギー準位(F=2)の間に、約6.834GHzの差があります。
そしてレーザーを照射することで、その2つの超微細準位を行き来させることができます(詳しい仕組みは後述)。

2本のラマン光により重ね合わせ状態をつくる

2本のラマン光の周波数差をF=1とF=2のエネルギー差に合わせ、照射時間を適切に制御すると、1つの原子の状態が丁度F=1とF=2の割合が半々になるタイミングがあります。

ここで注意したいことがあります。これは、原子集団の50%がF=1からF=2に励起するという意味では無いということです。あくまで1つの原子がF=1である状態とF=2である状態を、丁度50%ずつ含む重ね合わせ状態になります。

観測すると、原子はF=1かF=2いずれかの状態に確定されます。しかし確定するまでの間、原子が2つの波として存在し、互いに干渉します。
つまりその干渉結果が「位相」として現れ、観測した時点でF=1/F=2いずれかの状態に確定するという仕組みです。

この操作を大量の原子で同時に、かつ条件を変えて複数回行うことで、位相の状態を「割合」として算出し、計測に利用します。

量子センシングの基本的なレーザー活用形(量子重力計を例に)

では、具体的なレーザー活用について解説します。
目的やアプローチにより各部には差異がありますが、様々な研究事例を元に整理しています。

ここではまず、量子重力計を例に基本構造を解説します。
全体の流れは、準備をした上で、下記3つのプロセスを踏みます。

① 分ける(各原子を運動量の異なる2つの波に分け、異なる経路を通過させる)

② 折り返す(分けて異なる経路を通過したものが再び合流するように向かわせる)

③ 合流させ干渉させる

では、順に見ていきましょう。

各操作の基となるレーザー光をつくる

量子センシングでは、各操作にレーザー光を用います。そこでまず必要になるのが「目的の波長のレーザー光をつくる」ことです。
ルビジウム原子を量子として使用する場合は、D2線に対応する780nm付近のレーザー光がよく用いられます。

一般的には1560nmの波長のDFBレーザーを種光(シード光)として使用し、光増幅器を通した後PPLN(周期的分極反転ニオブ酸リチウム)を通すことで周波数が倍化した結果780nmのレーザー光を得ます。

1560nmレーザーダイオード (10mW-100mW)

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中心波長1560nmの近赤外ファイバーレーザー。3つの出力ラインアップ、DFBシングルモード(10mW、30mW、100mW)から選択できます。

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また、レーザーの駆動電源は低ノイズであることが求められます。

低ノイズリニア電源 UltraPS

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極めて低いノイズレベルで安定した直流電圧を供給する電源装置。 シングル、ダブル、トリプルの電圧出力モデルをラインナップ。

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直接780nmレーザーを使用せず、あえて1560nmのレーザーが使用されている理由

最初から780nmのレーザーを使用すればシンプルになるはずですが、
背景として波長1560nmのDFBレーザーは通信波長帯(Cバンド)の枯れた技術が使えるというメリットが大きく、また高出力です。
また、ファイバー化できるため、比較的振動にも強く堅牢な光学設計が可能です。

それら条件が問題ない場合は、780nmのDFBレーザーが直接用いられることもあります。

MOTで捕捉し冷却する

必要なレーザー光の準備ができたら、次は原子を「冷却」する機構を構成します。

室温の原子は秒速数百メートルという高速で運動しており、このままでは干渉計に使用できません。
そこで、磁気光学トラップ(MOT)により原子を捕捉した状態でレーザー冷却を行い、その後MOTを解除し光モラセスやサブドップラー冷却を組み合わせてμKオーダーまで冷やします。

それにより、干渉計に利用できる準備が整います。具体的には次のような効果が得られます。

  • 原子の速度が小さくなることでド・ブロイ波長が長くなり、物質波としての性質を扱いやすくなる。
  • 測定時間を長く取れるようになり、感度が向上する。
  • 各原子の速度のばらつきが減り、干渉信号のコントラスト低下や位相分散が抑えられる。

光ポンピングで準位を揃える

初期状態では各原子のエネルギー準位(ゼーマン副準位)はバラバラです。
そこで、光ポンピングという操作で、これを揃えます。

原子に光を当てると光子が吸収され励起し準位が上がり、その後放出され基底状態に落ちます。
そこで、狙う特定の準位に落ちた原子だけは光子の吸収をしなくなるよう、照射するレーザー光を調整しておきます。
光を当てても特定の準位に落ちた原子は光子を吸収しなくなるため、これを続けることで各原子が同じ準位に揃えることが可能です。

※重力系では磁場の揺れに影響を受けにくいmF = 0のゼーマン副準位を用い、逆に磁力計用途では感度の高いゼーマン副準位を使用する等、目的に応じて調整します。

① MOTを解除し、原子をF=1とF=2の重ね合わせ状態にする(π/2パルス)

ここからが計測の中心となる操作です。
MOTを解除した後、2本のラマン光の周波数差をF=1とF=2の超微細準位差に合わせ、π/2パルスとして照射します。これにより、各原子はF=1とF=2を50%ずつ含む重ね合わせ状態になります。

重力センサーの場合、縦方向に対向したレーザーに対しミラーを使い下から上に、上から下に当たるようにします。

このとき、上下のレーザー光の中にF=1とF=2の準位差(ルビジウム原子の場合6.834GHz)と同じ周波数差を持たせておきます。
すると、原子は片方のラマン光の光子を吸収し、もう一方のラマン光へ誘導放出します。
この2本の光の周波数差がF=1とF=2のエネルギー差に対応しているため、F=1にある原子をF=2へ遷移させることができます(ラマン遷移)。
この6.834GHzの差を持たせるためにレーザー光を変調させる場合、EOM(電気光学変調器)等を使います。

