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肌のコンディションや施術効果は、血流状態と密接に関係しています。
そのため、血流を可視化することは、美容・ヘルスケア分野において大きな価値を持ちます。
一方で、血流状態を目視で評価することは困難であり、一般的には経験や感覚に基づいた判断に頼らざるを得ないという課題があります。

スペクトルカメラは、血液中のヘモグロビンが持つ光吸収特性を捉えることが可能であり、これにより皮膚内部の血管構造や血流状態を非接触で可視化することができます。
そのため、スペクトルカメラを用いれば、これまで曖昧であった「血流の良し悪し」や「施術前後における血流の変化」を客観的かつ定量的に評価することが可能となり、施術効果の把握や説明にも活用できます。

本事例では、スペクトルカメラとスペクトル解析を組み合わせることで、手の血管を強調表示することが可能かを確認しました。

スペクトルを用いた血管の可視化デモの内容

血管の可視化デモの概要

今回のデモでは、手の血管の可視化を目的としました。

血管構造や血流の状態は、美容やヘルスケアにおいて重要な指標である一方、肉眼では明瞭に観察することが難しく、評価が経験や主観に依存しやすいという課題があります。
そこで本デモでは、手をスペクトルカメラで撮影し、スペクトル解析を用いることで、血液中のヘモグロビンが持つ光吸収特性を利用し、血管構造を視覚的に捉えることが可能かを確認しました。

サンプル
スペクトルカメラ Classic/SWIR-640
スペクトル解析ツール

血管の可視化とヘモグロビンの光吸収特性

ヘモグロビンは、血液中に存在する代表的な色素成分で、特徴的な光吸収特性を持っています。
さらに酸素との結合状態によっても異なるため、血流状態の計測において重要な指標として利用されています。

ヘモグロビンの光吸収波長

ヘモグロビンは、波長ごとに異なる光吸収特性を示すため、その違いを利用することで血管や血流状態の可視化が可能となります。
ここでは、ヘモグロビンの代表的な吸収波長帯と、それぞれの特徴について整理します。

波長帯 特徴
可視光領域
(約400〜700nm)
ヘモグロビンの吸収帯が存在し、血液を色として視認しやすい領域
近赤外領域①
(約600〜900nm)
オキシヘモグロビン(HbO₂)とデオキシヘモグロビン(Hb)の吸収差が現れやすい領域。
近赤外領域②
(約900〜1100nm)
ヘモグロビンの光吸収は小さくなるが、皮膚透過性が高いので、比較的深部まで光が到達しやすく、血管の可視化に使用される領域。
赤外領域
(約1100〜1400nm)
水分の吸収が高いため、ヘモグロビンの光吸収の影響が相対的に低下しやすい領域。
皮膚組織の違いや微小なスペクトル差の抽出に利用できる。
赤外領域
(約1400nm以上)
水の吸収が非常に強くなるため、ヘモグロビンの吸収を観測するのが困難な領域

血管の可視化の目的に応じた波長の選定

ヘモグロビンの光吸収波長から、目的に応じて使用するべき波長帯が異なることがわかります。
ここでは、アプリケーション側から、使用する波長帯に関してまとめ直します。

血管の可視化・微細構造の強調

血管の位置や構造を可視化する場合には、主に900〜1100nmの近赤外領域が有効です。
この波長帯では、皮膚の透過性が高く、光が比較的深部まで到達するため、表面だけでなく皮膚内部の血管構造を捉えることが可能となります。また、血液と周囲組織との反射特性の違いにより、血管部分にコントラストが生じやすく、位置の検出に適しています。
一方で、1400nm以上の波長帯では水の吸収の影響が支配的となり、皮膚と血管のスペクトル差が小さくなってしまいます。

血管の血流・酸素状態の評価

血流状態や酸素供給状態を含めた可視化を目的とする場合には、600〜900nmの可視・近赤外領域が適しています。
この領域では、オキシヘモグロビン(HbO₂)とデオキシヘモグロビン(Hb)の吸収特性に差が現れるため、両者の比率をもとに血液の酸素状態を推定することが可能です。

