ミンチ肉や骨に光を当てると、ミンチ肉、骨は光を反射します。
この時、反射される光はミンチ肉と骨で異なります。
例えば、ミンチ肉は水分や脂肪が多く、光を吸収しやすいため、硬くて乾燥している骨片よりも一部の波長の光の反射が少なくなります。
この違いを人の目では見えない赤外線などを含めた、複数の波長でとらえると、ミンチ肉と骨の違いを検出することが可能です。
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お問い合わせ食品における「異物検出」は、消費者の安全確保と製品の品質維持の観点で重要な要素です。
例えばミンチ肉において、骨片が混入していた場合、消費者の口腔を傷つけるなどの健康被害を引き起こす可能性があります。また、そのような問題が発生すると、製品の信頼性が損なわれ、企業の評価や売上に悪影響を及ぼすことが考えられます。
そのため、「異物検出」は極めて重要な要素の1つです。
このようなニーズに対して、”非接触”で「異物検出」が可能な近赤外分光法が、非常に有効な手段として注目されています。
本記事では、スペクトルカメラと回帰解析を用いた食品における「異物検出」のデモ測定について紹介します。
ミンチ肉に意図的に骨片を混入させたサンプルを用意し、スペクトル解析を用いて混入した骨を適切に検出できるかを評価しました。
骨片に印をつけていますが、通常の写真では、骨片の判別が困難であることがわかります。
サンプル | ミンチ肉(骨付き豚ロースの骨を混入させたもの) |
---|---|
スペクトルカメラ | Hyspex 640VNIR |
スペクトル解析ツール | Resonon Spectronon |
ミンチ肉や骨に光を当てると、ミンチ肉、骨は光を反射します。
この時、反射される光はミンチ肉と骨で異なります。
例えば、ミンチ肉は水分や脂肪が多く、光を吸収しやすいため、硬くて乾燥している骨片よりも一部の波長の光の反射が少なくなります。
この違いを人の目では見えない赤外線などを含めた、複数の波長でとらえると、ミンチ肉と骨の違いを検出することが可能です。
スペクトルカメラを用いて以下のような違いに注目し、ミンチ肉内の骨片を検出します。
項目 | 骨 | ミンチ肉 |
---|---|---|
主成分 | 無機質(リン酸カルシウム)、コラーゲン | 水分、脂肪、たんぱく質 |
吸収特性 | 無機質が多く光を吸収しにくい → 反射が強い | 水分・脂肪が多く光を吸収しやすい → 反射が弱い |
1000〜1350 nm | 骨の反射率が高く、識別性が最も高い波長帯 | 脂肪・水分による吸収で反射が低くなる |
1450 nm | 水の吸収が少なく反射が残る | 水分が多く吸収が強いため反射が低い |
1700 nm 付近 | 脂肪・たんぱく質の影響が少なく、補助的識別に有効 | 脂肪・たんぱく質の影響で吸収が強い |
今回のデモの手順を以下に紹介します。
スペクトルカメラでミンチ肉を撮影し、900〜2500 nmなどの複数波長の反射スペクトルを取得。
骨と肉で反射スペクトルが異なる波長を選定。
選定した波長のスペクトルデータをもとに、スペクトル解析のSAM分類モデルを構築。
サンプルに対してSAMモデルを適用し、骨片の有無や位置を特定。
ミンチ肉内の骨片検出においては、骨が無機質を多く含み光の反射が強いのに対し、肉は水分や脂肪によって光を吸収しやすくなるため、1000〜1350nmや、1450nm〜1700nmの波長域で両者の反射スペクトルに明瞭な差が現れます。
この特徴を活用するため、900〜2500nmの近赤外線領域のスペクトルを取得可能なスペクトルカメラを使用しました。
さらに、近赤外線は可視光に比べ若干ですが肉の内部まで透過するため、外観だけでは判別が難しい骨片の検出においても有効です。
目的や予算に応じたスペクトルカメラや測定方法の選択が、結果を大きく左右する重要な要素になります。
スペクトルカメラ選びは世界中のスペクトルカメラを取り扱うケイエルブイに お問い合わせください。
今回は、多くの可視光領域のスペクトルカメララインナップから、インライン導入に適したモデルを選択しました。
HySpexのBaldurシリーズは産業向けに開発された高速撮影が可能なライン型のスペクトルカメラです。
シリーズ内で最も高い性能を誇るモデルである「V-1024」は、1024画素の空間分解能と1000fpsの高速撮影を誇ります。
波長範囲 | 400-1000nm |
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最大フレームレート | 1000fps |
空間分解能 | 1024画素 |
寸法 | 316x105x153[mm] |
重量 | 4.2kg |
レンズ | 30cm |
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ステージは、反射測定を行うためのステージを使用しました。
上部から照明を当て、ミンチ肉から反射した光をカメラで捉えます。