ただし、対向するラマン光では、原子に上向きの運動量を与えるラマン過程と、下向きの運動量を与えるラマン過程の両方が成立し得ます。
この両方が同時に起こると、原子集団全体としては運動量移行の向きが混在し、干渉計に必要な「一定方向の経路分離」を作りにくくなります。

そこで活用されるのがドップラー効果です。
自由落下する原子では、原子から見た上向きの光と下向きの光の周波数がわずかに異なって見えます。そのため、2本のラマン光の周波数差を適切に調整することで、上向きまたは下向きのどちらか一方のラマン過程を選択的に共鳴させることができます。

落下し加速していくドップラーシフトに追従して周波数を合わせ続けるために、MHz単位での掃引(チャープ)に向いているAOM(音響光学変調器)が用いられます。
またAOMは、光のON/OFF、強度制御、パルス整形にも使われます。

ファイバーカップルAOM(音響光学素子)

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例えば、上から下向きに進む光を吸収させ、下から上向きに進む光へ誘導放出させるように調整すれば、原子に対して下方向の運動量を与える、つまり下向きの速度を与えることが可能になります。

この運動量差により、2つの原子波束は縦方向にずれた異なる経路を進みます。その結果、それぞれの経路で蓄積される位相が変わり、重力の影響が位相差として現れます。

②折り返す: 倍時間レーザー照射し、F=1とF=2を入れ替える(πパルス)

次に、先程当てたレーザー光の倍の時間照射します。するとF=1の原子はF=2に、F=2の原子はF=1に遷移します。(ラビ振動)

③ 合流させ干渉させる:レーザーを照射し2つに分かれた波を合成(π/2パルス)

②によりF=1とF=2を入れ替えた後、同じ落下時間を経過すると2つに別れていた原子の波がまた同じ位置に来ます。このときレーザーを照射することで、波が足し合わされます。

2つの波は干渉により強め合ったり打ち消しあったりし、結果が確定します。
分かれていた期間に生じた位相差により、F=1とF=2の状態が確率として現れます。

読み出しは蛍光イメージングによる規格化

計測は蛍光を観察し、光る原子の割合を明るさの比として取得し、その割合が位相の状態を統計的に表すよう構築します。
読み出しでは、状態選択的な検出光を照射し、F=2にある原子からの蛍光を測定します。次に残り分の蛍光を測定することで、光の強さの比率が算出できます。この操作は規格化(ノーマライズ)と呼ばれ、原子ガス全体の総数の揺らぎを大幅に抑え、干渉結果(位相)を統計的な「確率」として高い精度で読み出すことができます。

また、1回の測定では干渉縞のどの位置にいるのかが特定できません。実際の運用では、AOMやEOMを制御してレーザーの位相を少しずつずらしながらこの測定を繰り返し、干渉フリンジ(正弦波の曲線)を描き出すことで、その中心値から絶対重力加速度(g)を高精度に逆算します。

【まとめ】量子重力計におけるレーザーの役割

  • 780nmのレーザー光をつくる(1560nm種光 → 光増幅器 → PPLN)
  • MOTで捕捉し、μKオーダーまで冷却する
  • 光ポンピングで準位を揃える
  • ①ラマン遷移で原子を重ね合わせ状態にし、波を2つに分ける(EOM・AOM)
  • ②倍の時間照射し、F=1とF=2を入れ替える
  • ③波を合成し、位相差を確率として読み出す(蛍光イメージング)

その他の量子センシング

ここまで重力計を例に原理を見てきました。
冷却原子を用いた量子センシングの強みは、同じ原子干渉計の原理が、測りたい物理量に応じて多様なセンサーへ展開できる点にあります。
干渉計に何を位相として刻ませるかを変えるだけで、用途が変わります。
ここからは、代表的なものを簡単にご紹介します。

量子ジャイロセンサー

基本的な考え方・構成は重力計とよく似ています。
差としては、重力計が加速度を測るのに対し、ジャイロセンサーでは回転(角速度)を測るということです。
経路が囲む面積に比例して回転が位相に現れる(サニャック効果)ため、原子の経路が面積を囲むよう配置する点が重力計と異なります。

レーザーの使い方としては、冷却・状態準備・読み出しの基本は共通ですが、回転を捉えるため経路が面積を囲むよう構成されます。

量子重力勾配計

重力計がある1点の重力(g)を測定するものであることに対し、重力勾配計は、重力が場所によってどれだけ変化するか(重力の勾配)を測定します。
高さの異なる2箇所の重力差を測定することで、地下の密度異常を検知できます。
その特性から、金属探査・埋蔵資源の探査・地下構造の検査(空洞等の検知)等を行うことが可能です。

基本的な原理・レーザー機能は重力計と共通です。

加速度計・慣性センサー

加速度を干渉位相として読み取るもので、ジャイロ(回転)と組み合わせることで、外部基準に頼らない慣性計測(慣性航法)を目指す動きがあります。
レーザーの機能構成は重力計と共通です。

これらはいずれも、レーザー冷却した原子の量子的な振る舞いを基盤とし、冷却・状態準備・操作・読み出しといった各段階を、目的に応じて制御するという点で共通しています。
測りたい対象が変わっても、その実現を支えているのは、精密に制御されたレーザー光に他なりません。

KLVでは量子分野で実績のある様々なレーザー製品を取り扱っています。
詳細スペックを含め掲載しておりますので、目的に合うスペックの製品を選定いただくことが可能です。

レーザーダイオードシリーズ

レーザーダイオードシリーズ

520nm~1650nmまでの可視から近赤外の波長域のレーザーダイオードをラインナップ。 お好みのレーザーダイオード、電源、パッケージをそれぞれ組み合わせてご選択いただけます。

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