水銀ランプの問題点
2020.04.07 | UV照射器, 水銀ランプ
2020年「水銀に関する水俣条約」の採択によって水銀灯(ランプ)が製造中止になりました。
紫外線ランプといった特殊用途での製品を除き、製品の製造及び、輸出・輸入も規制されます。
水銀ランプの一部製造・輸出入の中止が条約によって決定された背景には「環境保全」の思想があります。
今回は広く「水銀ランプ」にスポットを当てて、水銀ランプと環境について考えていきます。
そもそも「水銀ランプ」とは
ランプは大別すると電球、放電ランプ、LEDの3種類に分けられます。
このうち「放電ランプ」に属する製品が「水銀を使用したランプ」です。
水銀ランプは水銀灯とも呼ばれています。
水銀灯(すいぎんとう)は、照明の一種。ガラス管内の水銀蒸気中のアーク放電により発生する光放射を利用した光源である。高圧水銀灯と低圧水銀灯に分れ、通常水銀灯と呼ぶときは前者を指す。医療用で用いる場合は太陽灯とも呼ぶ。
Wikipedia「水銀灯」より引用
アーク放電によって発光するため、光と同様に強い熱も発することが特徴です。
日本では広く街灯、公園、体育館、グラウンド、工場などの照明器具に使用されています。
規制対象となる水銀ランプ一覧
条約によって規制されるのは、次に該当する水銀ランプです。
一般照明用
規制対象の種類 | 規制対象詳細 | 状況 |
---|---|---|
コンパクト形 蛍光ランプ |
発光管1本当たりの水銀の含有量が5mgを超えるものであって、定格消費電力が30W以下のもの | 規制済 |
電球形 蛍光ランプ |
規制済 | |
直管形 蛍光ランプ |
1個当たりの水銀の含有量が5mgを超えるものであって、定格消費電力が60W未満のもののうち三波長形の蛍光体を用いたもの | 規制済 |
1個当たりの水銀の含有量が10mgを超えるものであって、定格消費電力が40W以下のもののうち、ハロりん酸塩を主成分とする蛍光体を用いたもの | ||
高圧水銀 ランプ |
- | 2020(令和2)年12月31日より規制 |
電子ディスプレイ用
規制対象の種類 | 規制対象詳細 | 状況 |
---|---|---|
冷陰極 蛍光ランプ 外部電極 蛍光ランプ |
1個当たりの水銀の含有量が3.5mgを超えるものであってその長さが500mm以下のもの | 規制済 |
1個当たりの水銀の含有量が5mgを超えるものであって、その長さが500mmを超え1,500mm以下のもの | ||
1個当たりの水銀の含有量が13mgを超えるものであって、その長さが1,500mmを超えるもの |
経済産業省「特定水銀使用製品、規制開始日及び主務大臣」を参考に作成(最終閲覧日:2020年4月2日)
高圧水銀ランプ以外は「規制済」となっていますが、これは「2018年(平成30)年1月1日」より規制が開始されました。
尚、高圧水銀ランプの中でも例外として「メタルハライドランプ」や「高圧ナトリウムランプ」は規制対象にはなりません。
一般照明用の高圧水銀ランプを除き、現在市販されている蛍光ランプやHIDランプなどの水銀使用ランプについては、すでに水銀含有量の基準をクリアするなど、規制対象の製品は存在しませんので、製造、輸出又は輸入禁止の規制を受けることはありません。
一般社団法人日本照明工業会「「水銀に関する水俣条約」の国内担保法による国内市販ランプへの影響について」より引用(最終閲覧日:2020年4月3日)
また「研究、計測器の校正及び参照の標準としての使用を目的とする製品」など条約で認められた用途があります。
主務大臣(上述の表の内容の場合「経済産業大臣」が該当)の許可を受ける必要があり、条約で許可された用途で使用されることが確実であると認められた場合、製造が許可されます。
このように一部例外はあるものの照明用途として用いられている水銀ランプの多くが規制対象となりました。
水銀ランプの問題点は?
規制されなかった製品もあるものの、世の潮流として水銀灯からLEDへの置き換えが進んでいるようです。
これは次の2つの理由が大きいと考えられます。
- 環境的な観点
- LEDの優位性
裏を返せば、水銀ランプには次のような問題があると言えるでしょう。
水銀ランプの問題点
- 環境汚染に繋がる
- LEDに比べて不利な点が多い
ここからはこれら2つの理由について、詳細に見ていきます。
水銀と環境汚染
水銀は常温では液体で存在する金属であり、中でもメチル水銀は水俣病の原因ともなりました。
水俣病は環境へと排出されたメチル水銀を魚が摂取し、これを人間が摂取したことによって生じます。
水俣病の事例に見る通り、毒性の高い水銀は環境を汚染するだけでなく、人間に取っても有毒です。
照明に用いられる「金属水銀」
水銀ランプを使ったことがある方は、その廃棄に苦労させられたのではないでしょうか?