ステージは、光源からカメラまでの光路の均一性の確保や振動が与える影響の低減、スペクトルカメラとの連携など高精度で再現性のあるデータを得るために重要な役割を果たします。
ケイエルブイでは、スペクトルカメラ、光源と合わせて適切なステージをご紹介します。
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光源には、ハロゲンランプを使用しました。
ハロゲンランプは、可視光から近赤外領域(約350~2500nm)までの広い波長範囲にわたり、連続的なスペクトルを出力します。この特性により、近赤外のスペクトル解析に適しています。
ハロゲンサイクルによってフィラメントの蒸発が抑制るので、ランプ光源の中では長時間にわたり安定した光を供給できる特性があり、分光分析のインライン計測でも頻繁に採用されます。
光源の選定は、測定波長をカバーしているかだけではなく、出力の強度、安定性、寿命などを含めスペクトル解析の精度の面でも重要です。
光源の種類は、ランプだけではなくLEDやレーザー励起光源など多岐に渡ります。ケイエルブイはスペクトル解析向けの専用光源なども取り扱っておりますので、ご相談ください。
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撮影したミンチ肉と骨片のスペクトルを以下に示します。
取得したスペクトルにおいて、1180nm~1230nmと1450〜1700nmで、ミンチ肉と骨のスペクトルの変化量に差があることがわかります。
原理の部分で想定された通り、主に、1200nm、1450nmの波長帯において、ミンチ肉に吸収のピーク(反射率の低下)があり、骨片はそれに比べると反射率が高いことがわかります。
これらの波長は、脂肪や水分の光の吸収波長であり、ミンチ肉内に水分や脂肪分が含まれrていることにより、反射率が低下していることが主な理由です。
また、骨片の無機質成分(リン酸カルシウム)が反射率を上げているという可能性も考えられます。
擬似RGBは、スペクトルの特定の波長を赤(R)、緑(G)、青(B)に割り当てた画像です。
スペクトル解析には、Resonon社が開発したハイパースペクトル画像解析ソフトウェア「Spectronon」を使用しました。
「Spectronon」は、特に簡易的なスペクトル解析に適しています。
他社製のスペクトルカメラで取得したENVI形式(.bip、.bil、.bsq)のスペクトルデータにも対応しており、平均スペクトルや標準偏差の表示、任意の波長をRGBに割り当てた偽色画像の生成や、単一波長のグレースケール画像の作成などが可能です。
さらに、SAM(スペクトルアングルマッパー)などの分類アルゴリズムを搭載しており、分類結果を視覚的に表示し、異なる材料や状態の識別が可能です。
「Spectronon」は、ハイパースペクトルイメージング向けのスペクトル解析ソフトウェアです。
擬色画像、グレースケール画像、SAMなどで取得したスペクトルイメージを可視化して分類などが可能です。
今回の試行では、骨とミンチ肉の反射スペクトルの識別性能を高めるため、特徴抽出に有効な波長帯を選定し、不要な波長帯を削除する前処理を行いました。
具体的には、スペクトル全体(900〜2500 nm)の中から、骨と肉に反射率差が現れている1180〜1230 nmおよび1525〜1595 nmの波長帯を切り出し、それ以外の波長を除外しました。
下図に、選択したバンドのみのスペクトルを示します。不要な波長帯を除くことで、ノイズの低減による識別性能の向上と計算コストの削減による高速化が期待されます。
さらに、スペクトルデータに対して二次微分処理を適用しました。
これは、反射値そのものの大きさを無視し、スペクトルの変化の傾向や急激な変化点(ピークや谷)を強調するための手法です。
特にミンチ肉と骨のように、スペクトルの形状は似ていても微細な変化に違いがある場合、二次微分によりそれらの差異を際立たせることができます。
下図に示すように、二次微分後の画像では、肉(赤)に対してと骨片(ピンク)が明瞭に視覚化されていることがわかります。この違いが、このあと適用する識別モデルに対して有効な特徴量となります。
本手法では、ミンチ肉中に混入した骨片を識別するために、スペクトル画像に対する二次微分処理を行った後、SAM(Spectral Angle Mapper)分類を適用しました。
SAM分類は、各画素のスペクトルベクトルと参照スペクトルとの間の角度(スペクトル類似度)に基づいて分類を行う手法であり、明るさなどの影響を受けにくく、物質の種類を反射のパターンから判別するのに適しています。
今回の試行において、赤色で表示された領域の一部を「肉」、灰色で表示された領域の一部を「骨」として分類モデルを作成し適用した結果、あらかじめ混入させた3つの骨の位置を正確に特定することができました。
今回、スペクトルの微細な違いを捉えてミンチ肉内の骨片を異物として検出できるかの試行を行いました。
ケイエルブイはスペクトルカメラや多変量解析の導入を検討されているお客様向けにデモサービスも行っております。
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