UV-LED光源の「ハイパワー化」が実現!
紫外線ランプからの置き換え進む
2020.04.09 | UV照射器
今回は「UV-LED光源」にスポットを当ててお話していきます。
近年、紫外線ランプから紫外線LEDへの置き換えが進んでいます。
ですが、この動き少し遅いような気がしませんか?
例えば照明用途では、ランプからLEDへの置き換えは10年以上前から進められており、今ではほとんどの家庭用照明はLEDになっています。
ランプに比べてLEDの方が多くのメリットがあるため、広くLEDへの置き換えが推進されてきたという経緯です。
しかしかつての紫外線LEDには「出力が弱い」という大きな課題があり、ランプからLEDへの置き換えが足踏みされる状況でした。
現在は技術の進歩によって紫外線LEDの「ハイパワー化」が実現し、樹脂硬化を始め、照明や殺菌、センシング用途など様々な分野で活用されています。
当記事ではUV-LED光源と関わる大きな2つのトピック「紫外線LEDの市場動向」と「紫外線LEDの課題解消によるハイパワー化」についてお伝えしていきます。
UV LEDの市場動向
紫外線LEDはUV LEDとも呼ばれており、幅広い用途での活用が期待されていることから、パッケージLEDメーカーの関心が高まっています。
一般的に紫外線はその波長によって、UV-A、UV-B、UV-Cの3つに分類されます。
波長はナノメートル(nm)単位の数値によって表されるため、UV-A、UV-B、UV-Cもまた数値で区分されます。
紫外線の波長域
- UV-A(波長:320-380nm)
- UV-B(波長:280-320nm)
- UV-C(波長:200-280nm)
UV-A、UV-B、UV-Cそれぞれ光には特性があり、その特性が活かされる用途で活用されてきました。
例えばUV-Cの光は強い殺菌作用があるため浄水や空気清浄に用いられます。
これらの光を発するには「光源」が必要ですが、これまでは水銀ランプが使われていました。
近年はUV LEDパッケージの売り上げも向上し、今後世界市場も成長を続ける見込みです。
UV LED市場規模は、2017年に2億2300万ドルに達し、2017-2022にCAGR 33%で成長し、2022年には12億2400万ドルに激増する見込である。堅調なキュアリング市場の成長を別にすれば、表面殺菌、静水殺菌および流水殺菌が2018-2022 UV LED市場の成長原動力となる。
「UV LED市場、2022年に12億2400万ドル」より引用(最終閲覧日:2020年4月7日)
中でも市場を牽引するのは、UV-Cの光、すなわち殺菌用途での活用です。
市場の成長とともに、それぞれのメーカーの開発競争も進みつつある分野であると言えるでしょう。
紫外線ランプからUV LEDへの置き換え
従来紫外線を必要とする様々な用途では、光源として紫外線ランプが用いられていました。
紫外線ランプは水銀ランプの一種でもあります。
UV LEDはいくつかの技術的課題を含みながらも、水銀ランプに変わる光源として注目されてきました。
UV LEDのメリット
UV LEDはランプに比べて様々なメリットがあります。
またこれらに加え、近年話題になっている「水銀不使用」であるという点も大きな利点です。
水銀を用いた製品は環境負荷が高く、人体・環境を害するリスクもあるため廃棄方法も厳格に定められています。
水銀ランプと環境については、こちらの記事で触れた通り、環境保全の観点から「水銀に関する水俣条約」が採択されました。
一般照明用途における水銀ランプの製造や輸入・輸出が禁止になった点を鑑みても、今後の照明・光源はLEDに切り替わっていくことは明らかです。
UV LEDの課題
UV LEDは紫外線ランプに比べて多くのメリットがありますが、唯一「出力が足りない」という課題がありました。
平たく言うと「光が弱かった」のです。
紫外線ランプに比べてUV LEDは光の出力が足りないことは、UV LEDの活用の可能性を狭める大きな課題でした。
「硬化に時間がかかる」というケースも
例えば塗料や印刷インクの硬化といった「樹脂硬化」で用いる場合、紫外線照射器の光が弱いとUV樹脂が硬化しません。
また「硬化はするものの時間がかかりすぎる」という場合もありました。
液体樹脂に紫外線を照射すると光重合反応が起こり、UV樹脂が固体に変化します。この変化を起こすのに必要なエネルギーは「光源の出力×時間」で求めることができます。
硬化に必要なエネルギー = 光源出力 × 時間
出力の強弱によって硬化時間が決まります。
光源の出力が弱い場合、それに比例して硬化するまでに時間が必要になります。
どれだけ多くのメリットがあっても樹脂が硬化しなかったり必要以上に時間がかかりすぎる場合、つまり紫外線LEDでは目的のタスクの実行が困難な場合、紫外線LEDは実用的ではありません。
そのためこれまで紫外線照射器の光源は「紫外線ランプ」が主流でした。
出力が足りないとは?