ヘモグロビンと酸素の結合について

ヘモグロビンは、酸素と結合によって、以下の2つの状態に分類されます。

酸素と結合している状態

→オキシヘモグロビン(HbO₂)と呼ばれ、約850〜900nm付近で特徴的な吸収を持ちます。

酸素を放出した状態

デオキシヘモグロビン(Hb)と呼ばれ、約660nm付近で強い吸収を示します。

これにより、血管の構造だけでなく、血流の活性度や組織への酸素供給状態を定量的に評価することも可能です。

血管の可視化デモの手順

今回のデモの手順を以下に紹介します。

hyper-demo-grapes-flow.png

Step1スペクトルの測定

スペクトルカメラを用いて手の甲を撮影し、分光画像(スペクトルデータ)を取得します。

  • 被写体:右手の甲
  • 使用カメラ:Hyspex SWIR640
  • 取得データ:各画素ごとの波長別反射率

Step2スペクトルデータの確認

取得したデータから、皮膚と血管部分のスペクトルを比較します。

Step3血管の可視化(スペクトル処理)

次に、スペクトルデータに対してバンド帯の削除と二次微分処理を適用し、血管を強調表示します。

血管の可視化デモの環境(測定機器)

スペクトルカメラ

スペクトルカメラは、対象物の反射光や透過光を波長ごとに取得することで、通常のカメラでは得られない分光情報を取得できる装置です。 スペクトルカメラは、アプリケーションに応じて、波長帯域、空間分解能、撮影タイプ(動画・静止画)などの観点から選定することが重要です。

波長帯域

スペクトルカメラの波長帯域は、使用されるセンサーによって主に以下の2種類に分類されます。

  • 可視〜近赤外(VNIR):400〜1000nm(Siセンサー)
  • 近赤外〜短波長赤外(SWIR):1000〜2500nm(InGaAsセンサー)

可視領域のスペクトルカメラは、可視光を含むため直感的に理解しやすく、オキシヘモグロビン(HbO₂)とデオキシヘモグロビン(Hb)の吸収特性を捉えられることから、血流や酸素状態の評価に適しています。 一方、赤外領域のスペクトルカメラは、可視では得られない内部情報を取得可能であり、血管の可視化や微細構造の強調に適しています。

空間分解能/フレームレート

空間分解能とフレームレートは、スペクトル情報の取得密度を決定する要素であり、スペクトル画像の面内分布の詳細さに影響します。 より高い空間分解能でスペクトル情報を取得することで、細い血管を捉えることができますが、その一方で「データ容量の増加」、「カメラサイズの大型化」、「コストが高い」といったデメリットもあります。 また、視野(撮影範囲)を広くするほど測定点間の間隔が広がるため、解像度とのバランスを考慮した設計が重要となります。

撮影タイプ

スペクトルカメラには、静止画撮影を主とするタイプと、動画撮影に対応したタイプがあります。 施術前後の比較などであれば静止画でも十分ですが、施術中の変化をリアルタイムで観察したい場合には、動画対応タイプの選択が必要となります。 動画タイプが優れているように思われますが、「データ容量の増加」、「静止画タイプと比較して解像度が低い」、「コストが高い」といったデメリットがあるため、用途に応じた適切な選択が求められます。

目的や予算に応じたスペクトルカメラや測定方法の選択が、結果を大きく左右する重要な要素になります。
スペクトルカメラ選びは世界中のスペクトルカメラを取り扱うケイエルブイに お問い合わせください。

ハイパースペクトルカメラの選び方 2024年版

今回のデモでは、血管の可視化および微細構造の強調を目的としているため、可視光領域ではなく近赤外〜短波長赤外領域のスペクトルが取得可能なカメラからHyspex SWIR640 を選定しました。

Hyspex Classic SWIR-640

Hyspex SWIR640 は、960-2500nmという幅広い赤外領域の波長帯域を持ち、640pixelの空間分解能と140fpsのフレームレートから、血管構造を取得するのに十分な性能を有します。
また、高いS/N比を持ち、用途・環境を問わず、研究から産業応用まで幅広く活躍する機種です。微弱信号の検出や高速ライン検査でも高い評価を得ています。