それは勿論人体や環境にとって有毒な物質である水銀が使用されているからなのですが、水銀ランプに使用されている水銀は水俣病の原因となった「塩化メチル水銀」ではなく「金属水銀」です。
- 金属水銀:Hg0
- 塩化メチル水銀:CH3HgCI
元素記号をご覧になればわかると思いますが同じ水銀でも内容は全く異なっています。
金属水銀は気化しやすいのですが、そのガスを吸いすぎると、肺、腎臓、脳などが冒されます(参考:水銀の研究(いろいろな水銀))。
こちらも人体にとっては有毒であり、環境にも悪影響を及ぼします。
そのためランプメーカーによって蛍光ランプにおける水銀の封入量の改善が続けられてきました。
こちらは「蛍光ランプ1個当りの平均水銀封入量の推移」です。
1974年には50mgの封入量でしたが、2002年以降は10mg以下にまで抑えられています。
このようにランプメーカーによる継続的な努力によって、平均水銀封入量は大幅に減少しましたが、「水銀に関する水俣条約」により一般照明用の蛍光ランプの製造、輸出入は規制されることになりました。
水銀の世界的規制
「水銀に関する水俣条約」によって水銀ランプが製造停止となりました。
注意すべきは、水銀ランプ、もしくは水銀ランプに用いられている「金属水銀」が特別に問題視されているわけではないという点です。
環境保全の観点から「水銀の人為的な水銀の排出源」を減らし、人間や環境を守ろうという思想が根底にあります。
石炭利用などによる人為的な水銀排出が、大気や水、生物中の水銀濃度を高めている状況を踏まえ、地球規模での水銀対策の必要性が認識される中、「水銀及び水銀化合物の人為的な排出から人の健康及び環境を保護すること」を目的とした「水銀に関する水俣条約」が2013年10月に採択されました。
水俣条約は、先進国と途上国が協力して、水銀の供給、使用、排出、廃棄等の各段階で総合的な対策に世界的に取り組むことにより、水銀の人為的な排出を削減し、地球的規模の水銀汚染の防止を目指すものです。
環境省「水銀廃棄物の適正処理について、新たな対応が必要になります。」より引用(最終閲覧日:2020年4月2日)
水銀は毒性が非常に強いため、それ自体を規制することで環境汚染を防止します。
「水銀ランプ」もまた水銀を用いた製品であるため、規制の対象となりました。
LEDへの置き換え進む
かつての水俣病を含めた歴史的な経緯や環境汚染防止の観点から、一般照明用の水銀ランプは製造停止となり、水銀ランプからLEDへの置き換えが進んでいます。
人体・環境へのリスクがある水銀ランプに比べ、LEDにはそうしたリスクはありません。
とはいえ照明用だけに限らず、産業用途においても置き換えが推進されています。
これは何故かというと、LEDの方が圧倒的にメリットが多いからです。
LEDの優位性
例えば、車のヘッドライト。
こちらもハロゲンランプやHIDからLEDに置き換えが進んでいます。
それは以下の理由からです。
- 消費電力
- 寿命
LEDは消費電力が少なく、それまで用いられてきたハロゲンランプやHIDに比べ、圧倒的に寿命が長いという特徴があります。
つまりLEDへの置き換えは、環境的な観点からだけではなく、置き換える「メリット」が多いのです。
ヘッドライトに限らず、水銀ランプの場合も同様に置き換えることに多くのメリットがあります。
そのため各照明メーカーは、水銀ランプの条約による規制と規制開始日(平成30年1月1日〜)が決まった際に、LEDへの置き換えを推進していました。
LEDを導入する主なメリットは次の通りです。
水銀ランプからLEDに置き換えるメリット
- 消費電力を抑えられる
- 寿命が長いためランニングコストを削減できる
- 点灯に時間がかからない
- 虫の誘引性の低減
- 空調の抑制
ヘッドライトの場合と同様に、水銀ランプよりもLEDの方が、消費電力を抑えられ、寿命が長いためランニングコストの削減につながります。
また「すぐに点灯する」という点も大きなメリットです。
水銀ランプは点灯するまでに時間がかかっていましたが、LEDにはそうしたタイムラグはありません。
虫の誘引性の低減
「虫の誘引性の低減」とは平たく言うと「虫が寄りつきにくくなる」ということです。
皆様も、街灯や公園といった屋外の照明に虫が集まっている様子を見たことがあるのではないでしょうか?
ランプに虫が集まってくるは水銀ランプが虫の好む波長(光)を発しているからです。
具体的に言うと「紫外線」です。
紫外線は虫を寄せ付けるだけではなく、変色の原因にもなります。
目には見えませんが、白熱電球や蛍光灯は紫外線も出しています。そのため、まわりのものの色を変色させてしまうという悪影響がでることがあります。しかし、LEDは紫外線をほとんど出さないので、このような問題がありません。
長谷川竜生, 釜野勝, 上原信友「図解入門よくわかる最新LEDの基本と仕組み」(秀和システム)
空調の抑制
「空調の抑制」ですが、これは水銀ランプが熱を発していることに由来します。
水銀ランプはその発光方式から「光」だけでなく「熱」も発します。
夏場に水銀ランプに照らされた環境で作業する場合、水銀ランプの発熱によって室内が温められます。
これへの対応としてエアコン等の空調を効かせる必要がありますが、LEDの場合は水銀ランプほど発熱しません。
そのため、空調の抑制にもつながります。
このようにLEDは様々になメリットがあるため、置き換えが進んでいると言う状況です。
紫外線ランプの置き換え
弊社(ケイエルブイ株式会社)でもLEDへの置き換えを推奨しています。
環境保全の観点で問題があるため廃棄する場合は気を遣わなければならず、LEDに比べるとデメリットが多いからです。
紫外線ランプは規制の対象ではありませんが、LEDに置き換えることで消費電力やランニングコストの削減にもつながります。
また水銀ランプからの置き換えの際「光量が足りない」という点が問題視されていましたが、こちらの課題も解消されました。
詳細はこちらの記事に記載しましたが、現在はLEDの場合も、十分な光量を確保できるため、UV硬化の際にワークの深くまで届き硬化させることができます。
こちらの製品は「最大30W」のフルパワーUV-LED照射器です。
最大30Wの高出力!従来の放電ランプに代わる高安定のLED紫外線光源装置。
【Primelite】UV-LED照射器 ALE/1
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