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重水素ランプ(D2ランプ)の特徴・種類・アプリケーションを解説

本記事では、紫外線用の光源として利用されている重水素ランプ(D2ランプ)について、その構造、種類、用途や今後について紹介していきます。

重水素ランプの構造

重水素(D2)ガスを数百Paの圧力でバルブに閉じ込め、アーク放電によって点灯するアーク放電光源の一種です。水素分子による連続スペクトルを紫外域から可視光域に渡って広い範囲で放射することが知られています。

水素の同位体である重水素を使うのは、エネルギー効率が良いためで、通常の水素よりも照射強度が約3倍になります。

重水素ランプの構造
重水素とは

水素は、陽子1つと電子1つとで構成されますが、重水素は、原子核が陽子1つと中性子1つで構成されているため、陽子1つ、中性子1つ、電子1つで構成されます。重水素の元素記号は「2H」、「D」という形で表されます。

実際にランプに封入されているのは、重水素原子が2つ結合した分子(D2)で、常温において、無色無臭の気体です。
重水素の電子の軌道は水素と同じであり、重水素ランプでは、水素の電子殻のn殻からl殻の遷移(486nm)、m殻からl殻への遷移(656nm)により発生する光の輝線が得られます。

重水素ランプのバルブには石英やUV透過ガラスなどが利用されます。素材は目的に応じて必要になる紫外域の透過率によって使い分けられ、紫外域の透過率の高い順に、透過合成石英、溶融石英、非溶融石英、UV透過ガラスとなります。

重水素ランプの波長特性

重水素ランプは185nm~400nmの波長の連続光を放射する光源です。
185nm付近の短波長側の光強度が強く、400nmの長波長側に向かうに従い光強度が減衰します。

また、水素の電子軌道によって決まる波長帯(486nm, 656nm)に輝線スペクトルを持ちます。

d2-lump-wavelength.png

185nmの波長の光(電磁波)は、酸素をオゾンに変えるために必要なエネルギーを持っているため他の紫外線を放出するランプと同様にオゾンの発生への対応が必要になります。

発生するオゾンは、殺菌灯として利用することもありますが、それ以外の場合は、オゾンが活性酸素を放出し周辺の機器(特にゴムやプラスチック)を酸化させることで劣化させ、寿命を短くしてしまうことから、注意が必要です。
対策として、バルブにオゾンを発生する波長の光を吸収するオゾンレス石英を用いたものもあります。

重水素ランプの特徴

深紫外域を高出力で出力可能

紫外線を照射する光源として、キセノンランプ、水銀ランプ、UV-LEDなどがありますが、UV-Cと呼ばれる180-280nmの波長帯域においては、あまり高い出力を得ることができません。よって、UV-Cにおいて強い出力が得られる重水素ランプはUV-Cを必要とするアプリケーションにおいて有力な選択肢となります。

印加電圧が高い

重水素ランプは、バルブ内の圧力が高く、400~1500Vとかなり高い電圧をかけないと安定した連続光が得られません。そのため電源設備が大きくなる傾向があります。

光が安定するまで時間が必要

重水素ランプは、アーク放電を安定させるために熱陰極を用いる場合が多く、ランプが熱平衡状態に達するまで、数十分の時間がかかります。

この点は、こまめな点灯・消灯ができるLEDと比較して制御や寿命の面でデメリットとなりますが、180〜300nm付近波長帯域は、LEDの高出力化が難しいため、重水素ランプの活躍の場がまだ残されています。

光の安定性が高い

先ほど述べたように、熱平衡状態になるまでの時間が必要ですが、熱平衡状態になった後は、非常に光が安定する光源です。
ただし、陰極の劣化すると、少しずつ安定性も悪化するので注意が必要です。

出力の経時変化に注意が必要

重水素ランプは、バルブ(窓材)の劣化などにより光強度が徐々に弱くなります。2000時間程度で出力が元の半分程度になり寿命となります。

重水素ランプの用途

重水素ランプは、分光分析を主とする分析において深紫外をカバーする目的で使用されることが多いです。
以下に重水素ランプが使用される分析をご紹介します。

分光光度計 / 高速液体クロマトグラフ(HPLC)/濃度計/比色計

HPLCは分光光度計を含む分析装置の一種です。
分析対象となる試料(HPLCの場合は液体)に重水素ランプの光を当て、透過した光を分光して分析することで含まれている成分を特定することができます。

また、分光分析を活用した測定計として、濃度計算を行う濃度計や色の違いを測定する比色計などがあり、紫外域の測定や校正に重水素が使用される場合があります。

キャピラリー電気泳動

毛細管を意味するキャピラリーを用いて電気泳動を行い、それによって分析を行います。自動塩基配列解析装置(DNAシーケンサー)などで用いられていますが、キャピラリー内の泳動液に対して重水素ランプを光源として当てることで、分光分析を行います。

重水素ランプのアプリケーション(キャピラリー電気泳動)

排気ガス分析

排気ガス中に含まれる各種成分は複数の方法を組み合わせて分析を行います。例えば一酸化炭素(CO)は非分散赤外吸収法(NDIR法)などです。重水素ランプが用いられる紫外線を使った分析は硫黄酸化物(SOx)を対象に紫外線吸収法で行われています。また窒素酸化物(NOx)は分散形紫外線吸収法にても行われます。

医療分析機器

血中に含まれる各種物質の濃度を測定するのに使われています。特に透析治療を行う場合は治療前後の採血で確認しますが、透析量モニタリング装置には紫外線による分析が用いられていて、ここに重水素ランプが使われています。

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重水素ランプの今後と代替光源

重水素ランプ自体はバルブ内を高圧にする必要があることや高い電圧を必要とすることから、サイズが大きくなってしまう傾向があります。よって、据え置き型の大型機器などをメインとして使用されてきました。
これら、工場や病院など大型の装置の導入で導入されている物に関しては、紫外領域で高い出力を要するのため他光源への置き換えは、まだあまり進んでいないようです。

一方で、小型化、省電力が必要な、可搬性の高い分析機器に関しては、少しずつですが、代替用のLEDランプが開発されつつあります。先ほど紹介した透析量モニタにも深紫外線LEDを利用したタイプのものに置き換えられるケースがあるので、いずれはLEDに置き換えられていく可能性が高いです。

また、 分光分析という観点では、現在、180nm〜400nmの間を重水素、400nm〜2500nmをハロゲンでカバーする「重水素ハロゲンランプ」が使用されていますが、「レーザー励起白色光源」は、1つの光源で 190nm〜2500nmをカバーできる優れた光源であり、重水素ランプやハロゲンランプからの置き換えとして注目されています。

レーザー励起白色光源XWS-65

レーザー励起白色光源 XWS-65

レーザー励起白色光源 XWS-65は、一般的に高出力が難しい深紫外域から近赤外線までの広い波長域を持っており、更にこれらの波長を高輝度で、安定して出力することができます。

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