波長範囲 960-2500nm
最大フレームレート 140fps
空間分解能 640画素
寸法 360×110×150[mm]
重量 4.1kg

ステージ

ステージは、反射測定を行うためのステージを使用しました。

手の反射スペクトル測定

上部から照明を当て、手から反射した光をカメラで捉えます。

ステージは、光源からカメラまでの光路の均一性の確保や振動が与える影響の低減、スペクトルカメラとの連携など高精度で再現性のあるデータを得るために重要な役割を果たします。
ケイエルブイでは、スペクトルカメラ、光源と合わせて適切なステージをご紹介します。
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光源

光源には、ハロゲンランプを使用しました。

ハロゲンランプは、可視光から近赤外領域(約350~2500nm)までの広い波長範囲にわたり、連続的なスペクトルを出力します。​この特性により、近赤外のスペクトル解析に適しています。
ハロゲンサイクルによってフィラメントの蒸発が抑制るので、ランプ光源の中では長時間にわたり安定した光を供給できる特性があり、分光分析のインライン計測でも頻繁に採用されます。

光源の選定は、測定波長をカバーしているかだけではなく、出力の強度、安定性、寿命などを含めスペクトル解析の精度の面でも重要です。
光源の種類は、ランプだけではなくLEDやレーザー励起光源など多岐に渡ります。ケイエルブイはスペクトル解析向けの専用光源なども取り扱っておりますので、ご相談ください。
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測定結果(取得スペクトル)

スペクトル

本測定により取得した分光データから、疑似カラー画像およびスペクトル特性を確認しました。

まずは、撮影した手の血管、皮膚、爪のスペクトルを以下に示します。

手の反射スペクトル

取得したスペクトルにおいて、1400nm以上の領域では、皮膚と血管のスペクトルはほぼ同様の挙動を示し、両者の識別は困難であることが確認できます。
これは、先にも説明した通り、この波長帯において水の吸収が支配的となり、皮膚と血管のスペクトル差が低減するためであると考えられます。

一方で、1400nm以下の領域で発生しているスペクトルの差は、「ヘモグロビンの吸収特性」および「皮膚組織との反射特性の違い」に由来するものと考えられ、これらの差異を利用することで血管の可視化の可能性が高いことがわかります。

擬似カラー画像

取得した分光データをもとに生成した擬似カラー画像を以下に示します。

手の反射スペクトル擬似RGB画像

擬似カラー画像では、波長ごとの反射特性の違いが色として表現されるため、皮膚や爪といった表面の組織の違いを視覚的に把握することが可能です。
ただし、この状態では、血管は特に強調されていません。

二次微分処理による血管強調の結果

取得したスペクトルデータに対して、優位差が存在しない1400nm以上の波長帯を除去した後、スペクトルに2次微分処理を適用しました。

手の反射スペクトル2次微分画像

2次微分処理は、スペクトルの変化の変化(曲率)に着目する手法であり、わずかな吸収や波長ごとの差異を強調することができます。 この処理により、血管に存在するヘモグロビンの吸収を可視化することを目的としています。

処理前の画像では、手の表面の質感や色の違いは確認できるものの、血管構造は明瞭には視認できませんでした。
一方、二次微分処理を適用した後の画像では、手の甲に分布する血管が明確に強調され、構造として認識できるレベルで可視化できています。

以上より、適切な波長帯の選定とスペクトルの二次微分処理を組み合わせることで、血管構造を明瞭に抽出できることを確認しました。

血管の可視化デモのまとめ

今回、スペクトルカメラとスペクトル解析を用いて、手の血管構造を可視化できるかの検証を行いました。

  • 主に1400nm以下の近赤外領域のスペクトルで皮膚と血管のスペクトルに差が発生することを確認しました。
  • 取得したスペクトルデータに対して「バンド帯の限定」および「2次微分処理」を適用することで、目視ではわからない血管構造を強調表示することができました。
  • さらに、スペクトル解析を用いた血流状態や酸素飽和度の測定など、美容・ヘルスケア分野への応用が期待されます。

ケイエルブイはスペクトルカメラや多変量解析の導入を検討されているお客様向けにデモサービスも行っております。
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