樹脂硬化に限らず、紫外線LEDの光の弱さは様々な用途での実用化を妨げる大きな課題でした。
例えば紫外線LED、中でもUV-Cの光は強い殺菌作用があるため浄水や空気清浄に用いられます。様々な用途での活用が望まれていましたが、可能性が閉ざされている状態でした。
さて、これまで「光源の出力が足りない」といった表現を用いてきましたが、これは「発光効率」ひいては「外部量子効率」の問題です。
外部量子効率向上の歩み
外部量子効率は、平たく言うとLEDへと供給した電流に対して、どれほど光が外部へと放出されたかという割合を表します。
入力として素子に供給された電流あるいは光量子のうちどれだけが実際に素子外部へ光放出あるいは光電流という形で出力に寄与したかの目安を与えるもので、光電変換素子の性能を示す量として広く用いられており、通常百分率で表わされる。
コトバンク「外部量子効率」より引用(最終閲覧日:2020年4月7日)
かつてのUV LEDは様々な技術的課題によって、LEDパッケージやチップの外に出てくる光が弱かったのですが、これは「外部量子効率」の向上によって改善できます。
外部量子効率を求める式は次の通りです。
こちらの等式に表される通り「内部量子効率」や「電子注入効率」、「光取り出し効率」を伸ばすことで、外部粒子効率の向上が見込めます
3つそれぞれに課題がありましたが、いくつかの課題は解消しつつあります。
内部量子効率の向上
外部量子効率は供給電流に対して「外部」に出てくる光の割合ですが、こちらは電流に対するパッケージ「内部」で発生した光の割合を指します。
これは従来1%未満でした。
LEDへと供給した電流(電子の個数)に対して発生する光(光子の個数)があまりにも少なすぎたのです。
AlNバッファー層の貫通転位密度の低減により、AlGaN 量子井戸の内部量子効率(IQE)は0.5%以下から80%程度まで向上した。
平山秀樹「外研究課題「230-350nm 帯 InAlGaN 系深紫外高効率発光デバイスの研究」」より引用(最終閲覧日:2020年4月7日)
「1%未満」という従来の数値から「最大80%程度」にまで内部発光効率が上昇しました。
電子注入効率の向上
電子注入効率は多重量子障壁(MQB:Multquantum Barrier)を用いることで大幅に向上しました。
これは理化学研究所のプレスリリース「深紫外発光ダイオードの出力が7倍(15mW)の世界最高値を達成」が参考になります。
従来のシングルバリアからMQBを導入した結果が報告されています。
外光出力・外部量子効率に関して、従来のシングルバリアのLEDと比較した結果、250nmの深紫外LEDでは、外部量子効率が従来の0.4%から1.5%まで約4倍、紫外光出力は室温連続動作において従来の2,2mWから15mWまでの約7倍増加し、いずれも世界最高値を達成しました。
理化学研究所「深紫外発光ダイオードの出力が7倍(15mW)の世界最高値を達成」」より引用(最終閲覧日:2020年4月7日)
同プレスリリースでは電子注入効率が「推定で22%から85%程度に増加した」という報告がなされています。
UV-LED光源のハイパワー化が実現
外部量子効率 = 内部量子効率 × 電子注入効率 × 光取り出し効率
こちらの式で表される通り、内部量子効率と電子注入効率の向上によって、外部量子効率も向上しました。
光取り出し効率の向上などの課題は残るものの、従来の「ランプに届かない光量」という課題は解消され、殺菌やUV硬化用途の光源として、実用面で広く用いられるようになりました。
UV-LED光源のご紹介
弊社(ケイエルブイ株式会社)でも、水銀ランプからの置き換えを推進しております。
LEDはランプに比べ圧倒的に長寿命なため、初期導入コストに対しランニングコストが抑制できるという点や有害物質を含まないLED光源でありながら「最大30Wのハイパワー」というスペックによって、様々なお客様にご好評いただいております。
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弊社はUV-LED光源の取り扱いが長く様々なノウハウを蓄積しております。
ランプからLEDへの置き換えに関するご相談からUV樹脂硬化と紫外線に関わる技術的な疑問点の解消まで様々なご要望にご対応いたします。「お問い合わせ」よりご連絡ください。
UV-LED照射器 ALE/1
UV樹脂硬化用途を始め「水銀ランプ」からの置き換えに最適な紫外線照射器です。最大5種類のLEDを内蔵できるため、様々なピークを持つ複数の波長を出力できます。
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